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第七次長期隊のまったりとした日々

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

地上がバタバタしている中、上空を周回する宇宙ステーションの中は無風状態であった。

地上の政治的な事は軌道上には持ち込まれない。

最終段階では彼等に面倒事を押し付けてしまうのだから、今の段階から負担を掛けるべきではないのだ。

そんな訳で、第七次長期隊は平穏な日々を送っている。


平穏な日々になったのは、政治的な問題だけではない。

まず科学・工学的な研究計画はほとんどISSに巻き取られてしまった。

研究設備としては貧弱な日本の宇宙ステーション「こうのす」では、元々大学院生が無重力で行う実験程度の事しかやって来なかった。

それをもNASAでは「不要」と断じ、

「常駐する6人の飛行士は、より長期宇宙滞在を快適にする研究を行って欲しい」

と要望している。

その宇宙生活の快適化の為に、実験モジュールを増設するのだが、それも紆余曲折の結果、先送り(ペンディング)となる。

2基モジュールを接続し、その分の電力や生命維持を補う拡張リングモジュールが、今更の仕様変更の結果、打ち上げが1年後に先送りとなった。

当然、それに接続されるモジュールもである。

結構な難工事を覚悟していた宇宙ステーション運用責任者の船長と副船長は肩透かしをされた格好になる。

まあ任期の後半で、大統領専用機ともいえる特別モジュールがやって来て、そのドッキング作業が待っているのだが。

これは船長は任期切れで地球帰還し、副船長が船長に昇格して担当する為、現船長はますます難作業が無くなっている。


「そのアメリカ大統領専用機が来る前に、先遣隊が来るようだよ」

これはNASAから通達があった。

SPたちが実際に宇宙に来て、問題点を洗い出す。

更に彼等自身が無重力でしっかり任務を遂行出来るかの確認もする。

その為の短期滞在隊が、SPの地上訓練が終了し次第打ち上げられるそうだ。

「まあ受入さえすれば、我々の業務に影響は出ないが」

「そうですね」

コーヒーを飲みながら運用責任者の2人が語り合う。

緊張感が無い訳ではない。

宇宙は真空とは言うものの、「こうのす」が周回する低軌道は微量ながら大気に接している。

速度が落ちて、地球に向けて徐々に高度を下げていくのだが、これを定期的に再加速(リブースト)して高度を上げる作業がある。

コンピューター制御ではあるが、監視して、何か有ったらマニュアル操作で対応する。

更に衛星軌道には様々な(デブリ)が漂っている。

小さいものは宇宙ステーション外部のシールドで防ぐ。

少し大きいものは、宇宙ステーションの外周に張られている「鳥籠(バードケージ)」と呼ばれる金網で防御する。

この鳥籠でも防げないと判断されるものは、衝突軌道(コリジョンコース)から外れるよう「こうのす」の方を動かす。

「我々には、地球衝突コースにある制御不能の宇宙都市を、戦闘機で行って破壊するとか出来ないからね」

「……それ、相手が地球に対して軌道変更しろって言いだしたり、それが叶わない場合は地球を破壊するとか、そんな話ですよね」

宇宙ステーションに衝突するゴミを、宇宙ステーションから長駆出撃して排除するのはまだ出来ない。

開発中の宇宙スクーターが配備されれば、それも可能となる。

だが今は無い以上、出来るだけ遠くで危険物を探知し、早い段階で宇宙ステーションの方の軌道を変える。

遠ければ、その時に使う燃料はごく少量で、衝突を回避するコースに遷移出来るのだ。

そのレーダーの監視もまた運用責任者の職務であり、気が抜けない。


ではあっても、四六時中気を張り詰めてばかりいては、半年以上生活出来ないだろう。

船長・副船長の他に、他の4人の飛行士、ミッションスペシャリストや料理長にも交代でレーダーの監視や地上との交信を担当して貰う。

時間配分として、船長・副船長が1日で10時間(途中休憩あり)ずつ担当し、残りの4時間を日替わりで他の4人が1日交代、4日に1回の割合で当直に就く。

短期滞在隊が来た場合は、その船長にも運用を担当して貰い、この場合は8時間で3交代となって、他の飛行士は一切運用任務には就かない事になっている。

今は、長期隊しかいないが、丁度船長も副船長も席を外していて、ミッションスペシャリストの1人が船長席に座っている時間帯だ。


「しかし、トレーニングが楽しくなったね」

宇宙飛行士は無重力環境で生活する為、重力下とは違って肉体が衰えてしまう。

筋力は低下し、骨は脆くなる。

そうならないよう、筋力トレーニング、骨に負荷を掛けるトレーニングは日課とされている。

この無味乾燥だった、黙々とバイク漕ぎをしたり、バネに引っ張られながら筋肉を動かす運動が、今はゲームと連動していて、飽きさせない。

宇宙飛行士の選定を緩くした為、ミッションスペシャリストとして宇宙に来ているエリートの中には、スポーツを苦に思う者もいるのだ。

そうして体を動かさない人は宇宙飛行士の選抜において落選する。

だからミッションスペシャリストに選抜された者は、ノルマとあればしっかり運動はするのだが、好きかと言われたら違う者もいる。

ISSでは体を動かすのが苦ではない、むしろ好きなマッチョ魂な飛行士が多いのだが、「こうのす」の方はそうではない。

だから日本が誇る産業の1つ、ゲームを取り入れる事で楽しみながら身体を動かし、骨粗しょう症や筋肉低下を防ぐように、第六次隊から徐々に切り替えていった。

本格的なゲーム型トレーニングは、第七次隊からとなる。

このゲームを体験するのもまた、実験と言えば実験なのだ。

より宇宙で快適に生活する為に、トレーニングとて苦にならないようにする。


と言った感じで、宇宙飛行士たちは比較的穏やかな日々を送っていたのである。

嵐が訪れる前の、凪の日を満喫している。

今はゆっくりとしていれば良いのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかしたら任天堂の例のソフトが裏メニューで宇宙用メニュー実装する未来もあるかもですね
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