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面倒事はアメリカに丸投げしよう

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ネットでの会議に当たり、秋山他日本のスタッフは首をコキコキ鳴らしたり、首の後ろの窪んだ部分を押していたり、こめかみの部分をグリグリしたりしていた。

一方のアメリカ側スタッフは余裕であった。

「マスコミ対応、アメリカでは問題無いのですか?」

秋山の質問に、アメリカ側カウンターパートは

「うん、中々面倒だね」

と返す。

アメリカでも前大統領が宇宙に行くという事で、様々な取材が殺到しているようだ。

アメリカでは大手のメディアだけでなく、いわゆるインフルエンサー、動画配信者やブログ記者なんかも取材を申し込む。

彼等に対してもしっかり対応し、技術的な情報も隠さず公開する。

「凄いですね」

マスコミ対応に心底ウンザリしている秋山は感心しきりだ。

彼等は用も無いのに屯って、上から目線で詰問調の質問をして来るのだ。

有人宇宙飛行初期からマスコミと応対して来た秋山だが、最近の政治関係のマスコミはとても鼻もちならない。

科学系の記者をも下に見ている。

今までも政治向きの事はあったが、今来ている記者たちの中には

「報道機関は国家権力の監視者であり、前総理なんていう重要人物を見張る自分は更に格別だ。

 官僚は看做し官僚如きとは格が違う。

 取材される側は、自分たちの存在を有難がって協力するのが当然の事だ」

という特権意識を持っている者もいる。

そうじゃない記者もいるが、特権意識を持つ者のうざったさに比べれば何とも影が薄い。


「合衆国の方だってそうさ。

 だから我々は、専属のマスコミ対応チームを置いている。

 長官を始めとし、トップはディベートの心得も持っている。

 何を聞かれても、きちんと受け答えは出来るさ」

アメリカのスタッフは胸を張った。

「アポロ1号の火災事故、2度起きたスペースシャトルの事故、我々は高圧的で存在そのものを否定するような質問や意見に対して、経験があるものでね」

「いや、それは誇るべき話ではないでしょ?」

秋山のツッコミに、アメリカ側は複雑な表情をする。

「確かに君の言う通りだ。

 だが、どちらが良いのだろうね?

 苦い経験を積み重ねてものにして来た我々。

 我々の経験を糧に、無事故を続けているものの、その分いざという時の心構えが出来ていない君たち」

飛行士の生命が失われる事故なんて起こらない方が良いのは当然だが、あまりにも順調に行き過ぎて逆境に弱いのも考え物と言えよう。


「ですが、今回は人の命は関係なく、報道陣対応についてです」

「議題は違う筈だが、君たちはそれに頭を悩ませているのだね。

 じゃあその事についても話してみようか」

日本の学者・技術者の弱点は、口下手な所にある。

むしろそういう人こそ「口ばかりの人よりよっぽど良い」と信頼されて来た。

職人気質というのだろう。

逆に口が上手い人を「巧言令色鮮し仁」等と言ったりもして来た。

学会に行ったりすると、論文は素晴らしい、研究内容も中々なのに、発表となると

「えー」「あー」「んー」「〇〇でして、その」「まあ、うん、そうですね」と聞きづらい、

早口で解釈する暇を与えない、内容云々よりもまず聞き取れない、

ただただ原稿を読み上げるだけで「アブストラクト読めば事足りる」、メリハリが無い、

専門用語の羅列で日本語として成り立っていないように聞こえる、正直数式を見た方が何を言いたいのか伝わる、

なんていう学者も見受けられる。

学会という、同じくらいの知識やセンスを持つ者の集会なら良いが、一般向けにはまず

「何を言ってるのかさっぱり分からない」

となってしまう。

いつぞやの事業仕分けにおいても、ほとんど相手に斟酌する意思が無く、揚げ足取りをしてコストカットをしたい者たちへのプレゼンテーションには全くの不向きで、相手の思う壺であろう。

この点、研究費を自分の宣伝で獲得するアメリカの研究職は、口が上手い程良いという価値観がある。


「しかし、今それを言われても……。

 我々が口下手なのはすぐに直しようも無いし」

「我々が一番最初に、死亡事故を起こした際はどう会見するかとか、散々教えたつもりだが?」

「ええ、そっち方面はよく覚えています。

 しかし、政治絡みの記者対応とかは……」

アメリカスタッフが首をすくめる。

「死亡事故を起こした際に、そういう意地悪な質問への対応もあると想定していたよな?

 政治的な人間がいて、厄介な事も言ってくるだろう、と。

 私が見るに、どうも君たちはそういった連中が嫌いだから相手にしたくないのではないか?」

図星であった。

出来ないとか苦手とかよりも、そもそも接触を持ちたくないのだ。

アメリカスタッフは苦笑いをしながら、

「OK! OK!

 我々に任せたまえ。

 だが今回だけだ。

 そういったタイプの者たちへの対応にも慣れて、次からは自分たちで対処出来るようにしなさい」

と請け負って来た。


かくして来日した「スペースサミット計画最高責任者」及び「最高責任者付き法務担当」の弁護士は、

「一体いくら金を積まれたんだ?」

とか

「政治家への忖度はみっともないだろ」

とかと言う日本のマスコミを

「ハハハ、ナイスジョーク」

とあしらい、時に英語で雄弁に語り、時に「研究には時には金も必要なのは事実だよ、だが今回は大して金なんか出ていないから、厄介なだけなんだ」と言ったり、そういうのを一斉の会見では行わず、個別に分断して対応し、外国人相手に少数では強く出られない日本人のコンプレックスを上手く使いつつ、かわしたり誤魔化したりはせずに上手く付き合っていった。


とりあえず余計な事に精神を擦り減らされずに、秋山たちはミッションを進めていける事になったのである。

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