宇宙ステーションどうでしょう?第1夜
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「秋山さん、北海道から番組の情報送って貰いました」
本放送は水曜日だったが、放送翌日には関係者限定、再配信不可でいち早く首都圏にも番組が届けられる。
会議室で関係者がその番組を観てみた。
「どうも、宇宙の騎士です」
北海道のどこかの公演で、安いコスプレをした男が前説を始める。
ついこの間まで宇宙に行った人物だ。
「2022年、我々はついに宇宙にまで行きました。
なんで宇宙に?
そこに宇宙が在るからです。
しかし、我々は所詮はただのローカル芸人。
特に取柄が有るわけでもなし、宇宙に行きたかったわけでもなし。
そんな我々がどう宇宙に行くのでしょうか?」
「フハハハハハ!
私は宇宙の帝王だ」
もう一人、やはり宇宙に行った人が顔を緑色に塗って、マントをたなびかせながらやって来た。
スタッフの笑い声が入る。
「えーと、スタッフの声入ってますよね?」
「秋山さん、そういう番組です」
そして茶番劇の後、本編に入った。
ディレクターの声で解説される。
「我々は、何も知らないあの男を騙す為に準備を始めた。
まずは大晦日。
あの男は他局の歌番組の司会を務める。
その送迎のタクシー会社及び、その局の担当者と打ち合わせをした。
宿となっているホテルまでの帰り道を撮影する為である。
しかし、隠しカメラを仕掛けたタクシーにちゃんと乗ってくれるとは限らない。
そこで某局のスタッフと協力し、他の出演者が帰った後、一番最後に局を出るようにして貰った」
秋山は
「これ、東京キー局のとはベクトルが違うけど、やっぱり用意周到ですよね」
そう呟いた。
この番組に詳しいスタッフが
「そうですね。
騙す為の準備には余念がない番組ですよ」
と返した。
「ここで彼がホテルに着くまでの間に、我々がどのような準備をしていたのか説明しよう」
番組で解説が始まった。
騙す側は予め、自衛隊の北海道の駐屯地で訓練を軽く受けたのだという。
「ああ、こりゃ辛えなあ」
「これダメですよ。
我々はもう五十歳を過ぎているんですから」
東京でアイドルたちが受けた訓練に比べ、遥かに生温い体験入隊で既に悲鳴を挙げるオッサンたち。
ただ、パラシュート降下は実演されないまでも、受け身の姿勢とか、怪我をした場合の応急手当の仕方なんかは学んだ様子がダイジェストで放送される。
そしてシーンはタクシーでの隠し撮りに移る。
「ここで我々は、いきなり宇宙に連れて行くのも可哀想だからヒントを出す事にした」
ナレーションの説明によると、既にグルとなっているタクシー運転手から、会話がてらヒントを出して貰うようだ。
「お客さん、番組ファンですよ」
「え?
えーと、もしかしてアレかい?
北海道の方の」
「そうです」
「あー、ありがとね」
「新作とか無いんですか?」
「それがですね。
知らないんですよ」
そう言って笑う。
「またそろそろ新作撮影とか有るんじゃないですか?」
「んー---、だとしたら、行きたくねえなあ。
運転手さん、どこ行くか知らされずに連れ去られるんですよ」
「本当ですか?」
「本当です」
「じゃあ、次辺りとんでもない所じゃないですかね?」
「でもねえ、最近アレでしょ、病気で。
海外渡航出来ないじゃないですか。
絶対海外は無い。
だから安心してるんですよ」
「だったら国内ですか?」
「国内なら何するんだろ?
言っちゃなんですけどね、俺、さっきまで国営放送に居たのよ。
ドラマにも出てるのよ。
運転手さんみたいに、俺の顔知っている人もいるでしょ?
見つかっちゃうからねえ、はっはっは!」
「じゃあ、深夜バスとか?」
「それは俺をハメる悪い奴等でも、もうキツいから無理ですよ。
俺たち、もう五十近いとか、五十超えて還暦近いとかですよ。
あんな狭い座席で長時間居るって、無理ですって」
この時点でフラグは立ちまくっている。
「運転手さん、あとどれくらい?」
「あと10分ちょいですね」
「あー、ちょっと運転手さん、済まないんですが、ちょっと休ませて貰えます。
やっぱ疲れたみたいでして」
「分かりました。
大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないから休むんですよ。
やっぱ俺も年だなあ。
もう過酷な企画とか無理だわ」
そう言って後部座席でまどろむ。
ナレーションはツッコム。
「彼は、何故放送局のすぐ傍に宿が取られていないか、全く怪しんでいなかった。
普通なら利便性が良い場所に宿が用意される。
しかしタクシーで数十分移動する場所に宿が用意されているのは、この後すぐに企画の場所に移動しやすくする為であった。
彼はその事に感づきもせず、後部座席で眠りこけていた……」
「お客さん、着きましたよ」
「ん?
着いたのかい?
ありがとね」
そう言ってタクシーチケットを渡し、タクシーを降りる。
そして場面はホテルの部屋の中。
鍵を開けて中に入るよ
「うわ!」
「よお」
中で待ち構えていたスタッフの姿を見て、腰を抜かして倒れる出演者。
「え?
は?
なんで居るんですか?」
「おめえ、そこで騒いだら他の宿泊客に迷惑だろ。
まず部屋に入れよ」
「入れよ、ってここ、俺の部屋なんですけど?」
「あ?
おめえの部屋だ?
よく見てみろ!」
「あ、ベッドが4つある。
ダブルの部屋を1人で使用するかと思ったら、まさか予備のベッドまで用意してダブルの部屋を4人部屋にしやがったのか?
て事は、アレか?」
「察しがいいな」
「かー---っ、マジかよ……。
さっきタクシーの運転手から新作無いかって聞かれたばかりなんだよなあ。
俺、無えって言ったんだけどなあ」
「あの運転手の会話は、仕込みです」
「は?」
「あの運ちゃんは、全部知っています」
「マジかよ。
運ちゃんも知っていて、知らなかったのは俺だけかい?」
「もうカメラ回ってるからな」
「年明け早々に何なんですか?」
「おめえ、これから宇宙に行くぞ」
こうしてやっと企画が告げられたのだった。
本当に、別の意味で用意周到な番組企画である。




