有人宇宙飛行計画はどうなるか?
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
2022年2月22日、総理大臣が交代した。
「こうのす」「ジェミニ2」は前任の総理の案件である。
貿易黒字解消や、宇宙に縁が無い国を招待するという外交での意味を持っていた。
やがて、単に日本人を宇宙に送る、宇宙飛行士を増やすという目的以外のものが付加される。
ISSで手一杯のスケジュール消費を助ける。
つまり、観光宇宙旅行については「こうのす」の方で引き受ける。
またNASAが今後考えている長期宇宙滞在、月基地設営や火星有人探査の為に
「出来る限り地球と同じ環境で快適に過ごす」
の準備段階での実験役となっていた。
計画開始から2年が過ぎ、状況は色々と変わっている。
アメリカの大統領が交代し、こういう「いかにもアメリカ」なもので貿易黒字を減らさなくても良くなった。
貿易黒字も減っている。
宇宙以外の他の事にもお金を使わねばならない。
さらに観光宇宙旅行についても、アメリカの民間企業は自前でやりたいようだ。
このような宇宙開克を取り巻く情勢で総理大臣が交代した。
「こうのす」計画はどうなるのか、関係部署では注視している。
正直、他にもすべき事があるJAXAで宇宙ステーション運用はオーバーワークである。
「こうのす」関係は総理案件な事もあり、JAXAの他部署からは別枠扱いでもある。
物資調達関係とか、海外関係とか、訓練・指導関係とかで技術畑ではない職員もいる。
技術系からしたら、科学探査機とかロケット関係、業務用衛星や超高速航空機開発といった部門に行きたい気持ちもある。
一方で、この部署ほど自由な開発をさせてくれる所もない。
宇宙での料理とか風呂とかトイレとか、好き勝手に作って来た。
これはこれで楽しい。
「自分は結構ぬるま湯に浸っているなあ」
なんて自覚しつつも、このまま居たい気持ちもある。
秋山が総理官邸から連絡を受けたのは、総理大臣交代から一週間が過ぎようとしていた時期であった。
今は他にする事が多い。
前総理肝入りの有人宇宙開発なんて、後回しにされて当然だろう。
(むしろ、真っ先に連絡されたら、そっちの方が怖い)
そう思う、無茶ブリ慣れした秋山である。
(いっそ、計画縮小とかで手に余る案件に落として欲しいなあ)
そうも考える。
充実してはいたが、それでも本家国際宇宙ステーションの方と独自の宇宙ステーションと、2ヶ所で同じような事をしているのは不合理だろう。
先日、ISSの方で本格研究を行う宇宙飛行士の募集があった。
「こうのす」のプロモーションのせいか、実に多くの者が応募して来た。
考えられるのは、落選組の中から「こうのす」の方に回る飛行士候補生が出る事だ。
「オーディションに落ちた女の子を、研究生からしませんか、って誘うようなものですね」
誰かがそう言っていた。
基本ISS組の方が優先なのだが、宇宙飛行士というリソースを取り合う訳なので、この辺も合理化の必要があるだろう。
「それで、総理の方からは何と?」
複雑な表情で電話を切った秋山に、他の職員が質問する。
「このまま」
「現状通りの運用ですか?」
「そうじゃないけど、このまま、だそうだ」
「だから現状維持ですよね」
「予算は厳密に審査する……つまり減らすぞって言って来ました」
「じゃあ計画縮小じゃないですか」
「その上で当分は今と同じ事をして欲しいそうだ」
「ちょっと待って下さい。
もしかして、予算は減らすが、その枠内で今までと同じ事をしろ、そういう事ですか?」
「そういう事」
「何ですか、そのブラックな指示は」
「だから、それも今まで通りですよね」
今までが、かなりどんぶり勘定で開発が行われていた。
それを厳格に見直すという話になっている。
これは今すぐにでも出来る事だ。
一方で宇宙開発については、何が求められ、何が不要で、どこが冗長だから別部署と統廃合して合理化すべきか、こういうのは就任直後の総理が軽々には判断したくないという。
だから、その判断が着くまでは現状の計画を進めて欲しいとの事。
総理としては、夢のある計画として評価されている「日本独自の宇宙ステーション」は放棄したくない。
一方で、いくら外貨準備高から出していると言っても「税金の無駄遣いでは?」という意見が後を絶たない。
それで科学的には良い顔をしながら、削れる予算は削る姿勢を見せる事で、仕事してますよアピールをするつもりのようだ。
「いやいや、今の計画で予算削られたら、到底維持出来ませんよ」
「官邸もそれは理解していた。
だから特例が許された。
それは民間企業とのタイアップ」
科学研究、基礎研究の為に民間からの寄付は行わない。
本来すべき計画が、スポンサーの意向で後回しにされるのを防ぐ為だ。
だがそれは研究部門の話。
宇宙ステーション部門は、「より一般人に近い人が快適に宇宙に滞在出来る」という方針でやっている。
むしろ民間と密接に協力した方が良いだろう、そういう意見である。
確かに言ってる意味は分かる。
だが……
「開発系は良いですよ。
同じ技術集団として意識が似ていますから。
保険屋とか、広告とか、今回の報道関係とか、旅行関係とか、そっちとの交渉は骨が折れるんですよね!
それも日本企業はまだマシな方で、海外企業からの売り込みが面倒。
国費での派遣でも、うちの広告載せて欲しいと言って来た海外企業もいましたし。
契約交わしてなくても、契約したとか言って強引に割り込んで来ようとしたり。
そういう交渉が面倒だから、タイアップはしないという大義名分を使っていたんですよね!
これ、一見妙案のようでも、その実は仕事増やす事になっていませんかね」
「そうですよ……」
ベクトルが変われど、総理からの無茶ブリは変わらじ。




