宇宙ステーションどうでしょう?第7夜
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
アラフィーの農業アイドルが生き生きと、宇宙ステーションにおける野菜生産の場に入って収録しているのと対照的に、北海道のローカル番組の方は何もしていない。
元よりそういうスタンスである。
もうすっかり治っている筈だが
「具合悪いんだよ」
と言ってコア2に用意された個室から動こうとしない出演者。
本来の個室について改めて説明しよう。
ISSの個室同様、電話ボックスのような空間が個室となる。
上下左右と背中部分がクッション素材となっていて、体を固定して休めるよう寝袋が備わっている。
ISSよりも生活環境に配慮した「こうのす」には、前方をスライド式の扉で閉じる事が出来るが、鍵はかけられない。
万が一の事があった場合、すぐに救出可能なようにだ。
また、完全な密閉状態にもならない。
換気されるようになっている。
無重力で、呼吸による二酸化炭素溜まりを作らないように気をつけている。
扉は完全に他と遮断する為ではなく、単に照明を遮って暗くする、外から簡単に除き見られないようにしてプライバシーを守る程度のもので、簡単に言えば漫画喫茶の個室の扉のようなものだ。
新型居住モジュールの個室も、基本的には同じである。
ただ、こちらは両手を拡げられる程度には広い。
またクッション材も布団も柔らかく、札幌ドームの人工芝とアメリカの球場の天然芝程の差があると言えた。
アメニティグッズも充実しているし、何よりもモジュール全体が宿泊専用に作られている為、ホテルのような趣があった。
その新型居住モジュールの方を見学した事もあり、出演者は
「なんで俺がこんな棺桶みたいな中に寝かされないといけないんだよ」
と文句ばかり言っている。
文句は、個室の閉鎖性の悪さからも来ている。
本来宇宙ステーションに滞在する人たちは、勝手に個室を開けて押し入るような無礼はしない。
だがテレビ番組なんてのは、例え鍵が掛かっているホテルであっても「寝起きドッキリ」と称して、勝手に開けて、眠りこけている個室に入り、荷物を漁ったり、朝4時でも起こしたりするものだ。
それが妙齢の女性であったとしてもやってのける。
人間の醜さをさらけ出すのを良しとするバラエティー番組なら猶更だ。
誰がカプセルホテルの中で休んでいる人を、壁越しに映したものを見て喜ぶだろう?
休んでいると見たら、扉を開けて
「起きろ!
仕事しろ!」
とビンタしに行くのを見せてこそ面白い。
度々そんな事をされた結果が
「俺は今、具合悪いんだよ。
ちょっとは休ませなさいよ、本当に……」
というボヤきとなったのだ。
「おめえ、宇宙まで何しに来たんだ?」
「それを僕に聞くかい?
連れて来たのは君たちだろ?
僕ぁ行きたいって、過去の収録で言ったかもしれないけど、行く気なんか無かったんだよ」
この人、一人称が「俺」「僕」で一定しない。
やさぐれている時は俺を使うが、素に戻ると僕に戻る。
もっとも「僕ぁねえ」という間延びした言い方になったりするが。
「番組の収録で来たんだろ!
休んでいたら、視聴者喜ぶかい?」
「この番組なら喜ぶんじゃないか。
うちのファンは、必死に働いているとこを見るより、こうやって腐っているのを見て
『ああ、いいねえ』
『やっぱりこうでなくっちゃ』
って思うだろうね」
「それじゃこっちの尺が持たねえんだ」
「知るか」
ディレクターと出演者の応酬が始まる。
「で、うちの社長はどこ行ったんだ?」
「筋トレしてるよ」
「あの人もタフだねえ」
「ノルマだっつーの。
筋力落ちるから、1日2時間の運動が必要、短期滞在でも30分以上やってくれって地上で言われただろ」
「そりゃノルマならするさ。
そうしなければならないならな。
でも、それは僕がしっかり休息を取ってからだ!
休みも無しにおめえから『さあ筋トレして来い』って命令されるのは、違うだろうが!」
「うだうだ文句言ってねえで、画になる姿見せろっつってんだ!」
ただ休んでいても喧嘩にしかならないから、結局筋トレしに行く事となる。
コア1の方に移動し、筋トレスペースに辿り着くと、東京キー局の収録風景も目に入った。
「おめえ、農業とかやって来いよ」
「は?」
「ああやって働けっつってんだ」
「いや、意味分かんねえ。
なんでしなくちゃいけねえんだ?」
「する事無いから」
「いやいやいやいや。
農場モジュールは土壌の菌とかがいるから、勝手に入らないようにって注意されてただろ」
「覚えてたんですね」
「当たり前だろ!」
「許可貰って来ましょうか?」
「は?」
「見学くらいなら出来るんじゃないですか?」
「あのさあ。
百歩譲って許可下りたとしてだ、僕に何しろって言うんだい?
間違って機械壊しちゃうかもしれないぞ。
やった事無いのはしない方が良いって」
「昔、夏野菜作って、自分で陶器も焼いて、料理するって企画やっただろ?」
「野菜育てたの僕たちじゃないでしょ」
「同じじゃん」
「種蒔いて、収穫するなら僕だって出来るさ。
でも、今やってるのは、まさに育てるって段階でしょ。
ちょこっと手を出して、すぐに帰ります、だけじゃ迷惑かけるだけでしょ」
「…………一言も言い返せねえ」
「だろ!」
米という漢字は八十八というパーツにばらす事が出来る。
「88もの手間が掛かるから」と言われていたりもする。
農業とはそれ程手間が掛かるものなのだ。
宇宙ステーションでオートメーション化し、手間を簡略化しているとはいえ、人が常駐している意味はそこにあった。
かくして、行き当たりばったりの農業参加はボツとなったのである。
なお、ディレクターは諦めきれずに農業モジュールでの手伝いが出来ないか交渉したが、農業アイドル・政府有識者ですら見学やコンピュータの監視以上の事をさせて貰えていない、有菌室へは立ち入れない事が分かって、ようやく本格的に諦めたのであった。
おまけ:テレビ番組ネタを延々書いて来ましたが、元ネタの回数の傾向からも次回でラストになると思います。
ネタは書いてて楽しいものの、縛りにもなってましたし、宇宙関係無い話も結構あったので、切り上げます。




