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アメリカでの手続き

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

(一体自分はいつになったら日本勤務になるのだろう??)

アメリカに行ったきり、既に3年目の小野は、いつの間にか色んな肩書や役職をくっつけられ、手当も増やされ、そして仕事も増やされていた。

一時帰国は何度かしているが、もう基本アメリカ常駐となっている。

彼自身は技術関連の仕事を望んでいる。

それが無いなら、折角入ったJAXAでも「辞めてやる」となっただろう。

有人宇宙船の仕様に関わる仕事など、技術系の仕事もちゃんとある。

比重としてはそちらの方が高い。

だが人間困ったもので、好きな仕事が9、嫌な仕事が1という比率であっても、精神的な負担は好きな仕事は1、嫌な仕事は9と逆転する。

仕様書作成や技術書の翻訳はまだ好きな部類だ。

役所の手続き系が、とんでもなく面倒臭い。

書類の正式なフォーマットでの作成なんかは、現地雇いの法律家に任せているが、中身も理解せずにただサインなんかは出来ない。

内容についての確認を行い、それで署名をしたり、発送についてGOを出したりしている。


「なんで芸能人とかのスケジュールに、こちらを合わせないとダメなんだ!」

最近忙しくなった理由に、小野は文句を言っていた。

単にテレビ局の都合とかなら

「こちらの言う通りに出来ない以上、宇宙行きは認めません」

と言えば済む。

しかし、それを許さない裏事情が有るのを、アメリカ常駐の小野は知らない。

政治家とか、政治家とか、政治家とか……。

とりあえず宇宙に行きたい「訓練とかを余り受けられず(受けたくはなく)、高齢で、少し病気がちで、多忙な人間」が、選抜の為の外堀を少しずつ埋めて来ているのだった。

つまり、本来なら「こちらの予定に合わせられないなら却下」とすべきを、「彼等に合わせたより短期間で簡単な訓練と選抜に変更して欲しい」と言われたのである。


なお、アメリカは情報公開には積極的である。

軍の新兵器発表なんかでも、影響力があるブロガーとかジャーナリストには、資料まで渡して詳細に見て貰う。

彼等による情報発信が益になると考えているのだ。

その辺はNASAも同様であり、日本のマスコミ関係者の搭乗に協力的である。

アメリカはアメリカでやる事が多いが、その為「出来るだけ過酷な訓練を受けずとも行ける宇宙飛行」については、日本や自国の民間企業に任せていた。


ではあるが、手続き的な部分はやはり多い。

行く人間に負荷が掛からない、それはその分裏方が苦労するという事なのだ。

どんなに成功率が高かろうが、爆発物の上に搭載されて地球の重力から脱する行為は、生命の危険が付き纏うものである。

加えてアメリカは契約社会、書類社会である。

もう過去の話になったかもしれないが、野球選手の契約条項も日本だと簡単な印刷物数枚だったのに、アメリカだと分厚いファイルになっていたのは有名な話だろう。

だから野球選手なんかは法律や金銭管理に詳しい者を代理人として、チームで管理をさせている。

代理人の他にマネジメントの担当者とかメディカルトレーナーなんかは自分で手配するものだ。

小野もそれは分かる。

問題なのは、何故自分がその「代理人として交渉をし、専門家チームを束ねる立場」になってしまったのかだった。

理由は「有能だから」なのだが、出来る事と、やりたい事と、やってて苦にならない事が一致しない事はよくあるものだ。

表に出さないだけで、結構コミュニケーションが苦痛な小野は、嫌だなあと思って止まない。

普段の短期滞在飛行士打ち上げの手続きは、もう大体ルーチンワーク化出来た。

この業務は慣れて来た、そう思った所にまた追加されてしまう。

「自分は芸能事務所のマネージャーじゃないぞ!」

そう叫んだ程に、色々と手配作業が増えていた。

いや、彼が直接するのではなく、彼はスタッフに言って手配すれば良いだけなのだが、テキトーにサボれない管理職はかえって激務になるものである。

ある意味、出世して楽にするには、それなりにサボるスキルも必要なのだろう。


「大体、なんだってろくに技術も知識も無い芸能人を宇宙に行かせるんだよ。

 他に行きたい人いっぱい居るだろうに」

それは学生時代からテレビはまるで見ず、世俗に疎い小野ならでは感想であった。

今回選抜された中で、少なくとも1人は小野よりも技術系免許を大量に持っていた。

そしてアメリカでも、名作SFテレビドラマの宇宙戦艦艦長役が宇宙に行った。

芸能人なのに、っていうのは彼の偏見だろう。


それでもぶつくさ言いながら、実務はキチンとこなすのが、信頼される所以である。

周囲から「ボヤキのオノさん」なんて囁かれている小野だが、どんなにブツブツ文句を言ってながらも、少ない日程できちんと入国、打ち上げまでの諸々、打ち上げに必要な手続き、帰還後のチェック、早急な日本帰国への準備を終わらせる。


「お疲れ様。

 面倒かけた分は手当を出しますので。

 あと、おまけとして行く芸能人のサイン貰えるよう頼んでみましょうか?」

そう言う秋山に、

「結構です。

 特に欲しくないので」

と返す小野であった。


……後日、親戚中の女性から「なんで断ったのよ!」と国をまたいだ苦情メールを大量に受け取る羽目になるのを、彼はまだ知らない。

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