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宇宙看護士、再び

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

もしも貴方が南極旅行をしたとする。

ヒマラヤ山脈でもサハラ砂漠でも良い。

旅行として自分の意思で赴いた時は、それは興味深いものとなるだろう。

もう既に一回行った後に、今度は仕事として行けと言われたなら?

おそらくウンザリするのではないだろうか。

リゾート地や娯楽の多い場所なら、それでも

「仕事が終わったら、空き時間を観光にでも使うか」

と思えるが、上記の場所はそんなものは存在しない。

以前「こうのす」に短期滞在隊として参加した松本さんは、それよりもっと酷い場所に呼び出されたのだ。


彼女は看護士である。

それもただの看護士ではない。

大学院に行き、医師に近い医療行為を許可された診療看護士であった。

それもあって、同様の経歴の女性たちの中からミッションスペシャリストとして抜擢された経緯もあるのだが、今回はそれゆえに面倒事に巻き込まれたと言って良い。

「折角復職したのに!」

正直、ここ数年世界を襲った流行病は克服されてなく、看護士は忙しいのだ。

現在仕事をしていない資格持ちの人に、復帰を呼び掛けてすらいる。

だからこそ前回は

「休みを取りなさい。

 余りにも働き詰めにし過ぎました」

と1年間の完全有給を薦められ、それで短期滞在の宇宙飛行士に応募したのである。

その有給も終わり、復職した途端にこの申し出である。

極めて迷惑な話であった。


彼女の職場は、決して暇では無かったからもろ手を挙げて送り出す気分にはなれなかったが、それでも国からの依頼であり、やむなく出張を許可する。

今回は「災害派遣」に準ずるものとし、手当も相当に付く事となった。

だが日本は独裁国家ではない。

権力者の都合で、市井の人間を勝手にこき使うわけにはいかない。

依頼される側には断る権利がある。

今回の場合、応召の義務にも当たらない。

生命に関わるような緊急かつ必要な診療でも無いし、この義務は看護士は適用外だ。

だが、これを断らせないのが政治家の口の上手さであろう。


前総理はハラスメント系には敏感である。

よって

「お嬢さんのような可愛い方と宇宙行きなんて光栄です」

なんて事は言わない。

「貴女のようなプロに同道していただけるなら、これ程心強い事はありません」

とプライドをくすぐるような誘い方をする。

更に

「日本には今、貴女以上の方は居ません。

 医師や診療看護士は他にも居ます。

 宇宙飛行士も他にも居ます。

 しかし、その双方を満たした二刀流は貴女しか居ないのです。

 まさにMVP級の人材なのです」

と持ち上げる。

特に前総理支持者ではなかった松本さんは、この人たらしスキルに陥落。

喜んで、とはいかないまでも頼られたなら仕方ない、というスタンスで宇宙行きを引き受ける事となった。


彼女は今更過酷な訓練を必要とはしない。

既にクリアしていて、今回のように必要ならばすぐに日本限定ながら宇宙飛行士になれる。

感覚を戻す為と、最終的にクルー一体での訓練は必要となるが、その程度だ。

どちらかと言うと、余り長く病原体と触れる機会の多い病院には置かず、早い内から無菌室に住まわせる方が大事だろう。

宇宙ステーションは無菌室、宇宙飛行士も病原菌どころか、納豆菌すら存在しない場所に住んでいるのだから、地上からそういったものを持ち込んではならない。


一方で、彼女の職務は日々訓練とも言えた。

臨時宇宙診療所開設に際し、持ち込む医療機器の操作を訓練ではなく実践として行っている。

訓練よりも余程有用だ。

そうなると、最終訓練の直前まで仕事をして貰った方が良いかもしれない。

何より、本人及び職場がそれを望んでいる。

「隔離期間は必要だから、打ち上げの二週間前、最終訓練から来て貰いましょう」

「病院だから、感染対策はしっかりしている、そう信じます。

 日々の検査も含めて、一段上の管理をお願いしましょう」

「病院のやり方に口を挟むようで気が引けますが、なるべく器具の操作をして貰いたいものです。

 宇宙に行くからと言って、簡単な仕事だけとかはして欲しくないですね」

病院の詳しい事までは分からない為、依頼という形にした。


とにかくこれで宇宙に行く医療従事者は確保出来た。

「つまり、4人目って事です」

秋山の言葉に「あ……」と驚いたりはしない。

今までは、総理(もしくは代理の政治家)、SP(もしくはその役割の飛行士)、そして宇宙船を操縦する飛行士とで3人乗りの予定であった。

ジェミニ2改は最大4人乗りだが、4人乗るとなると室内は大分狭くなる。

座っているだけなら良い。

中で何かをしようと動く時に、3人と4人ではまるで違うのだ。

本来のジェミニ2はその名の通り2人乗り。

荷物置き場に補助席を置けるようにし、脱出用ハッチも改修したのがジェミニ2改である。

基本的に物凄く狭い。

アメリカの宇宙船が思いっ切り羨ましい程に狭い。

リムジンとオート三輪程にキャビンの容積が違う。


「船内での行動について、4人用のメニューに変更だ。

 松本飛行士は直前まで来ないから、人形を使って4人目と想定し、その条件で船内活動を行えるよう練習して貰おう」

ただでさえ、前総理や代理となり得る政治家たちは「飛行士の邪魔をしない、生きた人形」扱いである。

頻繁に訓練を受けに来る余裕も無い為、どうせ人形扱いなので、訓練中は本物の人形を使っていた。

その上、本物の人形を飛行士に見立てて訓練する。

今現在訓練を受けている者たちは、2体の人形を使ったメニューとなった為、

「お人形遊び」

なんて裏で囁かれるようになってしまった。

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