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簡易医療モジュール

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙での生活で食事については目途が立った。

「こうのす」でもISSでも植物の栽培は可能だ。

魚介類の小規模な養殖も可能である。

「こうのす」では厨房も用意し、特殊な技能は必要だがそこで料理が可能だ。

次いで住環境の内、日本人がこだわる風呂とトイレも大分進化して来た。

……宇宙先進国のアメリカが「何もそこまで……」と若干引いているくらいに。

水回りの処理は、日米欧で競って新技術の開発をしている。

植物を使った環境浄化システムの整備が進めば、やがて水と酸素は完全とは言わないまでも、高い率で循環が可能になるだろう。


必要最低限の生活の他に、各国の宇宙機関は飛行士のストレス緩和についても考えて来た。

端的に言えば娯楽である。

携帯ゲーム機なんかはそれに適している。

最近ではインターネットで暇を潰し人も増えている為、通信衛星を介して地上と繋げられるようにしている。

宇宙からの動画配信は、広報活動という業務の一環でもあるが、同時に飛行士の気分転換としても役立っていた。

「こうのす」ではトレーニング機器にゲーム要素を取り入れ、アミューズメント施設化もさせた。

定期的に更新しないと時代遅れになるのだが、

「まあ、いまだにピンボールマシンとか、スロットマシンとか、型落ちのテレビゲーム麻雀とかないような温泉街のホテルに比べればマシだろう」

と地上では考えている。

……ゲーム型トレーニング機器を更新するまで「こうのす」を使い続けるとも限らないのだし。


こうして色々充実していく中、医療設備だけは整っていない。

無理もない、本来持病がある人は宇宙飛行士にはなれないのだ。

健康な人間が宇宙飛行士として選抜されて宇宙に行き、体調の悪さくらいは自分でどうにか出来る。

それに際し、フライトサージオンという地上の医療スタッフが適切な指示を出す為、医学的に間違った事もしない。

だが、宇宙を一般にも開放するとなれば、そうも言っていられない。

「こうのす」では以前、70歳を超えた老教授を受け入れた事があった。

その際も医療設備について議題には上がったのだが、なにせこの老教授、運動不足の大学院生よりも体が動くような健康体であった為、専用のフライトサージオンの準備と同行する飛行士がいざという時の法に触れないレベルでの医療行為までで話が済んでしまった。

しかし今回宇宙に行く前総理は、老教授よりも若いながら持病持ちである。

本来宇宙には行けない筈なのに、ほぼ宇宙行きは確定であった。

また持病についても、ほぼ完治と看做されており、発症・入院・治療以降は特に問題無く生活出来ている。

だからと言って「何も起こらない筈だから、特に何も準備をしない」のは、宇宙開発において許されない。

「万が一の為に医療の準備をしなければならない」

計画責任者の秋山は周囲に言う。

前総理が搭乗する「ジェミニ2」と同行する汎用輸送機。

この内装をどうするかの議論がなされていたが、それにも関係する議題であった。


「汎用輸送機『のすり』に医療器具を積み込むのが良いでしょう。

 首脳用の部屋としては狭くなりますが。

 で、どのような器具が良いかは、我々ではわかりかねますので、専門家を呼んで意見を伺いましょう」

この流れで、居住区の一部を区切って医療用スペースを作る事を考えていた。

地球帰還時に大気圏再突入で燃やして使い捨てにする、或いはジェミニ2の狭い船内でも持ち帰れる程度の小型軽量の機材を持ち込むという意識であったのだが、そうもいかなくなった。

超音波(エコー)検査機は小型、ポータブルのものがある。

これが体内を診る器材となる。

CTやMRI、X線撮影機は大型過ぎて持ち込めないし、放射線技師の資格が無いと取り扱えない以上、エコーだけは医師たちが譲らなかった。

この機械を扱える技術がある人材が必要。

そして点滴。

無重力環境では液が落ちる事による点滴は出来ない為、薬液を圧縮する装置が必要となる。

そして地上よりも輸液が難しい。

「聴診器当てて、血圧計って、脈拍数えて、薬を処方し、場合によって座薬投入」

程度の診察スペースは「甘い」と断じられた。

「あの病気が無重力状態でどのようになるのか、予想がつきません。

 場合によっては、酸素カプセルに入れたり、全身に加圧したりも必要かもしれません」

万が一の事を考え、そういう意見も吸収した結果、


「もう1機打ち上げようか」

となってしまった。

一応予備機は用意してある。

急ピッチでこれに合わせた医療用の寝台なり点滴装置なり器具なりを搭載しよう。

こうして急ごしらえの宇宙医療施設を作る事になる。


「作った医療用の『のすり』はどうします?」

「しばらく『こうのす』に接続しておこう」

意図せず簡易宇宙病院が生まれる。

散々開発を求めていて、裏技まで使って、別件を表向きは主としてようやく認められた「浴場モジュール」(表向きの名目は温室農耕モジュール)のチームからしたら

「何だ、それは!

 我々の苦労は何だったんだ!」

と言いたくなるような、あっさりとした決定であった。

ただ、文句を言いたいのはきっと宇宙浴場チームだけではないだろう。

専用器具を使う、それには資格持ちが必要だ。

だが、今からそういう人を「新たに」探して、宇宙飛行士となるべく訓練を行っている時間的余裕はない。


「第四次長期隊の時に、短期滞在で宇宙に行った松本飛行士は看護士だったな。

 彼女に大至急アポを取ろう。

 我々だけでなく、政府の方にも動いて貰おう。

 既に訓練を終えている看護士、彼女以上の適任はいない。

 エコーのデータは地上に送って貰って、そこで判断するにしても、扱える人が必要だ」

となった。

彼女にしたら、職場復帰したというのに、またも宇宙行きとなってさぞ迷惑な事だろう。

だが背に腹は代えられない。

国からの正式な依頼となり、結局彼女は二度目の宇宙行きが決まってしまった。

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