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昔は冒険主義で良かったが

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

要求の多い案件をひとまず放り投げて、近々の実務に秋山はシフトした。

日本独自宇宙ステーションの拡張についてである。

今の「こうのとり改」は、「ジェミニ改」で訓練を行う飛行士が、宇宙滞在期間中宿泊する程度の機能しか無い。

要は「空飛ぶカプセルホテル(ただし風呂・トイレ・冷蔵庫付)」なのだ。

無理やりここで実験をするよりも、拡張した方が良い。

この予算は「OK!」となった。

総理案件ってのはこの辺は気前良い。

……どっから金が出てるかは、考えない事にしておこう。


今出ている案は、そのカプセルホテルに「実験室」「倉庫」「宇宙への出入口(エアロック)」+予備の何かを結合して中型ステーションに増築しようという計画だ。

これに一旦待ったをかけたのがアメリカ。

カプセルホテルとしての宇宙ステーションは、アメリカ人が使用する為の基準をクリアしている。

つまり、いざという時に使う気満々なだけに、そこにくっつくモジュールに欠陥が有ったら、それがアメリカ人飛行士を危険に晒すから、「他の部分についても説明しろ」と言って来たのだ。

コンピュータのシステムと同じで、セキュリティホールは一ヶ所でもあれば、そこから全ての崩壊へと繋がりかねない。


そろそろ任期終えて帰国するゴードン氏に昔の話でも聞いてみよう。




「昔の話は、この場合役に立たないぞ」

ゴードン氏はそう語る。

「1986年のスペースシャトルの事故、あれ以前とあれ以降では宇宙飛行士の命の値段が違う。

 昔は冒険者であり、空軍のパイロットの発展形だったから、任務に際して死ぬ事も厭わなかった。

 今は、一人たりとも死なせてはならない、宇宙から冒険が消えたのだ」

そうしみじみ語る。


昔もある程度は配慮していたと言う。

「スカイラブ」という宇宙ステーションで実験を行った時、いくら無重力で水を丸くする実験を見せようが、生物を使おうが、絶縁部分に影響しないかとか、故障を起こさないかとかを考えて行っていた。

だが、時代が進むと、それらは実に雑な議論だったという事になる。

生物は宇宙を飛び交う放射線で突然変異をしないか?

それは実験用の生物ではなく、その中にいる微生物の方が深刻で、バイオハザードを引き起こさないか?

水も、水玉として遊んでいるものより、目に見えない飛沫の方が時間をかけて機材を錆びさせてしまう危険性がある。

そういうミクロからナノの世界にまで気を張らねばならない。

「放射線対策も、昔と今では大分違う。

 昔は太陽についても、銀河についても知識が乏しかった」


今は太陽の活動が活発な時期には、避難用のブロックもある。

宇宙に何度も何度も上がっていると、長期間放射線被ばくをしている事になる為、制限がかかる。

だから

「我々は自分たちも使いたいから、お節介で君たちのモジュールをチェックしているように見えるが、それであってもこれは君たちの為になるものだ。

 我々が60年以上積み重ねて来た歴史と知識なのだ。

 君たちは自分たちの力で宇宙に行ってから、まだ1年も経過していないではないか」


まあ確かに、アメリカ以上に日本人の命は「絶対安全」を求められる。

一人でも死んだら「即刻計画中止! 責任者は処罰! 今後永久に同様の計画は凍結」なんて極端な方に走る可能性がある。

日本は「夢に向かって頑張ったのだから、死んでも本望」というのを、世間のマスコミやら評論家やら、そっち主体で許さない。


まあ、昔の事は「大らかだったんですね」で終わりそうになったので、今の計画について相談してみる。




「宇宙で納豆を食べるとか、湯船に浸かるとか、ラジオ体操をやってみるとか、そんな企画が有りますが……」

「それは必要があってやる事なのかね?」

(そら来た)

秋山は説教を覚悟した。

貴重な宇宙に行く機会に「何を無駄な事を!」と怒られるかもしれない。

「いえ、必要はありません。

 世間にアピールする為のパフォーマンスです」

「ならば、モジュールの1機を全面的にそれ専用で使うべきだ。

 その価値はある」


(え?)

秋山には意外だった。

ゴードン氏は語る。

アメリカだって馬鹿馬鹿しい実験をあえてして見せて、青少年だけでなく、スポンサーに対してもアピールする事は有るそうだ。

「宇宙飛行士の精神衛生の為でもある」

実験、観測、当番制の自分の船務と四六時中仕事で、同じメンバーとだけ向き合っている状態は、精神衛生的に余りよろしく無いようだ。

そこでカメラに映り、自らがパフォーマーとなって地上の子供たちと交流するというのも、孤立して人に会わない環境で長期生活する者には効果的なリフレッシュになる。

最近では宇宙から動画投稿したりも出来る。

「馬鹿馬鹿しいものであっても、本当に馬鹿馬鹿しいかどうかは分からん。

 ハプニングは人に取って良き刺激になるものだ」


アメリカで長年宇宙業務に携わった人のお墨付きを得たようなものだ。

それでも

「そんな無茶苦茶な実験、NASAが容易にOK等出さんだろう。

 だったら、完全に隔離して、それ専用ルームにしたまえ」

と言う事だった。


「しかし、私も日本の食べ物にはある程度詳しくなったが、あのネバネバした豆を宇宙に持ち込んで、糸を無重力空間に漂わせるのだろう?

 君たちは一体、何を考えているのかね?」

「本音は、納豆卵かけご飯にしたいのです」

「生卵とか、ボツリヌス菌だらけではないか!

 ……って、日本は違うんだったなぁ。

 他にまだ何かするのかね?」

「その上に鰹節を散らします」

「あのカンナ屑のような、薄い膜だろ?

 それに何の意味が有るのか?」

「美味くなります」

 ゴードン氏は肩をすくめ、やれやれといったポーズを取った。


「日本人の食にかける意気込みは凄いものだな。

 いつか、我々とは全く違ったアプローチで宇宙生活に進化をもたらすかもしれんな」

その為にも、まずはアメリカの審査を通せ、とゴードン氏は言って討論を〆た。




その頃中国では……

「『天宮』宇宙基地において新しい(ジャン)を作る計画、もっと案を出すのだ。

 宇宙ではどのように発酵するか分からない!

 XO醤より革新的な新しい調味料を開発するのだ!!」


食にうるさい国はまだ他にも在った…………。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石に食文化に対する情熱はどの国も負けちゃいませんねえ…(ただしイギリスとその縁者は除く)こないだも、無重力下での熟成関連で、アイラウィスキーが宇宙から帰って来ましたし、ワインも飛んでいるは…
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