それでもドッキングポートの増設は必要
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「こうのす」は「宇宙でも快適な生活を」が主な実験テーマになっている。
いつの間にかそうなってしまった。
その比重がどんどん上がっている。
遊び的な機能、余事と見られる機能をオミットしても、モジュールの増設は必要なようだ。
軟式拡張与圧室を活用するとしても、やはりまだ足りない。
現在、軟式拡張与圧室は1ヶ所しかなく、そこを使っている間は倉庫に当たる部分が減る。
3ヶ月から半年に滞在期間を変える上に、今のままの6人運用だと、食糧・水・酸素・二酸化炭素吸着フィルター、汚水処理の薬剤やフィルター、消耗品の備蓄は現状でギリギリである。
これに短期滞在隊が加わると、要領超過となろう。
どのみち、ドッキングポートは増設しないとならない。
では、どのような形のものとするか。
どこに設置するか。
何基接続可能なものとするか。
重心の変化や与圧室の増やし過ぎでの酸素・換気、重量増による推進剤の増加などで、あまり大規模には出来ない。
それだったら「こうのす2」として設計し直した方が良い。
実は今も、当初の想定より2割重い大型モジュールを接続していたり、臨時待機場所となる接続部が2ヶ所(その内1ヶ所は電源接続はされないがハッチを開放して出入り可能)あり、更に多目的ドッキングモジュールにはHTV-Xやソユーズ、プログレスといった輸送機が接続可能という、違法増築に近い事をしている。
もうこれ以上は、宇宙ステーション的には魔改造のレベルに突入してしまう。
なんでも足し算すれば良いというものではない。
バランスを考えないとならない。
どっかの光り輝く強化形態に変身可能な戦闘民族が言ったように、筋肉増し増しでパワーアップするより、一番初期の形態のままベースアップの方がバランス良くて合理的だったりする。
まあ、流石に「こうのす」は機械なので、肉体強化は出来ないから、増築にはなるが、なるべくバランスは崩したくない。
「ドッキングポートだけの増設パーツでどうでしょう?」
リング状のユニットを結合し、最低限の長さの延長で済ませる。
コア部分は現在の2機構成とし、コア3は使わない。
次にドッキングポート数を決める。
干渉しない数となると6ヶ所が限界だ。
それ以上だと、結合モジュール同士がぶつかってしまう。
だが、6機もモジュールを結合すると重くなり過ぎる。
となると今まで通りの4ヶ所か?
「2ヶ所にしましょう」
ある職員が提案した。
それでは要望を満たせないのでは?
その疑問に対し、
「ドッキングポートは2ヶ所ですが、それとは別に拡張与圧室を作ります。
上下にモジュールを接続するなら、左右は自動で展開可能な軟式拡張与圧室とする。
ここを必要時には展開して、多目的で何かに使います。
現在の拡張与圧室は、今まで通り倉庫や実験場として使いましょう」
「接続したいモジュールは多いが、2ヶ所で大丈夫かな?」
「既に拡張与圧室の方に集約できるものはする、としてます。
どうしても、というものだけ結合させましょう。
あと足りない部分は、今までの想定通り、駐機場所に現在結合中のモジュールを移し、必要なものを結合して対応するという事で」
可能な限り運用方針は変えたくない。
余りに今までと違う使い方をするなら、各種マニュアルを書き直す必要に迫られる。
この辺も「魔改造はほどほどに」の理由である。
では、それをどこに設置するか?
コア1の先が良いという意見が多い。
コア2には何度も出ている駐機場所が2ヶ所ある。
そこに臨時で、例えば新型居住モジュールと地球/宇宙観測モジュールを取り外して置いて、別なモジュールを2機結合させたとする。
その上で更に2機の結合はバランスが悪い。
最大6機ずつの方が良いのではないか?
だが、ある者が提案したものが波紋を呼ぶ。
「コア1とコア2の間に入れたら、前後左右のバランスが取れますよ。
それにコア1、コア2両方から近いので、電源供給も受けやすい」
この方式の欠点として、既に結合済みのコア1とコア2を一旦分離させ、そこに差し込む事になり、難易度が高くなる事が挙げられる。
また、船体中央部へのドッキングは、端で行うよりも難しい。
反対意見が出る。
「コア1は既に能力的にはいっぱいいっぱいですよ。
農業系2つと厨房、そして水処理モジュールという結構『重い』モジュールをくっつけてますから」
この場合の重いは、対生物汚染対策機能を持つ土壌農耕モジュール、熱処理や自前の発電機能も持つ厨房モジュール、水処理モジュール内の水という物理的な重さの他に、処理が重要という意味も含まれていた。
コア2接続の宿泊、科学実験、観測、そして多目的ドッキングに比べ、重要度が高い。
コア1に更なるモジュールを追加したら、厳しいというのが彼の意見であった。
「中央部に挟み込むドッキングは難しいぞ」
「ですが、操縦技術を持った飛行士は2人常駐していますよね。
船長と副船長は正規の飛行士で、宇宙船の単独操作、手動での操縦、ロボットアームの取り扱いは出来ますから」
うーん、と秋山も唸る。
一長一短だ。
この件は、まだ時間が有る事から継続審議とする。
「……に、してもだ」
秋山が呟く。
「簡単に滞在期間を延ばす、ドッキングポートを増設すると言えるが、
実際にやろうとすると課題が山積みになりますな。
想定を超えた使用は中々に難しいものです。
いわば宇宙船は制限が多い『瓶の中の帆船』みたいなものです。
ここに瓶の外からピンセットで追加の帆柱や外輪を追加するような作業になりますね」
瓶の口を通るサイズで部品を運び、中の船を壊さないように増設改造をする。
その面倒臭さを想像し、職員たちは複雑な表情となっていた。




