宇宙に来て何がしたい?
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
宇宙に来て何がしたい?
この質問に子供や学生程自由に回答出来る。
費用対効果とか、国力・経済力の限界、技術的な制限という言葉を知ってしまうと、途端に言う事がしょぼくなってしまう。
宇宙開発における先進国は非常に少ない。
これから衛星を打ち上げようという国はあり、自前の通信衛星や気象衛星、資源探査衛星なんかを使いたい。
それらの国はロケットを開発するか?
否、しない。
本音では自前で作りたい。
なにせ長距離ミサイルに繋がる技術でもある。
しかし、最終的には「既に打ち上げ用ロケットを持っている国に頼む」となってしまう。
軍事的に長距離ミサイルは欲しいが、それは子供が玩具を欲しがるのと同じメンタル。
現実的には大陸間弾道ミサイルを使わずとも、短距離ミサイルで事足りる。
アメリカを敵に回すのでなければ、大陸間、つまり大洋を飛び越える射程なんか必要ないのだ。
仮想敵国、もしくは現実的に敵対している国は隣に在り、大砲で十分。
日本のロケットで言うならば、H2Aロケットの固体ロケットブースターは直径2.5メートル全高15.2メートル、これは直径1.67メートル、全高18メートルの大陸間弾道ミサイル「ミニットマン」とほぼ同サイズである。
となると本体のH2Aロケットなんかは、ICBMとしてもオーバースペック。
隣の国まで飛ばすミサイルとしては、H2Aの固体ロケットブースターですら過剰に過ぎる。
そうなると、大概の国は費用が嵩み、失敗を繰り返しながら開発をしなければならず、それでもって軍事的にはオーバースペック過ぎて使い出に困るものを、わざわざ開発はしない。
開発可能な国は、とっくに開発し終わっている。
だから、宇宙開発で必要な物は何とか自作するが、打ち上げロケットはわざわざ作るより、既に持っている国に発注する。
無人の人工衛星ですら「費用対効果の壁」で、全てを自前で賄う事はしない。
まして有人宇宙飛行にもなると「わざわざする必要があるのか?」となってしまう。
日本の前総理が外交で「うちが予算全部持つので、若い人たちを宇宙に送ってみませんか」なんて言ったものだから、「無料なら良いな」「上手くあれば国威発揚の道具になる」「自分の支持率にも繋がる」と申し出を了承した。
こうした国は、有人飛行で何かをしたかったわけではない。
先に有人飛行のチャンスが与えられたから「何かしたい事ない?」と募集する事になる。
この辺、総理案件で有人飛行をする事が決まり、「一応議会にも説明するから、それっぽい有人飛行の意義をでっち上げて」と言われた秋山たちと同じようなものである。
「子供たちの夢の為に」とか「科学を志す若者が増えるように」とか「産業の発展の為、技術系の学生や労働者のベースアップを」等と考える国はマシな方だ。
そういった国は、教育や目的というものを重要視している。
前総理が声を掛けた国の中には、結局何をしたら良いのか思いつかず
「その分を(自分たち権力者への)支援金にして渡して欲しい。
中国なんかは(権力者への賄賂に)実に積極的だ」
等と言って来るところもあったという。
その国では、学生と言える程の学生もなく、基礎教育すら「親の農作業の手伝いの合間」であり、農業や牧畜の為に「気象衛星の情報を得る」という事すら考えなかったりもする。
一方で政治家や農園主の子たちは、欧米の方に留学して、支配する側に回ってそれで良しとする。
そういう国ではなく、例え「国威発揚の為」であっても、名目上「科学の為」を掲げ、飛行士の候補者を送って来た国は有望だろう。
前総理は自分のした約束を果たさせる為という打算もあったが、派手好みさが無い現総理も、シビアなアメリカも、飛行士候補者を送って来た国へ便宜を図ってやったのは、やはり「こうした国とは付き合いたい」と思ったからだ。
送られて来た飛行士候補者の後ろには、これから国を発展させ得る有望な若者や、夢を持つ少年少女たちが居るのだから。
滑り込みで宇宙にやって来たそういった国の飛行士たちだが、彼等のほとんど唯一にして最大のミッションが、自国で作成した超小型衛星の軌道投入である。
これがほとんど唯一、自国が宇宙開発において一歩を踏み出した証となる。
他国の宇宙船に乗せられ、日本の宇宙ステーションで揚げ前据え膳の生活を送る飛行士は、有人飛行が一過性のもので終われば、ほとんどその国の知識獲得に繋がらない。
どんな過酷な訓練を経験しても、今後資金的に有人宇宙飛行をしないのなら、その者だけの活躍で終わりとなる。
しかし、衛星を作れる、衛星を運用出来る、衛星からもたらされた情報を解析する、という経験は次に生きるだろう。
ロケットはチャーター出来る。
本格的な人工衛星の開発能力を持ち、その運用目的がしっかり決まれば、きっと役に立つ。
今回飛行士たちは、その為に来たと言っても過言ではない。
無人でも出来たが、折角来たのだ。
自分で衛星を放出したい。
そして、宇宙でどんな経験をしたのか、有人飛行としては次に繋がらなくても、若者に話す事で夢を持たせたい。
それが国の発展に繋がるだろう。
という理由で、多目的ドッキングモジュール「うみつばめ」は連日大忙しであった。
なにせ10ヶ国がそれぞれ4機ずつ、目的や軌道が違う超小型衛星を射出するのである。
超小型衛星は自力で軌道に乗る能力は無い。
「こうのす」から射出される角度と速度、そして軌道投入用ブースターは一回だけ短時間使用可能、これだけで夢を乗せて射出されるのだから、間違いは許されない。
「政治的な無茶ブリについて、秋山さんが文句をブツブツ言っていたが、それが分かった気がする。
40機もの射出スケジュールの調整、確かに地上でやっているけど、現場で捌くのはそれなりの労力が必要だ。
宇宙酔いとかで万全じゃない人もいるし!
無茶を通せば、現場にしわ寄せがいく、よく理解出来た」
と現場責任者である古関船長はボヤくのであった。




