冷凍食品
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日本の冷凍食品は、その味をとある国際競技大会で世界に知らしめた。
元々気づいていた外国人も多かったが、大きな大会に出場した選手が褒め称えた事で、
「所詮冷凍食品だろ」
的に甘く見ていた一部の日本人の評価すら改めた。
日本の食品メーカーが作る簡易食は、衛生管理がしっかりしているので、僅かな改良とNASAによる審査を経てすぐに宇宙食として使用出来る。
レトルト食品然り、缶詰め然り、乾麵然り、ドライフリーズした粉末スープ然り。
しかし、冷凍食品はISSでは食されていない。
電子レンジやコンロが使用禁止だからである。
湯煎や湯を加える事で食べられるものは良いが、冷凍食品は電子レンジ加熱をしたり、フライパンで焼き直したりする為、ISS内では使えないのだ。
だが「こうのす」はそれよりも基準が緩い。
排熱処理や燃焼ガスを出さない加熱が可能な専用モジュールを接続している。
万が一火災となったら、自動消火機能が作動するし、更に緊急時は厨房モジュールの該当部を強制排除出来るようになっている。
それもあって歴代料理担当者は、炎こそ使えないものの、より自由に加熱料理を行って来た。
炎を出す事が出来ない事で、チャーハン(炎を潜らせて余計な油を飛ばす)、フランベ(香りづけのブランデー等を降った後、アルコール分を飛ばす)、カツオのたたき(藁のボワっと燃える火が重要らしい)が作れないが、まあ些事だろう。
チャーハンは本格的でなければ、炎を潜らせずともそこそこのものが作れる。
フランベの代用で、アルコールを最初から飛ばした香気だけのものを振りかける。
カツオのたたきは地上で作ったものを冷蔵して送って貰えば良い。
このような調理場である為、冷凍食品も食べる事が出来る。
それは当初から分かっていた事だ。
冷凍食品をわざわざ宇宙で生産する必要は無い。
いくら「こうのす」で農作物や水産物を生産出来ても、そこまではしない。
地上で生産されたもの、市販のものを調理出来る、それだけ確認出来たら良い。
月や火星での長期滞在に向けて、良いデータが得られただろう。
それとは関係の無い、冷凍食品について「こうのす」内で「いつもの」深刻な話し合いが行われていた。
「アイスクリームをもっと上手く作って欲しい!」
「もう12月にもなり、帰還間際にどうしてそんな事を言い出したのですか!」
そう、アイスクリームも冷凍食品である。
加熱する事なく、低温のまま食べる冷凍食品なのだ。
イタリア人とアメリカ人のリクエストで、アイスクリーム製造機は備え付けられている。
イタリア人は、PKOで派遣された先でも軍用のジェラート製造車が稼働していた。
アメリカ人も、太平洋戦争中の海軍大将がわざわざアイスクリームを食べに行列に並ぶ程アイスクリーム好きである。
この両国からの要請で厨房モジュール「ビストロ・エール」には小型のアイスクリーム製造機が在ったのだ。
「練乳を消費したい。
故にかき氷を作った。
それは良い。
だが、もっと美味く作って欲しい」
「確かにかき氷としては失敗作です。
しかし、無重力で氷を掻いても、飛び散るだけでああいうかき氷にはなりません。
それに、練乳も上からかけるというのは難しいのです」
「だから、練乳ごと氷にし、某球場のかち割り氷のような状態にして、缶詰めのフルーツを乗せた、出来の悪い『白くま』みたいなものになったのだろう。
それは理解した。
だが、理解しても納得は出来ん。
もっと細かく砕いた氷でないと厳しい!
そして、本家本元よりサイズがでかいとは何事だ!」
「器が他に無かったのです!」
「タッパーサイズの『白くま』なんて、食ったらこめかみの辺りが痛くなるでしょうが!」
「いや、全部食い切る必要はないんですけどね。
途中まで食べて、冷凍庫に入れておけば良いんです。
名前を書いてね」
「せめて固めてバーにしてくれ。
それと、どうしてアイスクリームを作らないのですか!
練乳消費するにしても、もっと柔らかいものに……」
「アイスクリームに練乳足したら、糖尿病コース一直線じゃないですか!」
「そもそも練乳を使わなければ……」
「まだ大量にあるんです!」
宇宙でアイス製造は余事である。
イタリア人とアメリカ人が、厨房載せるならどうしてもと言って設置したものだ。
そしてバニラと、イタリア人用のオレンジのフレーバーしかない。
抹茶、チョコ、ストロベリー、ミント、モカ、ブルーベリーといったアイス用のフレーバーは用意されていない。
バニラアイスかオレンジソルベくらいしか作れないのだ。
ビタミン摂取用のフルーツ缶詰めから何種類か作る事も出来なくはないが……。
その条件で、練乳を消費しようとした為に「タッパーサイズの荒い白くま」を作ってしまったのは、デザート職人でない以上やむを得ないかもしれない。
それでも、食べさせられる側からしたら
「もっと硬くなく、もっと少なく!」
と言いたくはなっただろう。
この件は船長より定時連絡の時に、地上にも報告された。
日本人スタッフは
「やれやれ、またか」
的な扱いだったが、普段重要な事以外には無関心のNASAからこの件にツッコミが入る。
「是非、善後策について話し合いたい。
君たちはこの件を軽く見ているようだが、
我々にとっては割と重要な事なのだよ!」
流石は「不時着したパイロットを救出した駆逐艦乗りには、そのパイロットの体重と同じ量のアイスクリームを提供する」という習慣が生まれた国だけあった。
おまけ:
秋山はアイスクリーム、いやそのまま食べる冷凍食品の件で、あるメーカーに連絡を取っていた。
「あ、JR東日本さんですか?
JAXAの秋山と申します。
新幹線で売られているアイスクリームについて、どちらに問い合わせしたら良いでしょうか?
「もしもし、井〇屋さんですか?
御社のあずきバーですが、宇宙食として購入したいのですが。
ええ、冷凍保存で賞味期限が無く、ずっと保存出来ますし、
何よりあの硬度はきっと打ち上げの衝撃にも耐えられる事でしょう」




