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組織改編(打診)

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

秋山は、久々に総理官邸から呼び出しを受けた。

(また無理難題か?)

と身構えるが、現総理は前総理のような無茶な事を言って来ない事を思い出し、

(何事も無ければ良いな)

と警戒レベルを下げる。


総理直接ではなく、秘書が秋山に応対した。

「先日来日した米大統領は、君たちの実績を高く評価していた」

「はあ……」

(まさか、現大統領も宇宙に行きたいとか言うんじゃないだろうな?)

そんな気持ちを見透かしたように、秘書は続ける。

「安心し給え。

 現大統領は高齢だし、宇宙に行きたいとか言っていないから。

 前大統領は……知らん。

 まあどの道、君たちに負担は掛からんようにするさ」

「安心しました」

本心からである。

無茶ブリに慣らされた身としては、常識的な対応が心地良い。

「それで、貴方を呼び出した用件だが、君の部門は総理案件から外れる事になる。

 今日明日の話ではないが、いずれそうなる。

 まだ内定の話だから、他言無用で頼むよ」

「は?」

話が繋がらない。

先程は高く評価されていると言ったばかりではないか。

「結論から先に言ったが、説明を要するようだから、話させて欲しい。

 良いかね?」

良いも悪いも無い。

話は聞くまでだ。


アメリカは、日本の有人宇宙飛行の実績を高く評価した。

それで

「貿易黒字減らしとか、そういうお遊びでやらせるのは人的資源(リソース)の無駄遣いだ」

「ここまでやれるなら、もっと深く関与(コミットメント)したい」

という意見が出ている。

ただ、NASAときちんとした提携をしているのは、JAXAの「きぼう」運用チーム及び、宇宙ステーション輸送機運用部門である。

秋山たちのチームは、NASAが指導・協力しているだけで、確かに「こうのす」の使用権も持っているが、研究計画や建造計画に深く関与は出来ない。

だから、ISSに関わる部門と統合した方が良いという結論に至った。

折角、文部科学省宇宙科学研究所(ISAS)・独立行政法人航空宇宙技術研究所(NAL)・特殊法人宇宙開発事業団(NASDA)が統合されてJAXAが出来たのに、その中で管轄が違う総理案件のチームが在るというのは、人的資源だけでなく、打ち上げロケットの奪い合いにもなって、効率的ではない。

当初はお遊びのような感覚で、「運用経験を積ませてやろう」という意識だったNASAでも

「現在の『宇宙で如何に快適に生活出来るか』というテーマは、日本だけに任せるべきではない」

と価値を認めていた。

そこで、ISSの退役や次世代宇宙ステーション開発も含めて、アメリカの計画にもっと「こうのす」を組み込みたいと考えたのだ。

これにはロシアがちょっと関わり合えない事情も関係している。


「なんでも連中は、金星の領有権を主張し出したから、そっちに行って貰うとして、火星の方には日本にもっと関与して貰おう」

有人火星探査はまだかなり先のミッションではある。

中止になる可能性だってある。

それでも、やるやらないに関わらず、基礎実験からの準備は始めたい。


という話は、総理・大統領の直接の話ではなく、随員・関係者の間で出された。

アメリカ側は意見交換だけのつもりだったようだが、大統領離日までの間のブリーフィングで総理が

「もう貿易黒字云々で有人宇宙飛行とか、そういう事情は変わった。

 以前であれば官邸主導でこういう事をするのも良かったが、今では浮ついていると言われかねん。

 実際言われているようだし。

 貿易収支もここ数年で大きく変わった。

 アメリカが評価しているものを潰す必要は無いし、彼等が一元化を求めているならそうした方が良い。

 何かと良い。

 どうせ手続きには時間が掛かる。

 今決めてしまおう」

と鶴の一声。

これでJAXAに、秋山に打診される前に「統合し、ISS関係部門の強化」が内定した。

アメリカ側は、日本の決定の余りの速さに驚いていたという。


(諮問されたら「賛成です」と答えたと思う。

 だが、聞かれる前に処遇を決めて、それに従えって言うのも、これはこれで無茶ブリに近いよな。

 時間的余裕がある分、遥かにマシではあるが)

そう思わなくもない。

「質問してよろしいですか?」

「勿論です」

「他言無用と先程言われましたが、部内では話してよろしいですね。

 今後の計画見直しにも関わります」

「よろしいです。

 彼等にも他言無用を徹底させて下さい。

 確実に決定する予定ですが、まだ本決まりではないので、外に漏れたら困るのでね。

 特にマスコミ関係に知られると、面白おかしく脚色されますから」

「それはよく理解出来ます」


「それともう一つ……」

秘書が深刻そうな表情で付け加える。

「これが表に出ると、前総理他、宇宙に行きたい政治家先生の圧が強くなる……。

 君たちの方に直接行かないよう、官邸で食い止めていたりするのですよ。

 芸能人が行けるのなら、政策決定に関わる自分たちも行けるだろう、ってね。

 正直、うちの先生(総理)が総理案件である事を止めようとしているのも、そういう厄介な申し出に辟易しているからでもあるんです。

 今は総理案件だから、うちの先生に強く言えば通ると思っています。

 アメリカとの提携が強まれば、無茶も言えなくなるでしょう。

 だから、絶対に! 彼等に知られないように物事を運びましょう!

 彼等は思った以上に強硬ですので!」


面倒事を食い止めていた事を聞き、秋山は黙って頭を下げていた。

そして

(有り難い。

 だが、このまますんなりと運ぶかな?)

と嫌な予感をし、密かに何かのフラグを立ててしまっていた。

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