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軌道上日米首脳会談、ただし前任者同士

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

元々の日本独自の有人宇宙飛行計画は、この前総理の思いつきから始まった。

彼は様々な思惑から、有人宇宙飛行を実現させる。

当時の貿易黒字を減らす経済的な思惑。

日本で打ち上げる宇宙船に、友好国の人間を乗せる事で相手にも得を与える外交的な思惑。

若者に夢を与え、科学分野に目を向けさせたい教育的な思惑。

こういった諸々を内包し、アメリカから購入する形で有人宇宙飛行を実現に漕ぎつけた。

だが、その過程で人生を歩む内に鎮まっていた「男の子」の部分が覚醒してしまう。

「自分も宇宙に行きたい!」

この六十歳児はそういう欲に囚われてしまった。

まあ前総理だけでなく、国会内の五十歳児から七十歳児までの結構な数が、科学の子症候群に罹患してしまった。

現在四十代は、リアルロボットアニメの最初の作品を子供の頃に見た世代だ。

チート宇宙戦艦の映画が何作も公開されたのが彼等の少年時代。

現在五十代は、光の国から来た戦士の特撮番組を見て来た世代だ。

他にも遠い銀河の彼方の物語も、この世代が大人になった頃に初公開された。

現在六十代、七十代は、アメリカの宇宙を扱ったSF映画最盛期の世代である。

それより上になると、もう戦前世代となり宇宙に憧れる少年の魂は無い。

押川春浪や海野十三などの空想科学小説はあるが、明確に宇宙の姿をイメージ出来ないかもしれない。

とりあえず、最高齢は七十代までが何らかの魂を呼び起こされた模様。


「アメリカ前大統領が宇宙に行くそうだね」

わざわざJAXAまで会いに来た前総理がそう笑いながら言う。

「私にも電話があってね。

 You 宇宙に行っちゃいなYo! ってね」

「はあ……」

(どこの芸能事務所社長だよ……)

もう悪い予感どころか、悪い確信しかして来ない。

「前大統領も、この機会を逃したら宇宙になんか行けないだろうって。

 ポケットマネーで宇宙行きの機会を買ったそうだよ。

 中々豪儀だねえ。

 それでね、私にもお誘いがあってね、宇宙で首脳会談しようかって言われてねえ。

 まあ2人とも前職だから、首脳会談ってのもおかしいよね、って笑い合ったよ。

 流石に現職を宇宙に上げる訳にはいかないけどね」

もう言いたい事がビンビン伝わって来る。

「私も年なのは承知しているよ。

 でも、確かどんな人間でも宇宙に行ける事を目標の1つにしていたよね。

 まあ、七十代の老教授でも行けたのだから、私でも大丈夫だろうと思うね!」

もう腹をくくるしかない。

どうせ外堀は埋めたのだろう。

本人が直接こうして来ているというのは、全ての根回しは終えて、もう最終段階という事だ。

政治家の中でも上位の者とは、こういうものだ。


「もう断る理由は無いです。

 いや、断れる実務的以外の理由が、ですね。

 条件の方に入ってよろしいでしょうか」

「君も私と付き合いが長くなって来た事あるねえ。

 話が早くて助かるよ」


条件は、ミッションスペシャリストよりも緩い、先日芸能人チームが宇宙に行った時と同じレベルでの健康診断と訓練での適正診断及び課題のクリア状況である。

健康状態に異常が有れば宇宙には行かせられない。

高所恐怖症とか閉所恐怖症、暗所恐怖症があったり、余りにも閉鎖空間で和を乱すようであれば適正無し、むしろ他人を危険に晒す存在であるとして失格とする。

最低限、非常扉から脱出出来る、いざという時にパラシュートを開く事が出来る、火災の際に消化器を使う事が出来る、それくらいクリア出来ない者はロケットに乗せられない。

「それはその通りだ。

 それについて文句は無いよ。

 では訓練について説明してくれたまえ」

一通り訓練メニューと日程について説明する。

そして

「随員はどうします?」

と質問する。

最悪、ここで余りにも大人数を言って来たら、それを理由に断れる。

前総理は少し考えた後、

「秘書だけで良いな」

と、逆の意味でとんでもない事を言い出した。

「あの……前大統領はSPを連れて行くと聞きますが?」

「そのようですね。

 でもまあ、宇宙にSP連れて行ったって意味ないから。

 それに、日本の有人宇宙船にはそんな大勢は乗れないでしょ?」

「え?

 ジェミニ改で行く気ですか?」

「君ねえ、わざわざアメリカの民間宇宙船で行くなら、宇宙で会談する必要無いじゃないですか。

 行ったアメリカの宇宙センターで話せば良いわけで。

 そうは思いませんか?」

「そうですね……」

「あっちは11人乗りらしいけど、SP2人と医師と私的な秘書を連れていくそうです。

 向こうが少数精鋭なのに、こちらが随員として文部科学大臣とか、後援会会長とか、青年部の部長とか、支持者の中から1名とか、そんなのは出来ませんよ。

 やりたいのは山々ですがね」

見ると、随伴している秘書が、苦虫を嚙み潰した表情であった。

ジェミニ改の狭さは、この計画に関与した人なら誰でも知っている。

前総理は

「そういう不便さを楽しむのも良い事だよ」

なんて言っているが、世の中好き好んで夜行バスの椅子とかエコノミークラスの座席で眠りたい者ばかりではない。

金を出してでもアップグレードしたいのだが、ボスが狭い椅子を選ぶ以上仕方がない。


現総理は、前総理が帰った後で電話をかけて来た。

「何か、私もよく分からないのだが、アメリカから連絡があって前総理も宇宙に行く事になったようだ。

 既に君たちには連絡が行っていると聞いた。

 君たちが、こういうVIPの打ち上げには反対だという事、パフォーマンスよりも実質的な宇宙開発をしたいという事はよく知っている。

 だが、なんか知らんが半分国際公約みたいな形になった以上、止められない。

 前総理だけなら何とか出来たのだがね……。

 力及ばず申し訳ない。

 すまんが、無事故で地球に戻って来られるよう、頑張って欲しい」


かくして前総理も宇宙に行く事は本決まりになってしまった。

前総理のキャラのモデルの1人が、ああいう事になってしまって……。

ただ、それ抜きにして、ずっと以前から匂わせていたように、この小説の〆辺りで使いたかったネタではありました。

あえて行かせてやります。

(とはいえ、あと何話先になるんだろう?

 500話以内に収まるかな?)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連載初期から追っていた身としては、やはり前総理はあの方のイメージです。 架空の話ですが、行きたかった宇宙に行けるのであれば多少なりとも救われますね。 [一言] ほうこうおんちさん、こんなニ…
[一言]  ふと思った。 『男達の掲(かか)げる浪漫(ロマン)』を、女達はどう見ているのだろう?  現実に即し、冷徹に見て、偽る事無く思考したなら――  宇宙進出そのモノなんて、お金の無駄使いとしか…
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