宇宙農業の次を見据えて
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日本独自宇宙ステーション「こうのす」に接続されている2つの農場モジュール。
この役割は異なる。
余談だが、日本の農業は「農業ではなく園芸だ」と言われたりもする。
手間暇をかけて、しっかり育てる為に高価で売れるが収穫量は多くない。
農業を「産業」としてやっていくには、機械的に安く大量生産していく必要がある。
それに当てはめるなら土壌農耕モジュールは農学・研究用で、そこでの収穫量は多くない。
一方の水耕モジュールは工場的に葉野菜を生産し続ける為、宇宙ステーションにおけるビタミン摂取のメインを担える程の収量があった。
先日、宇宙で収穫した大豆を使った発酵食品が完成した。
量が多いわけではないが、味噌と醤油が作られた。
これによって、日本人の朝食的には
・豆腐とネギの味噌汁(出汁の小魚のみ持ち込み)
・漬物(塩は持ち込み)
・おひたしに醤油を掛けたもの(ほぼ完全に宇宙産)
と作れるようになった。
残るは
・焼き海苔
・生卵(卵かけご飯)
:焼き魚
・白米
と来れば万々歳である。
「海苔は水系モジュール内で養殖を試みている。
魚は宇宙ステーションのサイズ的に、継続的な養殖は難しい。
数匹を水槽で飼う事くらいならなんとかなる。
鶏は飼えないか検討中だ。
重要な蛋白質である卵を継続的に得られるならば宇宙生活のプラスになるとNASAも注目している。
あとは穀物だな」
こういう宇宙飛行士からの意見は、地上スタッフも承知していた。
穀物の生産は、いずれ手を付けたいと考えていたものである。
穀物として有名な作物は、一長一短がある。
日本人が好む米は、宇宙において水田を作る事に難があった。
陸稲にすると、収穫量が水稲よりも減ってしまう。
世界的に食されている小麦の場合、連作障害が出てしまう。
中南米でよく食べられるトウモロコシは、肥料や水を多く必要とする。
雑穀系は生産しやすいが、無いならともかく好き好んでは食べられていない。
これが好まれているなら、小麦や米から主食の座を奪っていただろう。
「雑穀」なんて言われているのには訳があるのだ。
その中で、蕎麦とライ麦は有望だろう。
まあ蕎麦は日本人の他には、旧ハプスブルク家領であった東欧地域が好むくらいか。
どちらも米麦が税金として取られる一方、蕎麦は無税であったから、農民が一緒に蕎麦も作ったという歴史がある。
ライ麦は、小麦と同じように育てたりする。
これも東欧地域で好まれる黒パンの原料となるのだが、最近は昔に比べて好まれなくなったという。
「土壌農耕モジュール及び水耕モジュールでの成果から、穀物生産用の農業モジュールが開発可能になっただろう」
日米の開発チームはそう考えている。
やはり白米もしくはパンを食べたい、だから現地生産出来るに越したことはない。
ではあっても、日米では若干穀物に対するアプローチが異なっていた。
米を炊いてそのまま食べる日本人は、味にも拘っている。
ある程度、ブランド米に劣るのは仕方が無い。
だが硬くてパサパサした酒米のようなものでは、食べさせられる方が気の毒だ。
炊飯の仕方でどうにかなるならともかく、頑張ってもそうにしか炊き上がらない米は避けたい。
一方、収穫したものをそのまま食べず、製粉してからパンやパスタに加工するアメリカでは
「そういうものが作れたらそれで良い」
という考えであった。
味よりも大量生産。
手間暇よりも、さっさと収穫出来て連作出来れば良い。
「ならば、収穫倍率が圧倒的に高い米を食べれば良いですよね。
水稲は連作しても大丈夫で、二期作も可能ですよ」
日本側がそう言うと
「ライスは良いと思うよ。
だがやはり我々は小麦粉のパンを食べたいのだ!」
と、どうもそこだけは譲れないようだった。
「米粉パンってのもありますよ」
「うん、それは良いアイデアだね」
言葉とは裏腹に乗り気ではないように見える。
なお、キアヌとかアマランサスといった、自分たちに馴染みが無い雑穀については、シリアルにして食べる事を推奨しているように、アメリカの方が食に柔軟な部分はある。
妙に米の粘り気やらモチモチさに拘る日本人より宇宙生活に向いている。
だが、パンとかパスタとか自分たちの食べ慣れている主食になると、若干保守的なところが覗いてしまう。
品質が悪くても構わない、添加物で誤魔化すのも可、米粉を加えるのも良いだろう、だがメインは譲らない! という感じだ。
そして
「パスタに余計な混ぜ物をするのは許さん!」
というイタリア系アメリカ人たち。
「君ら、水が貴重な宇宙でもパスタを作るつもりか?」
そういうWASP系アメリカ人に対し
「砂漠でもパスタを茹でるのが我々の伝統!」
と譲らない。
(既にイタリアンの料理人が宇宙でパスタは茹でているけどね)
「こうのす」はうどん県出身の飛行士が来ても対応可能なようになっている。
温め直すパスタではなく、乾麺や生パスタも可能な「こうのす」。
妙な部分では、アメリカの一歩先を行く日仏伊連合であった。
そして何となく畑で収穫出来る小麦・ライ麦と輪作作物を主とし、水系モジュールや水耕モジュールの方で水稲を何とか、という方向で纏まった来た所に爆弾を落とす者あり。
「コーヒーを飲むに当たり、砂糖って栽培する必要ありませんか?
これも自給自足出来たら良いですよね」
言ったのは宇宙浴場開発に関わる者である。
亜熱帯系の作物の話題を出して来た以上、ある程度思惑が透けて見えるのだった。




