短期滞在隊はアメリカより
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
宇宙ステーション「こうのす」はアメリカも使用権を持っている。
それを活用し、宇宙飛行士の訓練生を短期滞在として送って来た。
ソユーズの運用に……ちょっとした、いや結構な問題が起こり、宇宙行きはアメリカが本気を出さざるを得なくなっている。
宇宙飛行士が多いアメリカではあるが、新人育成もやっておかねばならない。
今回は6人の飛行士が訓練で「こうのす」に一週間程滞在する。
彼等は確かに訓練目的で来ている。
それと並行して、他にも目的が有った。
それは日本の水耕モジュールの見学だ。
快適な生活を宇宙でも行うというテーマで、日本は悪ノリに近い開発もしていた。
そんな中で、一切の無駄を省き、可能な限り人手を介さず機械制御を多用して、宇宙での食糧安定生産を行っている水耕モジュールはアメリカのやりたい事に合致している。
大航海時代、長期間陸地を離れて海で過ごす船乗りたちを苦しめた壊血病はビタミンC不足によって起こる。
ビタミンAが不足すると、暗闇で目が見えにくくなる。
ビタミンB1が不足すると脚気になる。
ビタミンDが不足するとくる病(骨軟化症)が起こる。
他にも、重病とまではいかずともビタミンが不足すると変調を来す。
サプリメントを愛するアメリカ人ではあるが、例えば火星までの長期飛行に補充が効かないサプリメント錠剤に頼り切るのもいけない。
水耕用の培養液を宇宙船内もしくは宇宙基地内で出る廃棄物から再生成する事も考え、何度でも栽培して収穫出来る野菜を生産した方が良いだろう。
水耕の作物選定で、日米には違いがあった。
アメリカはとにかく栄養学重視。
特に重要なビタミンCの豊富なクレソンやルッコラ、ケールなんかを考えていた。
なお味の方は、予め料理の専門家が美味しくなる手軽な料理を考え、船内で加工して貰う事になる。
ケールは栄養価は素晴らしいが、青汁の原料だと聞けば何となく味の想像は出来るだろう。
一方の日本は、旬重視である。
季節を考え、その時季に何が一番栄養価が高くなるかとか、人間の体が何を欲するかで食べるものを決める。
寒い時期は白菜とか、暑くなったらレタスとか、そういう発想をする。
「四季なんて、エアコンで年中一定の気温にし、90分で地球一周の宇宙ステーションでは関係無いだろ」
とアメリカ人は言うが、「こうのす」は日本が夏の時期には室内温度の設定を若干高めとし、冬の時期には逆に設定温度を下げて、何となく四季を忘れさせない運用をしていた。
金曜日には必ずカレーにする等、生活リズムを狂わせない、その点ではアメリカ以上に規則正しい生活を管理しているとも言えた。
東洋の思想でもある。
春夏秋冬に土用を加えた五行思想。
その時季に木火土金水(青・赤・黄・白・黒)の物を食べるのが体に合っているというもの。
土用の丑の日にはウナギを食べたいとか、そんな風習がある。
本家中国程システマチックなものではないが、日本の旬の物を食べたいという発想には、「季節季節で合った食事がある」「体のリズムを崩さない為には、季節を忘れない方が良い」という整体の要素もあるだろう。
そんなわけで違いはあるが、「こうのす」は日本の宇宙ステーション、アメリカはとやかく言わない。
アメリカはアメリカで自分たちが作りたい野菜を作るから、その為に今稼働しているモジュールを参考にしたい。
それは土壌農耕を同じである。
日本は農学研究の側面がある土壌農耕モジュールの運用をしているが、アメリカは研究は必要無い。
最初からジャガイモを植える事は決まっている。
連作障害とかも気にしない。
必要な時だけ使える土壌であれば良いのだ。
同じ場所、同じ土に植える必要も無い。
トウモロコシのように大量の水を必要とせず、高エネルギーでかつ長期保存が効く作物であれば良い。
そしてあえて無重力でする事もせず、月基地なり、燃料の関係で越年せざるを得ない火星基地で、低重力ではあってもちゃんと上下がある中で栽培する。
見たいのは、どれだけオートメーション化出来るか、太陽光をどう補っているか、であった。
「しかし、プランター植えとはいえ、果物が生る木を持ち込むのは良い考えだ。
いつでも、という訳ではないが、ビタミンの補充には最適の果実が得られるのは良いな」
「工房の外にもスプラウト野菜があり、伸びて来た芽を何度も食べるのも合理的だ。
これも何度でも食べられるな」
「日本人にとって合理的な、水草の栽培も良い考えだと思う。
水の再処理と酸素生産の一翼を担っているようだね。
まあ我々は水草なんか食べられないが……」
西洋人にとって海藻は「海の雑草」であり、食べたくないもののようだ。
「自分たちが火星までの短期滞在をするなら」という具体的な視点で「こうのす」の食糧生産を観察し、意見を言い合うアメリカ人飛行士たち。
そんな彼等は、ノートン料理長にハムを大量に挟んだサンドイッチや、チーズをふんだんに使ったグリルチーズサンドをリクエストする。
そしてコーヒーを飲み、サプリメントを何種類も飲んで栄養補給する。
「いやあ、この宇宙ステーションの飯は美味いなあ」
そう言うアメリカ人飛行士たちだが、ノートン料理長からしたら
(あーだこーだ言いながら、お前ら野菜食ってねえだろ!)
という文句があった。
野菜は大量に有るのに、ほとんど見向きもしない。
「ピーナツバターはあるかい?
たっぷり塗ったトーストが大好きなんだ」
「ほうれん草サンドもありますよ」
「そうか、後でね」
カートゥーンの水兵のように
「ほうれん草ちゃんと食え!
もしかしたら超人的な力が出るかもしれないだろ!」
と言いたいノートン料理長であった。




