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8割方完成していたものに今更仕様変更が入ると現場は大変なのである

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

元々日本独自宇宙ステーション「こうのす」は、コアモジュールを直列で2棟接続し、それぞれが4基の実験用モジュールを接続、合計10モジュール構成という仕様であった。

モジュール組み換え式なので、目的が変わった際は、不要となったモジュールを外して、目的に沿ったものと取り換えれば良い。

そうして10モジュールであり続ける事で、計算通りの生活環境が維持出来た。

酸素供給、二酸化炭素の吸着、湿度管理、排熱処理、電源などと10モジュール用になっている。

特別に11モジュール目を接続する場合、ステーション側からの各種生命維持を受けるのではなく、独立採算方式で行う事になる。

そういう形で「駐機場」と呼ばれる、ドッキングだけは可能なポートが1ヶ所用意してあった。

短期間だけ、特別任務用のモジュールを結合する際、取り外したモジュールの仮置に使用する。

一応ハッチを開く事は出来るが、電源も酸素も供給されない。

だから本当に一時避難場所としての使用しか想定されていない。


こうやって運用して来た「こうのす」だが、任務が拡大した事で手狭となる。

将来の月恒久基地や火星への有人探査を想定し、長期滞在及び負担の掛からない「快適な生活」を追求していたのだが、更なる「食糧増産」がアメリカからの要望で行わざるを得なくなったのだ。

現在食糧を生産しているのは、土壌農耕モジュールと水耕モジュール各1基である。

土壌農耕モジュールは実験設備の色が強い。

水耕モジュールで生産しているのは葉野菜ばかりだ。

補助的に、水処理モジュールの干潟実験部でエビや貝、そして海藻を採る事が出来る。

なので、半年以上の長期滞在において補給を少なくする為に、食糧の増産が求められたのだ。

具体的には穀物である。

完全自給自足は無理としても、補助的にでも宇宙で食糧を増やしたい。

また主食である穀物の代用となるバナナ等の果物も栽培したい。

宇宙で播種し、それを使ってという完全な循環型でなくても良い。

数年単位で食糧供給が出来れば良いというスタンスな為、地球から持ち込んだ種のまま保管したり、最初から育ったものを移植したりもする。

その為のモジュールを接続すると、「こうのす」はキャパオーバーとなる。

第一、もう接続箇所が無い。

そこでドッキングポートを増設し、かつ電源や空気の処理の補助を行える増設パーツが開発されていた。

中間ドッキングリングである。


中間ドッキングリングは、重量を増やし過ぎないよう2基のドッキングポートの増設に抑えている。

上下にモジュールを接続する一方、左右には新しい太陽電池パネルが展開される。

これで増設分の電力を賄い、かつその電力を使って空調の補助を行う。

仕様は大体固まっていて、もう作成中であった。

従来の仕様の延長線上にある為、大して難しい事は要求されていない。

だから短時間で作成可能だった。

そう、あくまでも「だった」のだ。

この有人宇宙飛行部門では、順調に物事が運んでいる時ほど、魔が忍び寄る。


「今更仕様変更ですか?

 もう8割方出来ているんですよ。

 一体どうして……」

開発関係者は不満を口にする。

中間管理職的、調整役の秋山にしても胃が痛い。

理由は食糧生産用に開発されるモジュールの仕様変更にあった。


麦や稲を栽培する穀物生産用モジュール、これは通常の仕様でも良かった。

しかし、バナナやサトウキビ、コーヒー豆や果物を栽培する熱帯温室モジュール、これが問題となる。

水はけ等を考え、更に温水やそれを利用した湿気を上手く循環させる為に回転させて人工重力を作る事になった。

裏には「ちょっとでも重力があった方が、湯舟に湯を張れる」というプロットが隠されていたが、それ抜きでもやはり重力は欲しい。

また風媒花の花粉を上手く風に乗せ、受粉させる為にも回転で風を作ろうと言う事になった。

そうなると、穀物生産モジュールの方にも影響が出る。

宇宙船は基本的に対称をデザインの基本とする。

温室モジュールの方が、回転させて人工重力を微小でも作る関係上、直径を大きくし、重量を増やさない為に奥行は短くする事となった。

すると反対側に接続される穀物生産モジュールも同じデザインにせざるを得ない。

重量が同じでも、重心の位置が変わると宇宙ステーションのバランスが崩れる。

また、稲や麦とて風媒花であり、回転による空気の循環はあった方が良い。

人工重力で田んぼに水を張る事が出来れば、陸稲ではなく水稲を栽培出来る。

そうなれば水稲の方が収量が上なので、食糧増産の目的に合っている。

というわけで、新ユニットは今までのモジュールと違い、太くやや短くなり、内部がリニアモーターカー方式で回転する仕様となった。

回転する以上、トルクが発生する。

2つのモジュールはトルクを打ち消し合うように、反対に回転するのだが……。

「軸受けである中間ドッキングリングのドッキングポートは、より強度が求められるわけですね。

 いくら磁気式で摩擦が無い回転方式とはいえ、トルクがモジュールにかかってはいるので、駐機場程度の強度では捩じれてしまう可能性がある。

 通常のドッキングポートなら良いかもしれないが、より強度を高める工夫が必要、と」

事情を呑み込んだ技術陣が答える。

その他にも、温室モジュールがラジエーターを兼ねる事で熱処理の変更や、電力計算の変更も必要だ。


「これ、おそらく第七次隊の任期内では間に合いませんよ。

 正直、一から作った方が早いです。

 そして作るだけでなく……」

「単体試験、結合試験等、既存の仕様じゃないから今まで省略出来たものもしなければならない。

 分かっていますよ。

 だから、あと半年以内なんて言いませんので、じっくりやって下さい」

「間に合わせなくて良い?」

「間に合うわけがないですよね。

 私だって分かりますよ。

 しかし、やらなければならない以上、ペンディングの交渉は私がします」


このように、ちょっとの変更が全体のスケジュールを押す事もあるのだ。

「こうすれば良いじゃん」は一見正しくても、既に運用されているものに適用すると、かえって負担を増やす事もあるという事を、お偉いさんたちには知って欲しいのものである。

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