宇宙ステーション到着
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
アイドルはイメージ商売である。
いくら宇宙酔いが酷いからと言って、汚物を吐き散らかす姿をお茶の間に流すのはよろしくないだろう。
若手アイドルの方はそういう配慮がなされていた。
……五十歳のアイドルの方は、赤裸々に映し出しているのはいかがなものか……。
まあしっかりモザイクはかかっているが。
打ち上げ前夜、実はそれ程眠れなかったという。
如何に落ち着こうと呼吸を整えていても、逸る興奮と、いざという時の不安で眠りは浅かった。
アラフィーアイドルは数年前にやっと結婚し、子供が生まれた。
その家族を残してこの世を去るなんて事は……という妄想が取り付いて止まなかったと語る。
睡眠不足は宇宙酔いなのか、乗り物酔いなのか、どの道具合悪さを助長する。
酔い止めを飲み、早くも酸素マスクをしてリラックスすると、彼は眠る事を選んだ。
「カメラ回ってるとこ悪いねんけど、これは休んだ方がええんや」
こちらも宇宙酔いが始まり具合悪い番組スタッフに気を使いつつも、休む事を宣言する。
一方、若手アイドルの方も始めの内は、胃液を吐き出し続けた。
彼は打ち上げ前に緊張の余り、固形物をほとんど口にしていない。
打ち上げ前にトイレに行きまくり、むしろ脱水症状気味でもある。
吐き出すものなんて無いのに、嘔吐感がある。
彼と先輩が共に苦しんでいた時間は、結局カットされた。
その時間が終わり、ナレーションで
「若い彼は、次第に酔いよりも空腹が気になる」
と解説される。
一日近く食事をしていない彼は、無事に打ち上げが成功し、緊張も解け、無重力にも体が慣れて来ると猛烈な空腹を感じる。
三半規管や脳の血管はまだ無重力に慣れ切ってはいないのだが、多少脱水症状気味だった事もあり、まず水を、次いで
「流動食みたいなのあれば嬉しいっす」
と言い出す。
宇宙ステーションにドッキングするまでは、いわゆる宇宙食しか無い為、丁度良かったかもしれない。
お湯でふやけさせた食事を軽く摂り、胃が落ち着くと次は
「もっと食っていいですか?
丸一日食わなかったから、腹減ってしょうがないんですよ」
と更なる食事を要求し出した。
「俺の分の宇宙食も食ってええよ」
年配のアイドルが気を使っている。
彼はもう少し休みたいようだ。
気を張っていたとはいえ、宇宙に来るまでの気の疲れはやはりあるようで、宇宙ステーションとドッキングするまでは休んでいたい。
そして若さなのか、天然なのか、回復が早い若手はここからドンドン元気になっていく。
「見て下さいよ、ほら、片手逆立ち腕立て伏せ」
「指立てでも出来るんちゃうか?」
「それだと掴まれないんで、浮きっぱなしになっちゃうんですよ。
ほら」
「せやねえ」
元気な若手に、ちょっと疲れ気味でも付き合ってやってる年配アイドル。
道中、地上のお仲間と音声通信を行う。
『リーダー、どう?』
「あかん、酔った」
『酔ったって何さ?』
「具合悪いん」
『じゃあ、俺代わろうか?』
「来れるもんなら来てみぃや!」
軽く喧嘩というコミュニケーションをした後、気を取り直して宇宙船内でもテレビ用の活動を始める。
慣れ親しんだ仲間と話すと元気が出るようだ。
そしてドッキング後の事を先輩後輩で話し始める。
「やはり、あの巨大ヒーローのように中に入ろうか」
「あの巨大ヒーロー、何人もいますけど、どれで?」
「男女で一緒に変身するタイプので、回転しながらはどや?」
「????」
「え? 知らへん?」
「いや、昭和のはあんまり」
「そうか……、平成生まれやもんな。
そやったら、ゼーーーットって叫びながらZ字に飛行するのは?」
「それ、物理法則的に不可能です」
番組スタッフから冷静なツッコミ。
「じゃあ、真っすぐ飛んで入るにしても、グーで飛ぶかパーで飛ぶかやね」
「え?
手を拡げて変身するのいるんですか?
大概はグーなのでは?」
「おるやん。
俺見とったの、手を拡げて出て来たで」
「えー---??
基本スタイルだとグーですよね」
「ちょい待ち。
基本スタイルって何?」
「今のあのヒーロー、フォームチェンジするんですよ」
「それは知ってる。
俺の後輩の〇〇君、その役やったんよ。
マルチ、パワー、スピードタイプにチェンジするんは知っとるよ」
「今は複数のヒーローの力をお借りします! ってやってその特徴を受け継いだのに変身するんですよ」
「へー、そやったんや。
最近のはよお分からんわ」
「ちょっと調べてみませんか?」
こうして調べたところ、グータイプがほとんどで、パータイプは少数派だった。
ただし、あの父子だけは基本フォームで手の平拡げての変身である。
「俺、丁度この世代やねん」
「その子であるヒーローの放送年は……」
「あ、俺の子が産まれるより前だ。
俺、あのヒーローよりも子が産まれるの遅かったんや……」
変なとこで凹むアイドル。
だが気を取り直して色々とアイデアを出し合った。
かくして「こうのす」とドッキング。
ハッチが開くと、年配のアイドルは雄たけびを挙げながら、右手を開いた形で進入していった。
こういう馬鹿話をしながらどうでも良い計画を立てている内に、宇宙酔いはすっかり治っていたのであった。




