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重力が欲しいものと重力無しで良いもの

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

組織改編に伴い、自由裁量が消滅する前に駆け込みで温めていた企画を形にしたいものは多い。

他部門に移るとしても、最後に自分の作品として何かを残したいという欲求がそこにあった。

「天空の湯」という「多分、誰もがそこまでは望んでいないと思うよ」というものもあれば、もっと実用的なものもある。


やはり宇宙でも重力が必要だと考えるのは、動物性タンパク質生産モジュールの企画チームであった。

砕けた書き方をすると、宇宙(スペース)養鶏場(ブロイラー)

豚や牛、羊の飼育は容量的な問題から、まず不可能であろう。

鳥ならば飼う事が出来る。

鳥肉もさることながら、卵が手に入るのは大きい。

また雑食性の鳥は、残飯を食べて処理する事にも利用出来る。

だからずっと前から鳥を飼う為のモジュールは研究されていた。

しかし、無重力が問題として立ちはだかる。

宇宙で筋力を使わない、骨にも負担が掛からないとカルシウムが体内から出ていく。

すると産卵に影響が出る可能性がある。

また、鳥は所かまわず糞をする。

無重力では室内を糞が漂い、地獄絵図と化すだろう。

故に「人工重力環境下で飼えば一件落着」という結論になった。

「鳥は人間よりも三半規管が発達している。

 故に人間なら酔ってしまうような高速回転でも、鳥ならば耐えられるかもしれない。

 また、ダチョウでも無い限り、鳥のサイズは人間よりも小さい。

 回転させる部分も小さくて済むだろう」

正直、風呂よりもずっと実用的だ。

今までは風呂チームよりも穏健派であったのだが、企画が通らなくなる可能性が出た以上、なりふり構わない。

風呂チームよりもアメリカが賛成する可能性が高い為、早急に実用的なものを計画していく。

「色々考えたけど、鶏以上に使い勝手が良い鳥はいないな」

という事で、回転式鶏舎を2基、お互いがトルクを消し合うように逆回転させるものを設計した。


なお、ボツになったアイデアは、いつか日の目を見る為に、アーカイブに残しておく。

「ウズラも良いが、こいつは運動量が激しい上に、かなりデリケート。

 どうしても地球よりは微小重力にせざるを得ない鳥小屋で、思いっ切り飛び上がって、天井に頭をぶつけて死んでしまう可能性がある。

 またストレスを感じて、卵を産まなくなる可能性も」

「遠心力を使った水田とセットで、合鴨を飼う事も考えた。

 将来、もっと半径が大きく、面積も広い農場を作るなら良い案だろう。

 しかし、現状の『こうのす』で実現するには無理がある。

 人間が回転式水田に降りていけない。

 そして現状の狭さでは、合鴨農法をするまでもない。

 むしろ雑草が生えて来ないから、鴨に餌を与えなくても良い、ともならない」

「鶏肉一択な以上、あそことタイアップをしよう。

 あの白ひげのおじさんのチキンのチェーン店」

「となると、胴上げして投げ込む水辺も用意しなければ……」

着々と計画が練られていく。


一方、重力が無い事を最大の利点とするモジュール企画チームもあった。

病院、手術室モジュールのチームである。

某漫画で描かれた、多数に跨る脊椎カリエスなんてのはレアケース。

多くの症例を調べた結果、脳腫瘍の手術が良いという考えに達した。

脳腫瘍は、術前にどこが病変部で、どこが正常な部分かをマーキングする。

しかし長い手術中に、重力によって脳が変形してしまう。

これをブレインシフトと呼ぶ。

その為、変形した患部を確認する為、何度もMRIで調べ直す事になる。

これが無重力ならば、ブレインシフトは発生しない。

よって、コンピューターによるナビゲーションもズレが生じなくなる。

手術時間の短縮が見込まれた。


このチームの最大の問題は「都合の良い患者がいない」事である。

患者がいるから手術室を作るのではなく、まず先に手術室を作ってから、それに見合った患者を探す、という本末転倒が発生していた。

無重力で無ければ手術に困るような患者でないなら、普通に地球上で手術した方が良い。

患者をロケットに積んで打ち上げる危険性からすれば、ブレインシフトなんて既に「どれくらいの変化をするか」のシミュレーションも出来ている為、地上で手術した方が問題も少ないだろう。

それでも

「将来の汎用的な手術室の為にも、まず一歩を踏み出さねばならない」

と言い、

「患者に心当たりが無いならば、探し出すまでだ」

と大学と提携して、難治療患者をネットワークから探し出せるようにしたり、実際に医学部にも協力を依頼し、医療機器メーカーとも手を組んだ、産官学一体のプロジェクトを立ち上げたりもした。

「秋山さん、この宇宙手術室開発の為のベンチャー企業を立ち上げますので、承認をお願いします。

 〇〇大学のインキュベーションセンターの一室で行います。

 協力関係になりますので、提携用の資料に目を通しておいて下さい」


両方とも正攻法ではあるが、今までよりも周囲を頼り、周囲と協力して物事を進めるようになって来た。

悪い言い方をするなら、周囲を巻き込む事で後戻りしにくい状況を作ったとも。

「まあ、これくらいなら目的の為に手段を選ばず、なんて言えないなあ。

 欧米では研究者は単なる研究しかしない者ではなく、ビジネスも考え、自分のアイデアを形にする為の起業もよくやるしね。

 軌道に乗ったら、より大きな企業に身売りして、大々的に進めて貰うってやり方。

 我々も少しずつ、そういう方に変わっていくべきかもしれないな」


総理案件だから、途方もない計画を立ち上げてもOK、いつかまたやるだろうからと、計画が頓挫しても問題無し、そんな時期は終わろうとしている。

チームは少しずつ、社会人的な面で大人なやり方をし始めていた。

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