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アメリカンな食事

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「妙な和食ばかりリクエストして悪かった」

船長たちが笑いながら言って来た。

こういう時は、反省して言っているのではないだろう。

何か別な事を頼む前に、一回気配り(アテンション)入れているだけだ。

次のリクエストは

「明日は、イッツ・アメリカンな食事をやってみないか?」

であった。

「前大統領が来るんですよね。

 それを見据えて、一回本気のアメリカンを味わってみたいんで」

そう言われては、マツバラ料理長もやらない訳にはいかない。

アメリカンデーがこうして始まった。


翌朝、日本人たちは意表をつかれる。

「えーっと……いきなりこれ?」

目の前にはホットケーキがある。

「朝からホットケーキ。

 マツバラ料理長って、ハワイ出身だったかい?」

「ノー。

 あとこれはパンケーキだ。

 ホットケーキって、ベイクドの事かい?」

ホットケーキとは日本のみの英語である。

「あとはこれを好みでトッピングしてくれ」

「生クリームか……。

 朝から胸焼けがしそうだ」

「ノー!

 ホイップクリームだ」

「どっちでも良いじゃないか」

「こっちはブルーベリージャムか」

「こっちはメープルシロップね。

 マツバラさん、普段使わないものを在庫処分とばかりに、思い切って出して来ていませんか?」

料理担当は食糧の備蓄管理も担当している。

以前の長期隊で、コーヒーと共に補給された練乳が余りまくっていた時、数日連続で練乳を使った料理が出されてウンザリさせられた事があった。

宇宙空間の低温を利用し、特に電力を使う事もなく冷凍保存が可能ではあるが、それでも使われる事なく倉庫の場所取りになったり、結局廃棄するよりは、飛行士たちに不評でも全部使い切ると判断するのも料理担当の特権である。

それもあってか、ここぞとばかりに甘い物を出して来たというのは否めない事実だ。


なお、朝から甘いものを食べるのはアメリカ人だけではない。

オーストリアのホテルでは、朝食バイキングでケーキのスペースが8割、普通のパンや卵、ベーコンやソーセージのスペースが2割という事もあった。

日本人は、朝から甘い物を食べられない事はないが、朝から甘ったる過ぎる物はちょっと敬遠する。

場所的にハワイとか、気持ちが切り替えられているなら、朝からパンケーキやアサイーボウルなんかも大丈夫だが、心の準備が出来ていないと胃が受け付けない。


「なんか普通にベーコンエッグとか食べたかった。

 スクランブルエッグでも良い」

彼等が期待していたのがそれであった。

「了解した。

 希望の料理をアメリカンで提供しよう」

そして出されたものが

「このベーコン、かなり分厚い……」

「目玉焼きは両面焼きか」

無重力ではフライパンに「落とす」事は出来ず、熱した鉄板で挟み込んで焼く為、片面焼きはむしろ難しい。

その辺は分かっていた日本人飛行士たちだが、両面焼きながら中が半熟トロトロな事には衝撃を受ける。

そして

「味付けは塩コショウのみ?」

「凄くシンプルだな。

 日本人好みだよ」

「アメリカンな味付けじゃないのかな?」

そんな感想を漏らす。

だがマツバラ料理長は

「言っとくが、我々はいつでもゴテゴテした味付けをしないよ。

 日常の料理は塩だけ、なんて普通ですよ」

と答える。

シンプルな料理だけに、腕の良さがよく分かった。

「生の卵の黄身は汚染されているから危険だ」

と思うアメリカ人だけに、卵黄にしっかり熱を通すのは当然なのだが、それでもフォークで刺したら黄身が崩れて流れる「オーバーイージー」、半熟だが黄身はしっかり固まっている「オーバーミディアム」、両面焼きでしっかり固焼きとした「オーバーウェル」と焼き方にこだわりがあったりする。

いつも食べている料理だけに、焼き方はステーキ並に種類があるのだ。

そして「生卵は怖い」というアメリカ人も、半熟で卵の味を楽しみたいという欲求があり、その味を引き出す塩加減を知っているというのは、日本人たちには新鮮な驚きと言えた。


夕食は料理の種類としては日本人の想定通りである。

前大統領の好物、ハンバーガーだ。

だが

「なんだ、このサイズは!」

今までマツバラ料理長からハンバーガーを供された事はあった。

だが、今日のは驚く程のサイズである。

「アメリカでは、まあまあのサイズだ」

バンズからはみ出すパテ、それが数段重ね。

日本人の口では入り切らない厚さ。

「よくこんな量のひき肉が残っていたね?」

「それは大豆ミートを混ぜています。

 まあ、あの前大統領閣下はお気に召さないでしょうがね」

ちょっと棘がある口調だが、宇宙生活で大豆ミートはこの後重要な食材になるだろうし、それでハンバーガーを作るのは良い事だ。

「こんな大きいハンバーガーを作れるのに、普段食のは本国の方で用意するって、どういう事だろう?」

「あの方は、分厚いパテがお望みのようで」

オーブンを使ってじっくりと中まで火を通すハンバーグ。

大豆ミートなんて姑息な技を使わず、全部ひき肉を使う。

あるいは某チェーン店の味。

あの味から1ミリも外に出ない味。

それでなければ満足されない。

高熱を嫌う宇宙ステーションにおいて、鉄板で挟んでいく方式では分厚いハンバーグは焼けない。

薄いパテを多重重ねするのは気に入らない。

そういう事のようだ。


「そしてフレンチポテトだ」

「フライドポテトの事か?」

「ノー、フレンチポテトと言ったら、フレンチポテトだ」

「マツバラ料理長……」

「何ですか、船長(キャプテン)

「昨日の意趣返しに、わざとこういう料理にしてないか?

 言い回しが違うとか、日本人の思い込みと違うとか、アメリカン過ぎるとか」

「それを望んだのは貴方たちでは?」

そう言われると返す言葉もない。

日系人と言えど、国籍はまごう事無きアメリカ人。

日系アメリカ人は、アジアやヒスパニック系の移民よりも過剰にアメリカに溶け込もうとし、国家に忠誠を誓う傾向にある。

日本人からちょいちょい発せられる

「アメリカの料理は大味だからなあ」

「ゴテゴテした味付けが大好き」

「蛍光色のケーキを食うような連中」

「味覚音痴のイギリスの分家」

という意識に対し、アメリカ人として

(いつかギャフンと言わせてやる)

という秘めたる思いが、この日達成されたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  イギリスの飯が不味いのは、野菜・骨・魚・etcなどからの『旨味』を得る工夫、その類の調理をしなかった、からだそうです。  で、アメリカ料理を考えるに――  まずは問答無用の物量、甘味は徹…
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