届け、チョコレート、その2
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
昨今、プレゼントのやり取りにも気を使っている。
生もの、手作りのものは危険性を疑われる嫌な時代になった。
それでも、商品を買ってそれにメッセージを付けて直接送るようなものなら、相変わらずプレゼントは盛んである。
「宇宙飛行士宛てにチョコレートが多数届いています」
段ボール箱いっぱいに入ったプレゼントを見て、秋山は思わず
(今回の飛行士は、正直目立たないし、女性ウケもしない筈だが、はて?)
と首を傾げてしまう。
その疑問の答えは、誰宛てか仕分けていてすぐに判明した。
「川名様、川名様、川名、川名、石田、川名……」
川名飛行士は、第二次長期隊として「こうのす」に滞在した女性のミッションスペシャリストである。
昨年宇宙に居た時も多数のチョコレートが届き、イプシロンロケットの特別便で「こうのす」まで届けられたものだ。
「彼女はもうとっくに元の職場に復帰しているのに……」
案外、JAXA専属になったと勘違いしている人も多いようだった。
それと、元の職場についてプレゼント送付先が分からない為、とりあえずJAXAに送ったものもある。
石田飛行士は、やはり第二次長期隊の生活主任として活躍した。
昨年の宇宙滞在時も、川名飛行士よりは少ないものの、やはりチョコレートが男性陣よりも多く届いていた。
彼女は主婦であり、プレゼント送付先は一切教えられていない。
だからJAXAに届けられたのであった。
「ここに有っても処理に困るし、両名に連絡を入れて欲しい」
秋山の指示で、直ちに2人に電話が掛けられた。
勝手に転送されても迷惑な場合がある。
まずは意向を聞いてみないと。
川名飛行士、改め今は川名研究主任となった女性は
「いや、迷惑です」
という回答であった。
JAXAに送られたのは、送り先を間違ったか、知らなかった人たちの分である。
彼女の職場の代表連絡先に、その倍のチョコレートが届いていた。
正直職場でも困っているという。
川名主任の意向で、職場の全員に分配されたそうだが、男性陣はプライドが大いに傷ついたそうだ。
この上、追加なんて不要だ。
「JAXAの方で食べちゃって下さい」
という事なので、有難く頂戴する。
JAXAも「はやぶさ」ミッションの時のように、時々凄まじい修羅場に突入する。
その時に糖分は有り難い。
賞味期限までは、そのような事が起こらない事を祈りつつ、冷蔵する事とした。
石田船務長は、既に家族の元に戻っている。
こちらからは
「まあ、折角の皆さんからのお気持ちですからねえ。
着払いで送って下さい」
と言って来た。
流石にそんなみみっちい事も出来ない。
ちゃんと元払いで転送した。
女性ながら女性ウケした川名飛行士程の大量ではない事も、石田さんが受け取る選択をした一因だろう。
これで川名飛行士のような量なら、受け取った方も困っただろう。
チョコレートはこの2人だけではない。
「折笠さま、為末さまってのも来ていますね」
この2人は昨年の短期滞在隊船長と副船長である。
現在はアスリートとなっているが、自衛隊を退官した事もあって、プレゼント送付先を探すのが面倒になっていた。
そこでとりあえずJAXAまで送られたのだろう。
この2人にも連絡を取ってみる。
数がそれ程無い事もあり、受け取ってくれるという事だった。
(この2人は、大々的には放送されなかったんだけどな)
インターネット配信だけでも、ファンは結構ついた模様。
これも時代であろう。
「それにしても……」
秋山は苦い感情になる。
「それにしても、男性宛てのチョコレートは届かないな」
昨年もそれで、宇宙に居た男性ミッションスペシャリストたちが不貞腐れてしまった。
この行事はお菓子メーカーが仕掛けた商戦のものである事は百も承知だ。
しかし、やはりプライドが傷つく、男の悲しい性質があるのも事実だ。
「男性宛てのもありますよ」
もう2箱の段ボール箱が運ばれて来る。
中にはチョコレートも有ったが、安全祈願とか旅のお守り等も詰められていた。
「これは、次に宇宙に行く芸能人たちへのプレゼントじゃないか!」
「ええ、なんか早とちりしてこちらに送れば良いと思われたようで」
というか、ファンはそんな馬鹿ではない。
事務所に送って、事務所チェックが入り、相手の手元に届く頃にはもう打ち上げの為に渡米している、そう計算していた。
そこで逆算した結果、JAXAに送っておけば、出国前にどうにかなるだろうと思われたのだった。
とりあえず、テレビ局、芸能事務所に連絡を入れてみる。
事務所の方から、本人の意向で受け取るという事で回答を貰う。
ただし
「分かってらっしゃると思いますが、現在極めて多忙です。
こちらに送られても困りますので、宇宙に持って行ける分は本人とマネージャーが見て、持って行く事にします。
それ以外の分は、そちらで帰還まで預かっていただけますでしょうか?」
との事であった。
特にチョコレートは先んじて仕分けされ、冷蔵庫に運ばれる。
お守りとか手紙とかネクタイとかは、本人が来た時用の棚に置いた。
そしてイプシロンの部門から連絡が来る。
「今年は特別便どうしますか?」
秋山は非情な回答
「今年は要りません」
と返した。
去年の分と次回の分は届いたが、今いる飛行士の分は全く届いていないのだから仕方が無い。
そして定時連絡の際、こう指示した。
「今日は単なる2月14日です。
それ以上でもそれ以下でもありません。
単なる平日です!
そのように軌道上の連中とは話して下さい」




