今後の「快適な宇宙滞在」の為に
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日本独自の宇宙ステーション「こうのす」計画には色々な目的があったが、次第に「宇宙で如何に快適に長期滞在出来るか」に集約されて来た。
NASAでは月基地建造や火星有人飛行計画に日本の参加も求めている。
その為科学実験はISSで行う事とし、「こうのす」の方は宇宙での生活快適化専念となって来た。
そして、快適さを求めるとなると、俄然張り切るのが日本人である。
余りにも凝り過ぎるから、NASAより
「風呂はこれ以上不要!」
「宇宙で納豆食べたいとか、クサヤを焼きたいとか、ピータン作りたいとか、シュールストレミング開けたいとか、全くもってナンセンス!」
「魚を飼って食用にするのは問題ないが、凝り過ぎて水族館レベルにしないように」
と釘を刺されていた。
そして、制約が多くなればなる程、更に燃えて来るのが日本の技術者魂であった。
「それで考えたのが、この新トレーニング器械ですか……」
秋山が頭を抱えた。
「こうのす」のトレーニング器械は、ISSやスカイラブなんかのものと大して変わらない。
自転車エルゴメータやトレッドミル(ルームランナー)、筋力トレーニング装置である。
無重力では骨からカルシウムが減少する為、それを防ぐ為の負荷をかけるものだ。
非常に目的に沿った散文的なものである。
なのに……
「VRルームランナーに、アクション型自転車トレーニングはまだ理解出来た。
腕相撲マシーンとか、ゴムで固定してのダンス採点ゲームとか……。
君たち、宇宙にアミューズメント施設でも作るつもりですか?」
その他にもパンチマシーンとか、ゴルフゲームとか、背筋測定器とか様々なものに「ゲーム要素」が付加されている。
「筋トレ好きな飛行士なら良いんですけどね。
今の第五次隊なんかがそうですが、特に身体を動かすのが好きでない飛行士も居ますよね。
ノルマだからやって貰っていますが、これから滞在期間を半年に延長するとなれば、無味乾燥なトレーニングじゃやる気出ないのではないですか?」
これは一つの課題ではあった。
筋力の衰えと骨粗鬆症を防ぐ為、必ず筋肉と骨に負荷をかけるトレーニングを行わせている。
しかし、これを積極的にする人と、最低限の事しかしない人に分かれてしまうのだ。
運用に関わる飛行士は、元自衛官だったりで身体を苛めるトレーニングには慣れている。
しかしミッションスペシャリストは元は研究生だったりで、そこまで身体を動かす事が好きじゃなかったりする。
一方、普段はやっていないのに、宇宙滞在の休憩時間にポータブルのゲーム機で遊ぶ時間も増えている。
若手職員が指摘したように、「より宇宙での快適な生活を」にテーマがシフトした為、長期滞在期間が今までの3~4ヶ月から半年に延長される事となった。
宇宙飛行士は、宇宙で何も実験しなくても良い。
そこで生活する事が既に実験になっているのだ。
そうなると、より長期に渡って興味も無い筋トレを黙々と続けさせられる飛行士も出て来る事になる。
だったら
「遊びながら、ゲームをする感覚で身体を動かして筋力や骨の衰えを防げば良い」
という発想に行き着いたのだった。
「しかし、限度というのがありますよね」
「そんなものは有りません」
「この戦闘ロボットの操縦ゲームは要らないでしょ?」
「これ、ロボットアームの操作練習にも通じますから」
「あと移動の為の操作が宇宙スクーターの操縦とも似ているんで、遊びながら訓練出来ますよ」
宇宙スクーターとは、実験中の一人乗り宇宙船の事である。
人工衛星の修理ミッションが入った時に、これに乗って近づく事を想定している。
宇宙ステーションでロボットアームを操作し、衛星を把持出来たらそれで良いが、ちょっと遠くにある場合は単身向かった方が良い。
以前は宇宙服の推進装置で向かったりしたが、それよりも小型宇宙船、形状から「宇宙スクーター」と呼ぶものの方が良いかもしれない。
燃料搭載量も、速度も、いざという時の自動誘導も可能だからだ。
まだ実証試験中ではあるが、興味を示した飛行士や技術者が多く、今後も研究を続けたい。
だが機械があっても操縦出来る人が少ないと、以前の実験で分かった。
操縦も結構難しい。
そこで遊びながら宇宙で、実地での操縦感覚身に着けをして貰おうという考えである。
「まあ、そういう意図があるのは理解しました。
しかし筐体が大きいでしょ。
宇宙ステーションにそんなスペースは無いですよね」
「いや、言っちゃなんですが、大きく作った空間を持て余していませんか?」
「持て余してはいないと思います。
あの空間の大きさが解放感に繋がりますから」
「6人の滞在ですが、それぞれ農業モジュール、厨房モジュール、水系モジュール、操縦室、あと個室に居るので、広いスペースを活かし切っているように思えないんですよね。
特にいざという時の予備であるコア2の空間は、何にも使っていませんよね。
女性用の更衣室に使われてるくらいで。
更衣室は更衣室で必要ですが、あんなに広い必要は無いでしょ」
「…………んー---、どうも反論の余地が無いような気がして来ました。
長期滞在で、娯楽の少ない飛行士に楽しみながら身体を鍛えさせる意図なんですよね。
それは分かりました。
で、一個質問良いですか?」
「何でしょう?」
「まさかとは思いますが、ゲーム開発会社からリベート貰ってませんよね?」
「失礼ですね。
そんな事は一切していません」
「そうですか。
失礼しました。
謝罪します」
「向こうからは何も言って来ていません。
大学で同期だった人が開発主任になったそうなので、無理矢理協力させたんです。
大学の時に代返したり、ノート見せてやった恩を返せ、と」
「前言撤回!
謝罪も撤回!
リベートより更に質が悪い!
民間企業を脅すんじゃありません!」
だが結局、言ってる事は理にかなっているものの「これ、明らかに趣味入ってるだろ」というアトラクション型トレーニング装置が開発されて、第七次隊から使われる事になった。
「秋山さんにバレてはいないな?」
「バレたところでどうでも良いのです。
将来の人型機動ロボット開発の為のデータ集めも兼ねていますが、それよりも宇宙飛行士の健康維持の為の有用性の方が上なのですから。
バレたとことで運用は続くでしょう」
「それで、本当にデータが手に入ると思うかい?
この反射神経型ゲームで、未来が見える能力とか、空間認識が異常に高まる事とか」
「ええ、あるエライ人が言っていました。
宇宙に進出した人間は、新しい環境に対応して覚醒するのだと」
……裏テーマも込みで、新型トレーニングの計画は進む。




