表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/516

アメリカの不満

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

前日の財務大臣からの呼び出しに続いて、秋山は今日も総理大臣からの呼び出しで料亭行である。

「秋山さん、羨ましいっす」

と野次が飛ぶが、総理に呼び出された経験のある小野は

(そんな美味いもんじゃねえよ)

と密かに同情していた。


秋山は前日

「東南アジアとか、あの辺は本命インドだから、あまりのめり込んでも損するぞ」

「基地とか研究所は日本のODA案件だけど、ロケットは多分違うとこのを使うだろうな」

「軍事的に使いたいってのが見えてるから、ロケット売るより根本的な解決の方を努力するわ」

という財務大臣の話を聞いていた。

だから

(総理が今日は、昨日と正反対の事言い出したらどうしよう?)

という不安を持っていた。


杞憂であった。

総理大臣の相談は、別の事だった。

「思ったより赤字が減らないって、アメリカが不満でねえ……」


B社が開発した「ジェミニ改」は、既存の設計を流用し、出来るだけ手早く完成させた機体である。

納期に間に合った、実に有難い宇宙船だ。

しかしその分、単価が低い。

単価が低いから、買いたいという要望も何ヶ国かあるし、日本経由で「使わせて欲しい」というのもある。

だが、これでは宇宙船としては薄利多売になってしまう。

B社は間違いなく儲けているが、周辺に利益が落ちない。

それでどうにか出来ないか、と半分苦情、半分相談が有ったのだと言う。


「とは言いましても、単価が高くなる新型機について、何社も手を引きました。

 自国の宇宙産業の方が納期が緩く、打ち上げ重量やサイズの制限も無いから、と。

 アメリカの問題だと思いますが」

「そう、納期が緩い、それだから短期的な効果が出ていないんだ。

 彼等は今年中に完成させるつもりは無い。

 今年出来るのは実物大模型(モックアップ)くらいなものだ。

 顧客はいるが、実際に金が動くのはもっと後になる。

 だから、今年、来年で動ける我が国に要望が来ているんだ」

ここからはちょっと専門的な話になる為、総理に代わって首席秘書官が話を継いだ。


まずは、日本に更に新型機を発注して欲しいとの事だった。

形状も指示があり、かつてのスペースシャトルの小型版である有翼宇宙往還機。

「その形状は、翼の付け根のとこに応力がかかり、破断の危険があるとアメリカが言っています。

 有人機としては危険かと」

「それは向こうも承知している。

 だから数年かかる継続した研究費と、無人輸送機としての運用を言っている」

「無人機。

 それなら分かりますが、搭載量減りますよ」

空間を無駄なく使うには、コンテナ状が一番良い。

宇宙船だと上下左右対称である事が好ましく、無駄を承知で円形にせざるを得ない。

なので「こうのとり」なんかは、外側は円柱、内部は直方体となっている。

航空機の形状にすると、流体力学の関係で、荷物搭載に最適な形とはならない。

だが、少量のサンプルや生成物、急を要する物を地球に届ける場合、着水させて船で回収する方式よりも、直接研究所に近い飛行場まで届けた方が良い。

「でも、先の話ですよね」

「先の話だね。

 でも、今から話は進めておきたいとの事だった」


さらに「ジェミニ改」の次世代機も発注せよ、と。

「あれは訓練機ですよ」

「知っている」

「訓練機をもう1機種増やすんですか?」

「いや、『ジェミニ改』は2人しか地球と宇宙を往復出来ないから、もっと多数を運べる機体も買ってくれ、という事だ」

「もっと多数が乗られる機体は、独自の宇宙船計画で……」

「だから、それを日本でやらずに、アメリカから買ってくれ、という事だ」

「それでは日本は、独自計画を進められないではないですか」

「そういう事だね」

「そういう事って……」


総理が話に入る。

「需要を調べたらね、宇宙には行きたい、でも何をするかを決めてはいない。

 宇宙飛行士は自国にも居て欲しい、でも自分とこで訓練するつもりはない。

 興味はあるが、宇宙開発をする予算も学力的な下地もない。

 世界で宇宙開発をきちんとやれる国は限られている上に、有人となると戦略が立っていないのが現実だ」

「それは我が国もですね」

「まあ、そうだね」

要は「宇宙に行きたいから乗せていって」という態度なのだ。

これでは宇宙船は売れない。

宇宙船を買い、アメリカで保管し、アメリカのロケットで打ち上げるにしても、2人乗りでかつ狭い訓練機では魅力も低下する。

そこで

「日本の金で、もう少し人数の乗れる、比較的安い機体を開発するよう発注して欲しいって事です」

「なんで日本が発注なんですか?」

「忘れましたか?

 これは貿易摩擦を減らす為、アメリカの過剰な赤字を減らす為のものです。

 確かに我が国独自の宇宙計画も良いでしょう。

 しかし、貿易摩擦が起きて、色んな産業に規制がかかったなら、宇宙計画も世間からは良いようには見られませんよ」

日米関係が上手くいき、アメリカも喜ぶ形の宇宙計画だから、資金にも問題は出ず、少なくとも月探査計画までは温かい目で見られているのも確かだろう。


「そう言えば月計画ってどうなってるんですか?」

「早ければ2030年、現実的には2035年から2040年頃を予定しているそうです」

「じゃあ、本当にずっと先なんですね」

「そう安心しないで下さい。

 10年前からカウントダウンで計画開始と言ってましたから」

「早ければ今年には動き出す……。

 それで、我々はどこまで関わるんですかね。

 金だけ出して終わりですか?」

「あちらさんのリップサービスもあると思うけど、それよりはもっと関わると思うよ。

 人を派遣してくれとは言ってました。

 NASAの計画とは一緒にやる」

「独自の方も準備して、って言ってましたよね」

「準備だけはしといて下さい」

「リップサービスだから、我々は実際はやらなくていいんですよね?」

「なに? やりたくないの?」

「今でもいっぱいいっぱいですので」

「だから、『こうのとり改』をベースにした、月往復船だけでいいって言ったじゃないですか」

「やっぱり作るんですか?」

「作る一歩手前まではやっておくように」

「はあ……」


秋山は、降って湧いた月探査計画について、まだ実態を掴めていなく、どこか引っ掛かるものを感じている。


「そうだ!

 君たちの負担、一個軽くなるよ」

「と言いますと?」

「中型宇宙ステーションの、コアモジュールとドッキングポート兼エアロックは、アメリカで作って、アメリカで打ち上げるそうです。

 君たちは仕様書だけ出せば十分です。

 発注はこちらでやっておきますから」


……そこの開発、職員が一番やりたがってたのにぃぃぃぃぃぃ!!!!!


アメリカに振り回される日々はまだ続きそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 秋山さんの年収が増えているのか。 新型宇宙船も良いですけど、月を目指すなら宇宙服も新型でますよね? [一言] アメリカと共同開発してその都度振り回されるより、発注&丸投げの方が苦労は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ