第五次長期隊地球帰還とテレビ番組
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
第六次長期隊の前半組が到着した事で、入れ替わりに第五次長期隊も順次帰還する。
第五次長期隊は都合により、先発4人、後発2人というパターンで宇宙ステーションに来たのだが、帰還時は3人ずつの通常編成での搭乗割りとなった。
井之頭船長、農場担当の本広飛行士、水実験系の江畑飛行士が先に帰還となる。
同じ便で来ていた南原料理長だが、彼は後任のアメリカの料理人がまだ来ていない為、後半帰還組となった。
「まあ宇宙に居られるのが延びるのは良いですよ」
そう言って気にしてはいない。
「後任の料理担当者の腕が分からないし、多分中華は当分食べられないと思うから、南原さんの料理には期待していますよ」
古関船長はそう話したが、第五次長期隊の面々は
「うん、腕は良いですよ。
中華は美味しいです。
しかし、当分同じ食材が続くのは覚悟して下さいね」
と釘を刺していた。
中華風に呼んで南原厨師長は、第五次長期隊までに倉庫に貯め込まれていた食材を、律儀に「腐らせる前に消費しよう」と使い切ろうとする傾向があった。
結果、コンデンスミルクが余っていたら、一週間もそれを使った料理を作ってしまう。
悪い事ではないので文句を言うのは筋違い。
それでも、3日目からはウンザリするのが人間の性というものであった。
さて、最後の1日を9人で過ごした後、第五次長期隊からまず3人が地球に帰還した。
一旦様子見で宿舎待機。
その間にテレビを見る。
彼等が宇宙に居た時にやって来たテレビのバラエティー番組、それが現在放送されているのだ。
「宇宙食を食ってみよう!」
男性アイドルたちがそんな企画をやっていた。
この番組は体験型バラエティー番組。
宇宙で何をしたかも大事だが、行くまでの過程もじっくり放送している。
ちょっとした裏事情もそこにはある。
「どうして有名人なら、簡単に宇宙に行けるのだ?」
そういう批判も無い訳ではない。
それに反論するよりも、「行くに当たって文句が出ない程の準備をしていた」と見せてやる方を選択したのだ。
「さあ、これが番組がNASAとロシアから取り寄せた最初期の宇宙食です」
そこにはアルミニウムのチューブに入った過去の宇宙食が並んでいる。
そして画面の下の方にテロップで
「これは昨年収録されたものです」
と表示されていた……。
「さて!
これはもう博物館の展示品なので、勝手に食べられません。
そこで〇〇食品さんに頼んで、同じようなものを再現して貰いました!」
この食品メーカーは、実際に宇宙食の製造もしている。
若手及び一緒に訓練を受けるスタッフも含めて試食。
「うん、美味しい」
「あれ?
もっと味気ないのを想像してたんだけど?」
「おかしい、これ食べられるよ」
意外にも好評。
しかし進行役のアナウンサーが
「そう言うと思って、こちらを用意しました」
と昔のマーキュリー宇宙船サイズの円筒形を見せた。
ここに入って、電気を消して計器の明かり程度の中、一人ずつ試食してもらう。
すると反応が変わった。
「あれ?
味変わった?」
明るい中で皆揃ってわいわいと喋りながらの食事と、暗闇の中一人寂しくする食事では、気分的に感じ方が違ってくる。
後者が真の味であり、皆で楽しんで食べるとその分上乗せされていたのだ。
「どお?
美味しくないの?」
「美味しくない訳じゃないけど、何か味気ない」
続いてジェミニ宇宙船当時の、錠剤のような宇宙食。
長期保存用に乾燥食品となったものだ。
これは口の中の水分で食べるようなところがある。
この試食は不評であった。
「さっきのチューブの方がマシだよ」
「なんか、いつまで経っても硬いし、渋い」
「じゃあ、これを試して下さい」
そう言って差し出されたのは、同じ錠剤がプラスチックのパックに入ったもの。
これを直接食べるのではなく、お湯で戻してから食べる。
「ああ~、まあまあかな」
「さっきよりはマシですね」
その次はスカイラブやスペースシャトル時代のもの。
プラスチックパックの中に、ペーストにして固められたものではなく、普通の冷凍乾燥食材が入っていて、それをお湯で戻して食べるものである。
これを試食してみて
「うん、食事って目でも楽しむものだって、改めて知ったよ」
という感想が漏れていた。
そして現行の宇宙食。
これは日本では、国立科学博物館なんかで市販もされている。
「これはサバ缶です」
「おおー! マジか!」
「名古屋コーチンの味噌煮です」
「すげー!
そんなのまであるんですか?」
「ケーキです」
「日本、やるなあ」
日本のレトルト食品は、ちょっと手を入れればISS FOOD PLAN(ISS宇宙食供給の基準文書)や宇宙日本食認証基準をクリア出来るのだ。
「さて、こうして一通り宇宙食を食べて貰った後やけどな。
俺たちの番組に『買う』って発想は無いやん」
「そうだな。
全部そこにあるもので何とかするよな」
「て事は、まさか?」
「そう!
俺らなりの宇宙食を作ろうやないか!」
「なあリーダー、買う事は無いって言った以上……」
「せやで。
全部廃棄される食糧貰って来て作るんやで」
この流れに、JAXA職員も帰還した飛行士たちも
「どうしてこの番組は、こういう流れになるんだ?」
と半分呆れ、半分感心するのであった。
なお、作られた宇宙食は味はともかく、宇宙食としての基準は満たさなかった為、
「なんか宇宙で食事させるってのも、大変なんやなあ」
「やっぱ宇宙開発を専門でやってる人、すげえや」
という結論で〆られた。




