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アイドルは用意周到だった

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

またバラエティー番組で、アイドルが宇宙に行くまでを放送した。

番組を見て

(全然先に進まないなあ)

と感想を漏らす。

アイドルたちは宇宙飛行士の訓練施設にすぐに入らなかった。

JAXA職員も知らない期間がそこにあったのだ。


彼等は東京キー局の強みを生かし、まずは習志野に行って練習をする。

ここには自衛隊第一空挺団の本部が在った。

彼等はそこに来て、基礎訓練を受ける。

まずはランニング。

それも重い荷物を背負って、整地されていない場所をひたすら走る。

アラフィーのアイドルたちだけでなく、二十代の若手、さらには筋肉自慢のスタッフたちも音を上げる程の過酷なトレーニングであった。

これが準備運動で、その後は障害物越えとか、三階程の高さの建物からの飛び降り(下にはトランポリン在り)、綱上りなんかを行う。

手の皮は剥けるし、下手な着地をすると足を捻ったりして痛める。

「これ、JAXAの訓練よりも過酷ですね」

「そりゃ、JAXAは軍人を教育する場所じゃありませんから。

 いざという時の脱出用の降下訓練ですからね」

なお、これでも本職の自衛官ではないし、テレビ番組用である為、訓練としては手加減をされている。

ハーハー言いながらやっとゴールをしても、拍手で褒められる。

これが本職の隊員ならば

「遅い!

 やり直し!

 息を切らすな!

 だらしない姿を見せるな!」

と叱責されていただろう。

ゴールして仰向けになって倒れても、休ませてくれるだけ甘いのだ。


番組の構成としてだが、まず実際に体験させてから、今度は座学で様々な事を教えている。

どうしたら不整地でも重荷を背負って走れるか、どうしたら上手く着地出来るか、怪我に対する応急手当の仕方等を手取り足取り教える。

そして、教えたらそれを実践させる。

最初の訓練の時のようなキツイものではないが、降下は中々厳しいものだった。

やはりパラシュート無しで、3階程の訓練棟から跳ぶのだ。

若手アイドルの中には、足が竦んでしまう者もいる。

「さあ、跳べ!」

「無理です」

「行くんだ!」


そして跳んだかどうかをいきなりすっ飛ばし

「空がダメなら海だ!」

とナレーションされていきなり場面が変わり、見ていた秋山は思わずズッコケてしまった。

場面は関東某所のプール。

収録時期は去年の秋頃だろう。

酸素タンクを背負ってのダイビングの練習。

ダイビングは経験者もいるようだし、そうでなくてもシュノーケルを使った潜水は得意なようで、水中での動作は得意なようだ。

だが、ここでの練習は水中での溶接作業とか、水中での工作作業という職業訓練のものであった。

プールも水泳用のものではなく、もっと深いダイバー養成用のものである。

そこでの練習の模様も放送された。

「随分と周到に準備しているんですね」

秋山の感想に周囲は

「まあ、そういう番組ではあるんですがね。

 それでもここまで準備していたとは知りませんでした」

と応える。

そして場面は勉強シーンに変わる。

どうやら潜水士の国家資格を取得するようだ。

「これもまた、本格的ですね」

レジャーでのダイビングは民間が発行するCカード、ダイバー認定証というものがあれば十分だ。

これはダイビングスクールに通い、4日程技術習得すれば認定証は発行される。

なお、アイドルのメンバーの中には、既にこれを持っている人もいる。

それに対し潜水士とは、労働安全衛生法に規定された国家資格である。

ペーパー試験で潜水業務、送気・潜降及び浮上、高気圧障害、関係法令という科目がある。

驚く事に、この資格すらメンバーには持っている人が居たのだ。


「俺、持ってるから一歩有利だな!」

「待ってろよ。

 すぐに取って追いついてやるからな!」

むしろ若手やスタッフの方が苦労している。


「……彼等、アイドルだよね?」

「アイドルですね」

「本業は音楽活動ですよね?」

「いや、本業は農業だと言われていますが」

「農業だとしても、船舶とか潜水とか、なんでこんな資格持ってるんでしょう?

 重機とかクレーンとかは知ってましたが」

「なんでとか聞いても仕方ないですね。

 他に人がいないなら自分たちでやる、ってのが芸風ですから」


そして今度は海に行き、水中ドローンの操縦練習。

「これ楽しい」

「俺にもやらせろよ!」

「無くするなよ。

 高いんだから。

 無くしたら、潜って取って来て貰うからな」

「うっそ!

 マジ?

 ここ何メートルあるの?」

「1000メートルくらいかな」

「無理だって!

 そこまで潜水出来ねえよ!」

こんなやり取りが、アラフィーの男たちの間で交わされている。


結局、本格的に宇宙飛行士としての訓練所入所は次回放送からとなった。

パラシュート降下練習、潜水作業実習、水中ドローンの操縦と行って五十歳近い方は全員がクリアして、宇宙に行く行かないはともかく、全員が訓練を受ける事となった。

だが若手の方は、候補者3人のうち2人が脱落してしまう。

一人怪我、一人は辞退という形であった。


「次回、ついに宇宙飛行士としての訓練開始!

 どうなるのであろうか?」


ここから後はよく知っているJAXAの者たちは溜息を吐いた。

「なんか、うちで訓練するより先に、うちよりも本格的な訓練やってから来てるじゃないですか」

「もしかして、ミッションスペシャリスト用とか、テレビ番組用の緩和した訓練でなく、本職の飛行士用でもいけたんじゃないですかね?」

「道理で、他の番組より一歩二歩どころか、もっと先に行っていたわけだ」


この放送から数日後、今度はもう一個の番組が北海道ローカルで放送される。

そちらは全く対照的であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、うん 彼ら、六次産業アイドルですし…… 物語の都合で、誇張はあるかもしれないけれど、有り得そうだから
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