帰還は1日延期でコラボ
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
『日本上空に前線が押し出している。
予報では明後日には安定するようだから、安全を考えて明日の地球帰還は延期とする』
第四次長期隊の4人が帰還を前に、地球からこのような中止指令を受けた。
滞在が延びる。
「まあ一週間延びても大丈夫ですが……」
「その時には第五次隊の後半組も来るから、『こうのす』は12人乗りになりますね」
最大17人で一週間滞在なら、酸素供給も二酸化炭素除去も対応可能な設計になっている。
思わぬ延期となったが、まだまだ余裕は有るから大丈夫だ。
「昨日はケーキや地球からのチキンを食べましたが、
今日は着任したばかりの南原さんの料理を食べられますね!」
帰還予定者たちがそう言うと、
「折角だから牧田さんの料理も食べてみたいですよ」
と着たばかりの第五次隊の面々が望む。
「じゃあ、コラボっちゃいますか」
「ですね」
料理人2人が打ち合わせに入る。
「えーっと、中華の料理人ですよね?
材料ここに有るので大丈夫ですか?」
「うーん、洋食に使う食材が多いですね。
でもまあ、ゴマ油と片栗粉と黒酢があれば中華の味は作れますな」
「そういうものなんですか?」
「そういうものでは無いんですけど、有り合わせで何とかしないとダメですよね」
この辺は流石に宇宙飛行士に選抜されただけあり、現場対応能力が高い。
「あと、JAXAの審査を通った中華料理の調味料がありますしね」
塩やコショウについて触れたように、粉末調味料はペースト状にして飛散しないようにしている。
だが中華料理の調味料は、案外最初からペースト状、液状のものが多い。
豆板醤、甜麵醬、豆鼓、XO醤、オイスターソース、ラー油、中華醤油なんかがそうだ。
これらの中には発酵物もある為、その辺は殺菌処理として加熱をしている。
更に「紹興酒」と書かれた小瓶も持ち込んだが
「アルコール分は飛ばしてますので。
風味付け用で、飲める代物じゃないですよ」
との事だった。
彼が持って来た中華調味料は全種類合わせて3ヶ月分の2kg程。
「麻婆豆腐とかエビチリとか、毎日なんて作らないので、これで十分ですかね」
中華料理のうち、煮るもの、蒸すもの、和えるものは宇宙でも問題無く作れる。
中華料理の特徴の一つは焼く、炒める、揚げるである。
これの種類が多い。
炒は短時間でサッと炒めるもの。
爆は炒よりもさらに強火で炒めるもの。
炸は揚げ物であるが、
・軟炸=柔らかい衣にする
・酥炸=サクっとした衣にする
・乾炸=調味料を染み込ませ粉をつけて揚げる
といったものがある。
煎は少量の油、中火で焼くもの。
烤は直火で焼く。
燻は燻製にする。
「無重力とか密閉空間ではやってはいけない方法もありますな」
燻がそうである。
ただ、今までの料理人がほとんど使って来なかったアタッチメントがあり、これで中華風の炒も可能となるだろう。
遠心調理器に取り付けるチャーハンマシン。
中華特有の鍋を煽るというものを再現した装置。
無重力でそれをやったら、二度と鍋には戻って来ないのだが、遠心分離機を改造した調理器の中で、遠心力という疑似重力下なら、あまり遠くに飛ばさないなら大丈夫だ。
南原厨師は牧田料理長にその装置を見せてもらい、使ってもみる。
「全然使ってないんですね」
「生卵の補充が無いから、チャーハン作る事がないものでね」
NASAでは生卵を持ち込み禁止としている。
海外の生卵はサルモネラ菌が付着しているからだ。
例外として日本のだけは、衛生管理がしっかりしているから許可されている。
だが、生卵とて3ヶ月も保存は出来ない。
6人が生活するなら、玉子スープ、スクランブルエッグ、ゆで卵、たまに卵かけご飯で2ダースくらいはすぐに無くなる。
そして卵のような割れ物を、そう大量に「対G容器」に入れて持って来る事もない。
だから卵料理は最初の内だけで、2週間以上後ではもう作られない。
生卵は一応5週間は保存出来るようだが、体調管理の上からも一般の生卵同様2週間の賞味期限を守って使っている。
「まあ卵を使った料理は後にして欲しいです。
メインの料理は僕が作るので、南原さんには是非とも作って欲しい料理があります」
「何でしょう?」
「麺料理です!
麺!
麵!
リクエストしてよろしいでしょうか!!??」
「あーーーーー、ラーメンっスね?
無重力だと汁物は……」
「いや、ラーメンはまだインスタントラーメンがあるんだ。
すするの禁止だから、麺が短くされたやつが。
だから、すすらない、長い中華麺料理を希望したい!
出来ますか!?」
「その勢い、作ってくれって事ですね。
まあやってみますよ。
……早速豆板醬使ってしまうな……」
逆に南原厨師は牧田料理長に、置き土産である漬物類について尋ねる。
中華にも漬物は存在する。
ザーサイなんかは宇宙で栽培していないから、地上から持ち込んだが。
「本格中華は兎も角、日本の『町の中華』ってやつだと沢庵とか大根漬けを小皿で出しますからね」
これから自分で漬ける為の食材の事も聞いておく。
そして、もしかしたら翌日に延期の連絡が入るかもしれないが、第四次隊前半帰還組最後の食事で中華麺料理が供される。
小麦粉を練って寝かせる時間を置いてから、〆の料理となった。
「汁なし担々麵は予想していたけど、これがあったか……」
中華の料理人の引き出しの多さに、思わず一同唸った。
「猫の耳」という名の短い麺「猫耳朶」のとろみスープ。
小魚のような形をした短い「撥魚麺」を野菜と炒めたもの。
そして長過ぎはしない刀削麺。
(本当に食べたいのは、もっと日本風のものなのだが、これはこれで良いか)
最後の夜に久々の麺料理を堪能した一行であった。




