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星を撮る人

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

今回の短期滞在隊の中には、プロのカメラマンがいる。

マスコミ関係者が宇宙滞在を申し出て、一斉に訓練をしているが、それとは別口だ。

フリーの自然カメラマンで、活躍の場は報道ではなく個展や共同展示会等である。

売り出し中の段階は超えているが、有名写真家というにはまだ実績が足りない。

評価はされているが、真の大物カメラマンは評価する側であり、まだまだその域には行っていない。

近年は写真雑誌等も廃刊になり、収入の一つである寄稿や評論も機会が減っていた。

ゆえに

「蓄えはあんまり無いが、まだ生活は可能だし、どうせなら宇宙にでも行ってみよう」

と最初のミッションスペシャリスト募集の際に願書を出していた。

実験や観測を行う研究者優先であった為、選には残ったが順番は後回しになっていた。

それが情勢によって大きく繰り上げとなる。

「この機会を逃したら、次のチャンスは無いかもしれない」

そう思って、全てを投げ打ってやって来たと言う。


秋山はこの写真家の作品を見せてもらった。

水飛沫の上がる滝、渦巻く海とそれを見下ろす橋、ダイヤモンドダストが光る凍れる山など、自然派カメラマンらしい作風である。

「まあ生活もありますから、頼まれて結婚式とかの撮影をする事もありますよ。

 だから自然風景専門ではなく、人も室内の風景も撮ります」

知人が結婚式場関係者で、カメラマンの数が欲しい時は呼ばれてギャラを貰うようだ。

またテレビロケにも帯同し、現在訓練中のテレビ番組スタッフの中にも一緒の仕事をした人もいて、報道ではない特番などで撮影を請け負ったりもする。

そういう仕事で収入を得ていたが、ここ一年程は外ロケが減っていたそうだ。


その割に、使っている機材は最新鋭ではない。

まず銀塩中判カメラを使っている時点で、最新鋭とは程遠い。

最近流行のフルサイズミラーレスカメラでなく、一眼レフカメラを使っている。

何でもファインダーが電子式のものでなく、

「光学式のもので、光の具合や構図を肉眼で確かめたい」

という拘りを持っている。

だが、だからといって電子式を否定はしていない。

「これもこれで味があるんですよ」

と高級コンパクトカメラも使っている。


以前、カメラメーカーからテストを依頼された時、飛行士はそれらを船外で使用し、データを送ったりした。

その時以来のカメラ機材大量持ち込みである。

ただし個人の持ち物であり、真空や超低温、あるいは直射日光による温度上昇への対策はしていない。

宇宙飛行士がカメラの使用テストをした時は、構図とかには一切こだわっていない。

芸術性とか、これを写したいというものもなく、地上からの指示でシャッターを押していただけである。

個人的に気に入った写真も撮ったが、やはり素人写真である。


「本格的な撮影前に、実際に宇宙に出て風景を堪能してみたい」

彼はそういって、船外作業着を装着して、他の飛行士と共に外から地球を眺める。

「金網が邪魔ですね」

そんな事も言った為、命綱をしっかりつけて、投げ出し防止用の鳥籠(バードケージ)の外に出してみた。

しばし沈黙。

芸術系の人らしく、眼下の壮大な地球に感動して何も言えなくなったようだ。

10分以上の沈黙の後、JAXAから預かった宇宙対応カメラで試し撮りを行う。

真空ゆえに音が聞こえないが、何度も何度もシャッターを押しているようだ。

そして月を見る。

低軌道を回る「こうのす」から見る月は、アポロのように大きく圧倒的には見えない。

地上より多少大きいくらいか。

それでも空気の揺らめきや雲の無い中での、生の反射光は何か感じることがあったようだ。

揺らめきが無いのは他の星からの光も同様。

だがこのカメラマンは、単なる星の光には興味を示さなかった。

実際、天体の写真を撮るならスチールカメラで無い方が良い。

自動追尾をさせて、レンズではなく反射鏡を使って光を集め、素子にシャッターを切らずに長時間記録させておいて、後からコンピューターで画像処理を行えば良い。


天体写真家と風景写真家は違う。

天体写真家は、構図とかどうでも良く、メシエ天体を望遠鏡で追尾し、微弱な光を集めて肉眼では見えにくい姿を鮮明に表示させる。

風景写真家は、近くに木立ちとか民家とか海や湖がある事を好む。

例えばウユニ塩湖で、反射する湖面に映る天の川を写したいのは風景写真家の方だ。

天体写真家は下なんかはどうでも良く、天の川の中の散光星雲などを撮りたい。

ここまでデジタルに別れるわけでもなく、その両方の要素を持っている人もいるが、傾向としてはこんな感じである。


風景写真家の方のこのカメラマンは、星の光を「冷たい光」、太陽光の直射を「どぎつい光」と評していた。

そして地球を見て

「大気の中を進んで、温かい光に変わる。

 どぎつい光だけど、地球から夜明けのように、星の縁に沿って光が拡がると何とも言えない良い光になる。

 自分はああいう光を撮りたい。

 なんというか、宇宙という死の世界の中にある、柔らかい世界ってやつを」

宇宙ステーション内に帰還して、彼は熱弁した。

そういう感性が無い飛行士たちは、太陽が地球の縁を光り輝かせる光景を

「あのロボットアニメのオープニングのあのシーンか」

等と考えていたのだった。

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