無人島も宇宙島も似たようなものだ
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
その番組は無人島開拓とか、農業支援とかをしていた。
そこに関わる現役アイドルで、「本業は農業」と言われる人が居た。
彼は、某局の有無を言わさず宇宙に行く為の訓練を受ける男と違い、企画の最初の方から関わっていた。
そして「是非行きたい」と断言している。
アメリカの民間宇宙船の定員は11人。
予定ではこれを9人乗りで使用する。
空いた分は荷物が占める事になる。
万が一の為に正規の飛行士が1人乗り込む為、後は2番組で4人ずつ枠が割り当てられた。
現在選考で振り落とされた結果、6番組が訓練課程に進む事となった。
それらのスタッフ、出演者たちで訓練を行い、結果を見て最終的に2番組が選出される。
最悪、全番組不適格とされる場合も有り得る。
だが、この番組のメンバーについてはJAXAの職員たちも
「他はダメでも、ここだけは行けるんじゃないか?」
と見ていた。
独立して自ら社長となった兼業アイドルと、彼等の元所属事務所の若手、そして番組の肉体派スタッフとカメラマン。
若手の方は、企画を知らされて驚いたようだが、若い彼は
「宇宙とか、すげえじゃないですか。
行きます!」
と二つ返事だった。
ただ、この人は
「太陽は東から上って、月は西からですよね」
と勉強の方は…………なので、そこが不安要素である。
一方、年配だが現役アイドルの方は、他のメンバーが
「お前だけズリぃぞ。
俺に行かせろよ!」
「なんで自分ばっかり良い役決めるんですか。
僕だって行きたいに決まってますよ」
と揉めたようだ。
結局、重機を操作して、杭が立っている砂山での山崩しゲームで勝負して決めた。
全員がユンボくらいは扱える、凄い事務所である。
この番組は気合の入り様が凄い。
秋山たちを悩ませた書類提出の遅れは、ここは無かった。
先んじて国内での訓練に突入している。
とはいえ、非常に忙しい芸能人であり、ずっと訓練だけをしている訳ではない。
密室での生活訓練は後回しにして、降下訓練とか耐G訓練、緊急避難訓練、設備の操作訓練なんかを隙を見て行っている。
本来、行く予定が無い他のアイドルも
「うちの社長、体にガタが来てるから、もしかしたら俺が行くかもしれないじゃん」
と言って、訓練に参加しているのが面白いところだ。
実際、バックアップクルーとして入れて良いかもしれない。
この辺、どこまでが番組の演出なのかは、実に分からない。
普通に考えれば、成功率は高いとはいっても危険な挑戦に変わりはなく、ファン人気の高い芸能人を宇宙に行かせるのは問題視される事案だろう。
だが、彼等は「行く!」と強硬に主張しても何故か納得してしまう実績を持っていた。
まだ放送されていないとはいえ、訓練風景から撮影が入っている。
行けようが行けまいが、訓練を受け、その様子を伝え、どういう判定されるかまでがバラエティーなのだ。
ゆえに、訓練を受ける人数が多ければ多い程、面白い画になるだろう。
まして、若手の方がへなちょこで、五十代間近の方が楽々と訓練をこなしていくなんてのは、実に面白い。
普段バラエティー番組は見ない秋山でも、訓練の様子をモニターで見て
(この人たちは凄い!
一方、若い方がだらしないなあ)
とか思ったりする。
……若い方のだらしなさは、比較相手が悪いのであって、今までにミッションスペシャリストとして宇宙に行った者の中には、最初はもっと酷かった者だっていたりする。
訓練の方は順調だが、彼等については書類仕事の秋山たちには別の負担が大きかった。
某地方局の体当たり型バラエティー番組は、今でこそ人気番組かつ出演者も大物となったが、基本的に4人居れば全て出来る身軽さがあった。
こちらの番組は、東京キー局である為か動く人数が多い。
訓練時点から撮影クルーが大挙やって来て、長い棒についたマイクを立て、休憩時間にはマネージャーがスケジュールの確認をタレントとしているし、撮影機材の荷運びとか雑用をするADが動き回る等、テレビ撮影の現場だなあという風景が繰り広げられている。
彼等はドローンを使って空撮もする為、JAXAの施設内の飛行禁止区域の確認や、そこの撮影許可等をして来る。
申請があって、上長からの許可が下りれば許可証に署名しなければならない。
また、これまではJAXAやNASAが欲する書類にサインさせて来たが、逆に局側で処理する書類についても記入を求められる。
芸能人だけでなく、スタッフもしっかり「どこでどれくらい危険な事をしたか」を管理されている。
経費精算もあり、領収書を切らないとならない場面もある。
地方局の軽いノリで「まあ、おいおいと」なんてのは許されないようだ。
更に、既に述べたようにそのアイドルは若手も五十代間近の方も人気がある。
事務所では個人的にも様々な保険に加入させている。
顔に傷がついたら、例え命に別状がなく、しばらくすれば治るような軽微なものでも、仕事に支障が出るとして保険が下りるようになっているとか。
その保険用に、何をどうするのか、どれくらいのリスクが有るのかについて、保険会社調査員に説明して担当者の名前と日付を書いたりもする。
そして、まだ行くと確定はしていないが、正式に決まった場合に着水地点の下見もしたいようだ。
そこにどういう撮影チームで行くのか、前もって見ておきたい。
そんな感じで、大きい番組には大きい番組なりの手間暇がある事を知った秋山であった。
元ネタは……まあ分かりますよね。
モデルであって、彼等そのものではありませんので。




