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アメリカの感心

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「これを見給え。

 日本の宇宙ステーションで起こった、ちょっとしたトラブルを解決するまでの一部始終だ」

NASAで日本との共同宇宙ステーション運用を担当する局員が、部下に資料を渡した。


宇宙ステーション「こうのす」で、水処理装置のあるパーツが、想定よりも出力低下を起こした。

別にそのまま使い続けても問題は無い。

しかし日本人は、すぐに原因究明する事にした。


ハインリッヒの法則と呼ばれるものがある。

本来は労働災害について調べ、経験則として纏めたものだ。

転じて「災害防止のバイブル」として、NASAを初めとした数多くの機関で参考にされている。

ハインリッヒの法則における事故についての分析で

「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常ヒヤリ・ハットが存在する」

としている。

「こうのす」の水モジュールの異常は、「ヒヤリ・ハット」にも当たらない、ちょっとした異常にも敏感に過ぎる日本人が気にしたものに過ぎない。

それでも彼等は、この異常事態ではなく、異常を起こした原因そのものが、宇宙ステーション全体に何らかの影響を与え、最悪の場合は事故を起こすのではないかと考えた。

だから、徹底的に真相究明に動いたのである。


「結局原因は何ですかね?

 えーと、水分を感知して機器を作動させるセンサーの周辺に水滴が滞留してしまい、ずっと動かしっぱなしになってしまった……。

 なるほど、無重力ゆえの問題という事ですな」

従来のコア1、コア2という基軸モジュールの水処理装置は、手動操作を行っていた。

水を流していない場合、人間がスイッチを切るアナログ仕様である。

それに対し、より高性能な水処理専用モジュールは、自動化を行っていた。

この水処理装置の開発自体、これからの宇宙生活を睨んだ実験に属するものだから、手動という枯れた技術ではなく、自動化を進めたものであった。

自動化を制御するセンサーが、重力のある地上と異なる挙動を見せたのだ。


水処理モジュールは、より多くの水を処理する為に高出力にチューニングしてある。

高出力であるという事は、寿命としては短くなりやすい。

その為、「水があるなら作動、無いならば停止させる」事で機械の寿命を延ばそうとした。

この水を感知するセンサーの周囲に、細かい水滴が漂い続ける。

地上ならば重力によって、とっくに下に落ちている水滴が、時々センサーに触れたりする。

すると水処理の必要が無いのに、機器を作動させてしまう。

これが常時作動ならばまだ良かった。

停止したり作動したりを細かい間隔で繰り返している。

これが機器の寿命を短くしてしまった。


寿命が縮んだと言っても、出力が90%程度になったに過ぎない。

それでも日本の飛行士たちは、計算よりも速い性能低下の原因を調べて、重大な問題に繋がらないかを探った。

センサー周辺に纏わりつく水分、この問題解決は地上と相談して模索する。

他のセンサーについて、同様の問題が起こって、無いのに有ると判断する、それによる誤作動が起こり得ないかを調べる。

その上で、水処理モジュールについてはあえて手動に切り替え、停止させる時はしっかり停止させるように運用を変えた。



「この一連の問題解決へのアプローチを見て、君たちはどう思った?」

その質問に、NASAの職員たちは一様に「上々(グッド)」と答える。

問題が顕在化する前に、その芽を潰す意識の高さこそ、宇宙に行って活動する上では重要なのだ。

日本だけでなく、アメリカやESAだって新しい機器を開発し、それを試してみる。

念入りにやっても、ちょっとしたミスは出てしまう。

有名なものだと、マーズ・クライメイト・オービターの喪失事故がある。

欧州のメートル法と、アメリカのヤード・ポンド法という単位の違いが計算の際にミスとなって現れた。

このミスが出た原因は、通し試験をしなかった事と、別の手法による験算をしなかった事にある。

それらをしなかった理由が、予算の削減であった。

それ以前はやっていたのに、この探査機だけしなかった。

しなくても大丈夫だろうという驕りが、135億円相当の機体喪失という高いツケを支払わされる事になった。

念には念を、石橋を叩いて渡るだけでなく、同じ素材で全く同じ石橋を造って一回壊すまで実験して安全性を確認する、それくらいで丁度良い。

新技術は何かと失敗する事が多い。

あとはどうリカバリ出来るか。

その柔軟性もまた重要な要素である。


日本の金星探査機「あかつき」は、金星の衛星軌道投入時に新開発のメインスラスタが故障、失敗と看做された。メインスラスタの5分の1の出力しかない姿勢制御用スラスタを、長時間噴射させる事で、一旦遠ざかった金星の衛星軌道投入に再挑戦。

軌道要素、観測計画を練り直して、リカバリに成功したのだ。

小惑星探査機のイオンエンジン全機故障時も、生きている装置同士を組み合わせた「二個一」運用といい、宇宙ではそこにある物を使って目的を達成する事が重要である。

NASAの担当者たちは、パートナーの能力を見て、その評価を更に高めていた。


「今回、日本人たちが妙なくらいこだわっているバスタブモジュールが役に立ったようですね。

 彼等の開発要求を承認しますか?」

その質問にNASAの上司は答える。

「無論、ノーだ!

 それはそれ、これはこれ。

 予備パーツとして機内のどこかにあれば、バスタブ専用の浄水装置として使っている必要は無いのだ!」


この点においては、まだまだ認められるに至っていなかった。

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