日本人って意外にスペック高い部分がある
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
間隔を空けながら、周囲に気づかれないようにしながら、前総理が宇宙に行く為の訓練が行われる。
流石に六十代であり、単純な体力は落ちている。
だが外国人に比べて、老齢でも十分な能力もあったりした。
その一つが水泳である。
日本人は小学生の時から水泳の授業を受けている者が多い。
日本は水が多いし、海に囲まれ川も多い国な為、水泳は必要なスキルの1つだった。
水練と言っていた江戸時代から、戦前も水泳は教育で行われている。
前総理もそうした学校教育を経て来た。
宇宙船からの脱出訓練での水泳は苦としなかった。
これは、水が貴重な国や、水が汚染等で危険な国出身者が苦戦する訓練である。
有人宇宙船は、有翼タイプならば滑走路に着陸する為負担が少ない。
だが多くはパラシュートで原野、あるいは海面という住宅地から離れた場所に降り立つ。
日本の場合は師のアメリカ同様、海面着水式である。
着水し、直ちにバルーンを膨らませて海没しないようにする。
だが常に正常動作する保証はない。
パラシュート降下とは聞こえが良いが、あれは基本制御された墜落である。
スポーツならばソフトランディングも出来るが、軍事の空挺降下ともなれば人一人降りるのであっても、下手をしたら足を骨折するような衝撃を受ける。
それゆえに『五点着地』もしくは『五点接地』という、体を丸め地面に転がりながら脛の外側、尻、背中、肩の順に着地する練習をするのだ。
宇宙船の帰還モジュールは空挺隊とは比べ物にならない高度から、物凄い速度で地球に向かって来る。
相当に減速はするものの、人間1人に比べて重量もあるし、海面にぶつかった時の衝撃は大きい。
それで各部に損傷が出ないとは言い切れない。
そして沈み始めた際は、沈み切る前にハッチを開けて脱出する事になる。
この時に泳ぎ、場合によっては救助が来るまで浮かんでいるか、最寄りの陸地に辿り着かねばならない。
その為の訓練なのだが、水泳が普通の事でない国の飛行士候補生は苦戦する。
日本人はそれに関しては問題無かった。
前総理もここは、ちょっとの苦戦だけでクリアする。
苦戦は、水着での水泳ではなく、宇宙服を着用しての水泳であった事に由る。
それもコツを掴んだら問題は無かった。
次いで日本人の特徴……と言うには語弊があるが多くの人が苦にしないものがある。
狭い部屋、コンパクトな生活である。
それは政治家であっても同じだ。
恐ろしい程に広大な部屋でなければ息が詰まるという人は少ない。
幼少時から裕福な生活をしていた者も、学生時代には一人暮らしや寮での共同生活を経験させられたりする。
閉所恐怖症や暗所恐怖症とは違う、「こんな狭い部屋に閉じ込めるとは何事だ!」という感情は、ほとんどの日本人では発生しない。
まあ、怒る人も居ないわけではないが、他国の上流階級に比べて非常に少ない。
「私は総理大臣をやってたんだよねえ。
ファーストクラスとは言わないまでも、ビジネスクラスのシートは欲しいなあ」
と言うのはあくまでも冗談である。
これくらいの愚痴は、北海道のローカル番組のタレントだって言っていた。
なお、あちらの方が真に近い愚痴である。
「私も親父が生きていた時ねえ、贅沢すんなって言われて、飛行機はエコノミークラスだったよ。
夜行バスは流石に貧乏臭いからやめろと言われたけど、新幹線はグリーン車を使うなって。
誰が見てるか分からないんだし、甘えた姿を見せるなってね」
そう言いながら、狭い宇宙船の座席に楽しそうに座ったりしている。
ちょっと我がままを言っているのは
「操縦席に座らせて下さい」
という程度であった。
「訓練でなら、いくらでもどうぞ」
と、その程度の我がままには応えてやるJAXAの訓練担当スタッフ。
「うん、子供の頃に見た、ロボットの操縦席みたいだね」
とご満悦の様子であった。
日本人……というか「男の子」の特性の一つ、このようにメカニックが大好きなのも、ある意味では宇宙行きへの適性かもしれない。
国会にも四十歳児、五十歳児、六十歳児、さらに七十歳児が居たりする。
眠らせていた少年の部分が目覚めてしまって、JAXAでは若干困ってもいるが。
だが、この少年の心も使い方次第である。
「操縦席に座りたいなら、この訓練はこなして下さい」
と言えば喜んでやるのだ。
こうして飛び飛びだが、前総理は訓練を地道にこなしていく。
メカニック系の習得が早いのも日本人の特徴かもしれない。
(反面、自力で修理したり、組み合わせて使うのは苦手)
このように前総理の訓練が行われている一方、アメリカでは中々に苦戦をしていた。
「このような椅子は前大統領には相応しくない。
もっと威厳があるものにするように。
居住区の見学をさせて貰った。
概ね良いが、寝室のデザインに問題がある。
一般人でも宿泊出来る日本の居住区よりも豪華にする必要がある。
あと船内活動用の宇宙服だが、もっとデザインを良くするように。
あのような作業着のようなものは、前大統領には相応しくない。
合衆国の品位が問われる。
フランス辺りに馬鹿にされるのは防ぎたい。
一流デザイナーを手配したまえ。
また……」
アメリカのセレブは、中々に要求が多くて面倒臭かった。




