テレビ番組の放送後、問い合わせが増えて来た
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
初の宇宙を舞台にしたバラエティー番組は全放送回を終了した。
反響が凄い。
東京キー局の方、アラフィーとはいえアイドルの方は
「あの人なら行ってもおかしくない」
と言える技術や根性があった。
高視聴率とも相まって注目はされたが、元々普通の人よりもスキルが高いだけに、我も我もとはならない。
反面、見る人ぞ見る北海道のローカル番組は
「あいつが行けるなら、自分だって」
と思わせるものがあった。
とにかく、宇宙に行ったって何もする事はない。
別段高い技術、重機を動かすとか、農業知識を実地で知っているとか、何も無い場所で生活をするとか、そういうものは無い。
有るかもしれないが、そもそもやる気が無い。
積極的に行きたいという気が無かった、訓練だって嫌々受けたのに、それでも宇宙まで行って帰って来られた。
「だったら自分だって」
と思う人は、こちらの番組を見てから増えている。
視聴者も馬鹿ではない。
国際宇宙ステーションの方の宇宙飛行士は、最低でも大学修士卒の学力が必要である。
この場合の「修士卒」はそこで終了ではなく、「博士課程に在学中」が前提だったりする。
博士課程でない修士卒でも行ける事は行けるが、この場合はパイロットになるような訓練や語学スキルは当然要求されるし、ミッションスペシャリストならば博士課程の方が優先される。
極めて狭き門であり、まずダメだろうと思うのが当然だ。
それでも行きたい人が、困難を承知で応募する。
それに比べ、「こうのす」の方は「ちょっと海外旅行に」の延長程度で大丈夫と認識される。
実際にそういう芸能人が行ったのだ。
ホテルの宿泊予約が出来る程度の語学力、乗り物酔いが酷く旅をすれば腹を壊す体質、協調性が番組上は見て取れず、毎回喧嘩しているようなグループ。
それでも大丈夫なら……と思われても仕方がない。
「どうしたら日本の宇宙ステーションに行けるのか?」
という問い合わせが増えていた。
「足切りラインは示す必要がありますね」
問い合わせの多さに迷惑した後方から上の方に話がいき、方策を上長から聞かれた秋山が答える。
「まずテレビ番組は、かなりの代金を支払っています。
はっきり言って、探査機のプロジェクトを一個立ち上げられるくらいの額でした。
我々も儲ける為にやってはいませんが、無償でサービスも出来ない。
我々としてはプラマイゼロですが、それでもこの額が用意出来ない人は足切りですね」
北海道ローカル番組が宇宙遊泳のオプションを最初断ったり、アメリカでもどこかに出掛けたりしなかったのは、既に予算オーバーだったからだ。
「あとは健康状態での足切り」
行った2番組以外にも、大金を出して宇宙ロケをしたい番組は多数あった。
最初に送られて来た候補者リストは、大半が肝機能とか心肺機能に異常があり、書類選考落ちとなったのだ。
五十肩で手が上がらないとか、痔持ちとかは可愛い方なのである。
それ程までに不健康な人間が多かったのだ。
あとは精神状態。
散々喧嘩していたチームは、かなり健全であった。
世の中には、権力を持っているが故に「喧嘩等起こらない、何故ならば喧嘩とは対等の関係でのみ起こり得るものだからである」という関係も存在する。
ぶっちゃけて言うと「パワーハラスメント」というやつだ。
まあ、ここは足切りのガイドラインとしては明記困難であろう。
「学力とかはどうするかね?」
「学力は……正直いって英語でのコミュニケーション能力があれば、行くだけなら不要です。
機械を操作出来る能力、計器を読み取って状況を判断出来る能力、パニックにならない精神力があれば、行って来るだけの宇宙船の『お客様』としては問題無いんですよね。
万が一の事故の時、しっかりコミュニケーションを取れて、勝手な行動をせず、冷静に対処出来る事の方が単純な学力よりも重要ですね、『お客様』としては」
「『お客様』でなければ?」
「まずミッションスペシャリストです。
個人的には、研究の内容が確かであれば、研究をする能力があれば学歴で見なくても良いと考えます。
『こうのす』では農業と滑空機以外は複雑な研究はしない、そういうのはISSの方で引き取ると決まりましたからね。
むしろ中学の科学の先生とかが1週間滞在するとか、そういう方が良いかもしれません。
一番重要な機械操縦系の宇宙飛行士ですが、これは最低でも飛行機を操縦出来るくらいが足切り線ですね。
今まで挙げたお客様やミッションスペシャリストに多くを要求しない以上、機体を操縦する飛行士はISSに行っても大丈夫な者が望ましいです。
元々このミッションは、宇宙飛行訓練・養成ですからね。
おまけにおまけがくっついて、更についでにあれもこれも組み込まれた結果、今の形になってますけど、本筋だけは見失わないようにしませんとね」
JAXAの悪い癖である。
「宇宙飛行士養成だけじゃ勿体無いから、科学実験もしよう」
「科学実験をするなら、訓練機では足りないから宇宙ステーションを用意しよう」
「宇宙ステーションで実験するなら、科学関係者も連れて行ったらどうだろう」
「ISSよりはハードルが高くないし、そういうミッションスペシャリストも暮らしやすい快適な生活環境を作ってみよう」
「快適な生活環境の実験は、アメリカの今後の飛行計画にも役立つから、アメリカももっと関与を強めるよ」
と今ここまで来てしまった。
それでも一番最初の目的である「有人宇宙飛行を行い、実際に宇宙に行く飛行士も、それを管制する経験も、飛行士並びに管制官を養成するノウハウも手に入れる」という部分だけは忘れないでおこう。
飛行士の方は、ISSに行ける飛行士の選考漏れから希望者を募れば良い。
あとは短期滞在を希望する者たちどうにかする事になる。
ともあれ、宇宙に興味を持って貰い、今後の人材を見い出すという面では、バラエティー番組の宇宙行きは大成功であった。
玉石混交の、今は熱に浮かされて希望が殺到している中から、玉を見つけ出して育てあげようではないか。
母数が多い方が、思いがけぬ玉が混ざっているのを見つける可能性も高くなるのだから。




