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宇宙農業の在り方

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

現状、宇宙ステーション「こうのす」における農業モジュールの役割は2種類ある。

水耕モジュールの方は効率優先、量産性重視、常に安定した食糧供給を追求している。

一方、土壌農耕モジュールの方は、無重力環境での植物の生育、将来月や火星等での土壌農耕が行われた場合のリハーサル、土壌変化の観測と対応という基礎研究を行っている。


宇宙農業の研究は、日本だけでなくアメリカも興味を持っている。

これまでは日本に自由な研究をさせて来た。

今後アメリカも「こうのす」の運用に深く関与する。

その為、農業についてどうするか、日本側担当者も交えて激論が交わされる事になった。


水耕モジュールの方は全く問題無い。

今まで通り葉野菜を育て、安定してビタミンを含む食糧を生産すれば良い。

ビタミンを安定的に摂取出来る事は、宇宙のみならず、潜水艦の長期航海とか、南極での越冬等でも重要な事である。

だが水耕モジュールとて万能ではない。

例えば、アメリカが火星のテラフォーミングなんかを想定した際、初期に自給自足を行う作物としてイモ類を考えている。

この芋の水耕について、様々に研究が行われている。

ここで分かった事は、サツマイモは水耕で植物として育てる事は可能だが、培養液中では「イモ」としては成長しないようである。

培養液の中では、根がびっしりと拡がるだけであった。

葉を収穫して食するならそれで良いが、イモを育てて食べたいなら土壌への植え替えが必要なようだ。

ジャガイモの水耕は、これから実用化に入るかもしれない。

環境制御をする事で、イモの部分を作る事が出来るが、その環境制御の他にも根の間引きが必要だったりと、手間は掛かる。

向いていないとされる根菜類だが、このように基礎研究の結果、どうにか出来るものもある。

だが、どうやっても無理っぽいのが樹になるもの、つまりはリンゴやミカンのような果物であった。

まあこれも、重量を支えなくても良い無重力ならどうにかなるかもしれない。

そこは研究次第である。


これまで「水耕では作れない」とされた作物も、やり方次第でどうにかなるかもしれない。

水耕のポテンシャルは高い。

その為の基礎研究は必要なのだが、それと同等に必要なのが「食糧生産の安定」である。

現時点で、「こうのす」接続の水耕モジュールでイモ類の生産は出来ない。

そこで土壌農耕モジュール「でんえん」でのイモ類栽培を規模拡大させたい。

しかしイモ類は連作障害が付き纏う。

これが宇宙ではどうなるか、日本は散々に研究していた。

輪作をすれば良い事は分かっている。

だが、既に述べたように基礎研究をする事は重要なのだ。

基礎研究の結果、今まで出来ないとされたものが、出来るようになる事もある。

だから

「既に対応策は確定されている以上、イモ、豆、輪作作物の栽培に専念すべきだ」

「将来の事を見据えた上で、基礎研究の場とすべきだ。

 それはきっと合衆国の為にもなるだろう」

という意見がぶつかる事になる。


どちらも一理ある。

議論の末、アメリカはある事に気づいた。

「モジュールが1基しかないから、どっちかを選ぶ事になるのだ」

そこで日本に対し

「土壌農耕モジュールの詳しい仕様書、設計図、計画試料、現在までの成果を提供して貰いたい」

と要求して来た。

合理主義のアメリカからしたら、日本を「自分たちの後追い(フォロワー)」として馬鹿にせず、既に存在する物を参考にすれば、一から考えるよりも良いとなる。


こちらの方に舵を切ったアメリカは、中々強引になって来た。

「コア1とコア2の間に、ドッキングポート2基を有した拡張リングを増設する計画だったね。

 その2基には、追加の水耕モジュールと土壌農耕モジュールを繋ぎましょう」


この半分「そうしなさい」という圧に対し、秋山は難色を示す。

長期滞在隊は6人。

内訳は、宇宙ステーションの運用に関わる船長と副船長という2人の飛行士。

生活全体と備蓄物資を管理し、一応健康管理も担当する調理主任。

残る3人が研究に従事するミッションスペシャリストだ。

傾向として、水処理モジュール兼干潟研究モジュールに1人入る。

これまでは物理・化学・技術系、もしくは環境・生態系、あるいは天文学系の研究員が選抜され、農耕モジュール担当は1人であった。

初期は水耕モジュールの担当と、土壌農耕モジュールの担当の2人が選抜されたが、水耕モジュールが立ち上げ作業を終え、安定運用に入ると、1人が2基のモジュールを担当する事になった。

なので、現在結構負担が大きい役割となっている。

土壌農耕モジュールで植物のデータを絶えず収集し、地上に送ったり、やりたい研究を行う傍ら、もう1基のモジュールで野菜がおかしな事(栄養が多過ぎるとか、光の加減がおかしくて生育障害を起こす)になっていないかを調べ、温度や湿度管理を行う。

これが倍の4基になったら、とても負担が大きくなり過ぎるだろう。


その事を指摘すると、アメリカ側は

「農業担当を2人に増やせば良い」

と回答。

それでは他の研究が出来なくなると反論すると

「水処理と農業以外、君たちの宇宙ステーションで研究は必要なのか?

 色んな研究そのものはISSの方に巻き取るって事になっただろう」

と返される。

流石に選抜する人員にケチをつけられると、秋山もムッとする。

農業以外でも、しっかり基礎研究はしておきたいのだ。


この件、拡張リングのドッキングポートに何のモジュールを付けたいか、日米で今後も議論される事になる。

そしてこの部署、宇宙浴場開発班は状況が不利であろうが、こう言っていた。

「まだだ、まだ終わらんよ!」

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