テレビ番組チーム召集に向けて
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
軌道上では「こうのす」2度目の正月を迎えている。
今回は無茶な事は言わず、正月飾りは注連縄以外は「自主的に」となった。
餅も地上で加工したものをそのまま加熱すれば良いものとしている。
雑煮は作るようだが。
一方地上スタッフも、安定運用となっている為、当直以外は休みを取っている。
他人の生命を預かっている以上、緊急時には連絡が取れ、かつすぐに駆け付けられる態勢の職員もいる。
くじ引きでそれに当たらなかった者は、とりあえず連絡だけは取れるようにして旅行OKとした。
「海外は相変わらず行けないから、帰省かな。
子供連れて親のとこに顔見せて来ますよ」
「自分は独り身ですんで。
まあ、折角久々にどこかに行ける権利を得たんで、行使しますよ」
人それぞれの休暇の過ごし方である。
そんな中、管理職という名の常勤労働者は、休み明けから入る事の準備に忙しい。
「3月に打ち上げられる連中の訓練は、休み明け早々に行わなければならない。
短期だし、促成の訓練で済ますけど、それだけに書類手続きをしっかりしないと。
問題が有ったら五月蝿い連中ですからね」
秋山は、書類仕事のアシスタントに話している。
次の短期滞在隊は1月後半の打ち上げで、既に選抜を終え、訓練に入っている。
アメリカ側で最終的にOKが出たら、民間宇宙船で宇宙に上がる。
本来、次回の短期滞在隊のようにもっと前から訓練を行うものである。
しかしテレビ関係の人間にそれは難しい。
「年末・年始は局の仕事がありましてね」
という事で、収録関係はもっと前に終わってはいるものの、色々と忙しいようだった。
そこからのスケジュール調整でこうなった。
であれば、しっかり訓練をしてもっと後に打ち上げを回しても良い。
ここで、この有人宇宙飛行案件が総理大臣に大きく依存する事が影響する。
今年2月で今の総理は任期切れを迎え、内規で再出馬は無い。
次の総理は、貿易黒字縮小で別な事を考えるかもしれない。
実際、色々有って対米貿易黒字は縮小している。
そうなると「今の総理の決定が生きている内に」となって、無理を言って早い内の打ち上げとなった。
「マスコミは総理の批判してましたよね。
でも、その総理の案件に乗っかり、しかもその総理の影響がある内に宇宙に行きたいんですね」
「まあ、マスコミをフォローすると、政治部・社会部と科学部は別物だからな。
それとバラエティー班も。
ワイドショーで与党を批判した次の時間、与党政治家をバラエティー番組に呼んで持ち上げてるなんて事はザラだしな。
一々不整合を気にしても、鬱憤晴らしにしかならないぞ」
「その鬱憤晴らしをしてるんです。
正月も休めず……」
「なら、好きに言って良し!」
秋山も結構いい加減なものだ。
いい加減と言えば、そのテレビマンを派遣する放送局も、である。
書類仕事がズレ込んだのは、局の年末進行で忙しかったせいなのか、もっと前に出していた手続き書類がかなり遅れて届いた事もある。
「この人を選抜しました。
危険が伴うので、家族全員の同意を取って下さい。
出張中の怪我も有り得るので、保険のコピーを添付して下さい。
色々と制限が有る場所に行くので、危険物持ち込まない宣誓書を送っておきますので目を通しておいて下さい。
そして、持ち込む物品のリストを予め提出しておいて下さい。
物によっては持って行けないものもあります。
あと、打ち上げはアメリカからになりますので、ワクチンの接種証明書やESTAの申請もお願いします。
その写しを送って下さい」
こんな事を既に言っていた。
当人が忙しいとか、ズボラとかで遅れて提出されたのだった。
その癖、
「訓練の過程を撮影させて下さい」
という要望だけは先に来ていたので、アメリカの方と調整している。
そのアメリカの方から
「来る人の情報で足りないものがあるから、至急送って欲しい」
と言われたりした。
こういう時に一番苦労するのが、間に入っている人間である。
言って来る側、要求する側は自分のスケジュールで動いている。
間に入った者は、両者のスケジュールをずらさないよう、合わせる形で調整する。
こういった事が管理職の仕事であった。
仕事を始める前には準備。
仕事が始まったら進捗管理、勤怠管理、日程調整。
仕事が終わったら結果報告。
仕事の端境期には、次の仕事の企画や職員の休養調整。
「出世とか興味無かった。
技術関係で現場に関われたら良いと思ってた。
でも、中途半端に偉くなると面倒事が増えて来る。
もっと偉くなれば、承認か非承認か、会合の時に責任者として顔を出すだけになるのかな。
出世興味無いとか言ってないで、上を目指してみるかな」
感慨とも愚痴とも何とも言えない事を思わず漏らす秋山。
一方で彼は知っている。
上に行ったら行ったで、責任を取るという事がついて来る事を。
上に行けば行く程、色んな人間が接近して来るという事を。
中間管理職で適当に人に仕事を投げられない人間は、上に行けばその重荷を全部背負ってしまいかねない事を。
偉くなりたいと思わない、覚悟が出来ていない状態で、他人によって偉くさせられると、身に合わない負担がのしかかり、所謂「位打ち」と呼ばれる呪いに掛かったように衰弱してしまう事を。
不毛な事を考えつつも、仕事だけはこなしていく正月の一日であった。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。




