アメリカの短期滞在隊の帰還
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「こうのす」計画は、「宇宙でどれだけ快適な生活が送れるか」がメインテーマとなっている、アメリカにとっては。
ただ、ISSの寿命が近づいている為、稼働しているこの宇宙ステーションの役割も増して来た。
宇宙旅行が既にセレブの手の届くものとなっているアメリカでは、ISSよりも「こうのす」の方でそういったお客を受け持って貰いたい。
現在「こうのす」で無重力を経験している短期滞在のアメリカ人飛行士たちは、今後のミッションを見据えて「厳しい生活にも慣れる」事と、「長期滞在においてストレス無く生活する」事の両方を調査する難しい課題を持っていた。
飛行士の訓練生たちは、変に贅沢に慣れないよう新型居住モジュール「アネックス」への滞在は断った。
別名「飛行士をダメにするベッド」である為、この環境を当たり前と思ってしまったら、ISSなんかでは生活出来なくなる。
また日本人じゃないから、風呂生活も淡泊なものだった。
蒸しタオルで体を拭くだけで済ます日もある。
「水を循環利用しているのは理解したが、風呂用にその技術を使う予定は、今もこれからもNASAには無いからなあ」
という事を言っている。
臭いさえ気にしなければ、タオルで体を拭くだけの方が水の節約にはなるだろう。
なお、臭いについてはアメリカ人と日本人では違いがある。
アメリカ人は体臭をデオドラントで管理している。
体臭も口臭も不快感を与えないよう気をつけているのだ。
なお、宇宙ステーションにおいてかなり臭いのはロシ(以下略)。
一方の日本人は、ヒトの匂いというか獣の臭いというか、そういう体臭は西洋人よりも相当に薄い。
だが体臭が無い訳ではない。
無臭を好む一方で、自分が出す臭いには鈍感な部分がある。
更に言えば、日本人は体臭よりも「口臭」では顰蹙を買う事が多いようだ。
余談だが、野球においてかつてはかなり「汗臭さ」に鈍感であった。
とあるアメリカでもプレー経験があるファッショナブルな選手(現在は監督)が
「クリーニングに出したりする時に、臭かったら、相手が嫌でしょ」
と言って香水を使い、それを広めた結果、現在は近くに寄っても香水の良い匂いがするようになったという。
臭い/匂いについて日米の差がある為、入浴についてはアメリカはやはり「日本式は技術の無駄遣い」「そこまでしなくても間に合う」と考えるようだった。
まあ日本人の風呂に関しては、体臭どうこう以上に
「温浴すると気持ち良いんだよなあ。
汗をかくのが気持ち良い」
という部分も強いのだが。
一方でトイレについては、宇宙ステーションにはそれしかないのだから日本式を避ける訳にもいかず、使っていた。
その感想は
「確かに技術の無駄遣いかもしれない。
だが、想像以上に快適だ。
聞いていた以上だ。
排水管の詰まりというリスクを減らす意味でも良いかもしれない。
宇宙飛行士としての知見で、改良を加えた上で、採用するかもしれない」
である。
これは地上スタッフも言っていた。
風呂のように無駄だと切り捨てず、「使ってみた結果、実に価値がありそう、より使える方に改良して欲しい」となっている。
……仕様だけ伝えて、開発するのは日本のメーカーになるのだが。
アメリカが感心したのは、やはり水耕モジュールの効率の良さであった。
既にこの野菜の生産は、様々に改良されて無重力環境でも順調である。
収穫時期をズラし、毎週のように新鮮な野菜を食べる事が出来る。
更にこれをフリーズドライで保存したり、瓶詰や塩漬け・酢漬けにしたりして長期に渡って食べ続ける。
その生産設備(厨房モジュールでハンドメイドだが)も含めて、十分採用の価値があるだろう。
また土壌農耕については
「無重力でこの方法を使うのはやはり難しいだけだ。
月なり火星なりで、微少重力であってもそこで行うに限る」
と判断したようである。
その土壌農耕で収穫する予定のジャガイモ、粉で持っていく小麦やトウモロコシ粉が彼等の主食となるだろう。
また植木鉢に入れて持っていく果樹も、貴重なビタミン源となろう。
唯一の課題は
「大豆をどうしようか?」
であった。
アメリカ人であるノートン料理長が作ったソイミートと水耕モジュールで生産されたレタス、土壌農耕モジュールで生産されたトマトと保存食のピクルスで作ったハンバーガーは、アメリカ人飛行士たちのツボであった。
これは是非とも採用したい。
だが大豆を宇宙で生産してはいるが、収穫→乾燥の工程、そして乾燥完了した大豆からの食材作成と中々に難しい上に、大豆は連作障害を起こすものである。
月の恒久基地なら、交代要員に作業を引き継いでも良いが、火星有人探査の場合こんな事をしている時間的余裕と機械的な余裕があるかどうか。
検討課題となった。
かくして将来の長期滞在を見据えた上で、役立ちそうな情報を実地で取得して彼等は地球への帰還の途に着いた。
だが日本は、まだ挑戦を続ける。
「どうしても動物性たんぱく質を生産したい!」
水系モジュールにある生け簀でのエビの養殖は、まだ第六次隊がやっと本格的に取り掛かったばかりで、これから結果を出す。
「エビと言ったらロブスターだろ」
というアメリカ人は、水槽で育てられるカワエビ(テナガエビ)やヌマエビについて、結果が出ていない為チェックするだけで、それ以上は注目しなかったのだが。
日本の宇宙での食糧生産は、また新たなステージに入ろうとしていた。
口臭云々の話は、知り合いの歯科医と話して知った話でした。




