親戚との戦い
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
小野はJAXA入所で、裏方の技術職をしたかった。
決して宇宙飛行士になりたいとか、プロジェクトリーダーとして記者会見したいとか、そんな事は思っていなかった。
アメリカに有人宇宙船の仕様確定、調整役、技術習得で派遣されたまま、日本には滅多に帰れない。
あまり人と関わる事が好きではない為、アメリカ人のコミュニケーションには多少ウンザリする部分もあったが、それでも目立たない念願の裏方職とは言えた。
まさか人気番組に登場するなんて、思いもしていなかった。
一時帰国をした際、昔と違って親戚一同が集まるって事も無く、今小野が何をやっているか、どこにいるかは伝わっていても、大して興味を持たれもしなかった。
なにせ、裏方である以上目立たないので、宇宙開発に興味が無い女性陣からしたら
「へー、凄いね。
じゃあ次帰国する時はお土産買って来てね」
程度のものだったのだ。
それが人気番組の中で若手アイドルから肩を組まれても素っ気無い態度を取る。
技術的な説明をぶっきらぼうにする。
話が専門用語混ざりな為、若手のアイドルの方が理解出来ない。
年配のアイドルの方はこれで分かってしまう為、理解出来ない若手の方が質問しても
「自分じゃなく、そちらの方に聞いた方が早いですね」
と塩対応だ。
この様子を見た小野の親戚及び、親戚の親戚、及び親戚の親戚の友達、なんて「お前、誰?」って女性たちからも
「あの態度、酷くない?」
と批難のメールやらメッセージやら直接の電話やらが相次いだ。
彼女たちは、親戚にそういう人がいる事は知っている、冠婚葬祭で会った事がある、親が「あの子が親戚の中では一番頭が良い」と言っていた、その程度の関係性である、実際にじっくりと話をした事なんてない。
小野にしたら、普段の態度なのだ。
そして小野に限らず、技術職の人間は他人と話し慣れていない。
テレビ向けにサービスするなんて中々出来ない。
テレビ向けに笑顔を浮かべようとして、引きつった笑いになるのが関の山なのだ。
コミュ障気味の技術職、裏方志向の人間がそうである事を理解せず、
「彼に対して何て態度を取ってるのよ!」
と文句をぶつけて来た。
これが聞いた事も会った事も無い親戚なら、こうはならなかっただろう。
興味は無かったが、そういう人が居る事は耳に入っていた。
その結果、親戚の自分なら文句も言える、と勝手に変換されてしまう。
そして女の子同士、学校とかで
「昨日の〇〇君、ちょっと邪見に扱われてたよね」
「あれ、うちの親戚なんだ。
サイテーだよね」
「マジ?
それサイテーだわ。
文句言ってやろうよ」
「だよねー。
折角〇〇君の方から話しかけてるのにさ、態度悪いったら無いよね」
「ちょっと、私からも文句言ってやりたい」
「待って。
連絡先聞いてみるから」
こんなノリで、何故か広範囲に拡散してしまっていた。
なお、若手の方のファンではなく、年配のアイドルの方のファンは
「流石は専門家だな。
会話の内容が高度だ。
それについていけるとは、兼業アイドルの農家、すげえ」
と逆に賞賛している。
小野がハイレベルな技術職である分、アイドルの博識や技術知識が引き出されたのだから。
問題は、年配のアイドルの方のファンは、女性も多いけど、同年代のオッサンも多いから、あえて賞賛の為にメッセージを送りまくるようなアクティブさが無い事であった。
SNSでは賛否両論である。
若手の方への塩対応に文句を言う女性アカウントに対し、
「あれは当たり前の事を理解出来ない方が悪い」
「近くによく理解出来ている農家が居るんだから、そっちに聞けっていうのは分からんでもない」
「自分も物分かりの悪い部下にああいう態度を取ってしまうから、気持ちはよく分かる」
と反論がなされていた。
日曜日の放送直後から、知らない女の子も含めた親戚連中からのメッセージが届きまくり、小野はいい加減にウンザリしている。
月曜日も同様、いや、放送が日曜夜だった為に休み明けこの日が最多の苦情を記録した。
火曜日になると次第に収まっていく。
水曜日には苦情も無くなった。
木・金・土、そして次の日曜日の夕方まで平穏な時間が過ぎる。
次の週の日曜日、また燃料投下。
若手アイドルの
「トイレとか行きたくなったらどうしたらいいんですか?」
という緊張から来る電話に
「行けばいいんじゃないですか」
と塩対応する様子が面白おかしく放送された。
「俺の家族によろしくお願いします」
「事務所の人に言って下さい」
「墜ちないっすよね?」
「可能性は0ではないですが、0に限りなく近づけていますよ」
「俺、何も食ってないんすよ」
「じゃあそのまま食わないでいて下さい」
「冷たくない?」
「いつも通りです」
こんなやり取りを、アラフィーアイドルのお仲間がゲラゲラ笑いながら見ていた。
「確かに、こんなに頻繁な電話、うざいっすよね」
と打ち上げリポートをするアラフィーアイドルの方が同情し
「お前、代われ。
俺が宇宙に行く」
とか喝を入れるまでが一連の流れであった。
この様子が放送された直後、やはり多くの女性、先週より更に拡散されたようでそれらから
「私、先週態度直しなさいって言ったよね!」
「なにあの態度、サイテー」
「不安なんだから、気を使ってやりなさいよ!」
等の文句が届きまくる。
(よし、もう電話番号変えて、メールアドレスも変えて貰おう)
小野がそう思うくらい、この日・月・火と親戚と名乗る女性たちからの苦情が殺到したのだった。
だがこれも、水曜日になると鎮火している。
3日も怒り続ける程の事ではないようだった。
だがこの水曜日の夜、新しい燃料が投下されていた。
今度は北海道在住の従兄弟経由で、彼の情報が拡散されてしまい、オッサン連中から
「よくぶつけた!」
「お前、ちょっと大人気無さ過ぎ」
「あの髭にもっと全力でぶつけてやっても良かったんだぞ」
等等メッセージが届けられる事になる。




