衣料と、再び住環境
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日本の宇宙生活で、他国とそれ程変わり映えしない分野が衣服であった。
仕方ない。
吸水速乾、抗菌消臭、動きやすい、着⼼地が良いと言った機能重視なのだ。
アパレルメーカーとコラボする事もあるが、どんなにデザインに気を使っても、やれる範囲は限られる。
間違ってもジョ〇ョ第5部のイタリア人ギャングたちのような、奇抜な衣装は出来ない。
そういう場ではないのだ。
船内着はまだ良い。
船外作業服になると、ノウハウの無い日本よりも、アメリカのもの一択となってしまう。
アニメの世界では、様々な船外着が登場しているが、それはまだ実現していない。
「こうのす」計画で、ISSの船内服と違う考えのものがある。
「こうのす」では船内で洗濯をして再利用するのだ。
ISSではポロシャツであれば15日に1枚、下着であれば3日に1枚、といった具合に品目ごとの着替え枚数が、滞在予定日数から逆算して決まる。
着終わった船内服は、他の廃棄品と一緒に空の補給船に積まれ、大気圏再突入によって焼却処分されるのだ。
しかし、「地球から簡単には補給が出来ない空域での長期滞在」となれば、そうもいかない。
選択して再利用する事になる。
洗濯には普通に考えれば水を大量に使う。
如何に汚水処理専用モジュールを取り付けた「こうのす」と言っても、余り良い方法とは言えない。
そこでオゾンや紫外線、熱風、更には特殊な洗剤を使う事で、水を使わない洗濯をする。
これは既に市販のものが存在している。
ただ、オゾンは基本的には毒だし、紫外線は服を色落ちさせる。
熱風で服地が縮む事もある。
こういった事に気を付けた船内着、特に下着が実験として使われていた。
このセッションでも、アメリカ人は実務的な討論に終始する。
船外作業服の機能向上や、軽量化については真剣に話し合われた。
それはそうだ、ここはアメリカの担当なのだから。
船内着については
「宇宙ステーションも火星行き宇宙船も月基地も、ファッションショーの場じゃない。
常識的な服であれば、特にそれ以上は何も言う事はない」
「水を使わない洗濯は価値がある。
それは消費電力の問題をクリアすれば、長期滞在に使用出来る」
こんな感じである。
またフランス人とイタリア人から「あとで別な会議を」というメールが届けられた。
衣服は住居と密接に関係する。
寒ければ厚着に、暑ければ薄着になる。
汗をかけば着替える回数は増えるし、汚れる作業をすれば洗濯、酷い場合は廃棄に回す。
「入浴、シャワーの回数が多い日本人は、服の汚れも少ないというデータになっています」
これにはアメリカ人のみならず、フランス人や現代イタリア人も「ふーん」といった態度だ。
フランス人は余り入浴をしない。
その代わりに香水をつける。
宇宙ステーションは密閉空間で、香気は好ましくない。
故に香水をつけられず、その為体臭が強く出てしまう。
古代のイタリア人は風呂大好きだが、現代イタリア人はそうでもない。
そしてニンニク大好きだ。
やはり体臭が出て、服にも臭いが染みつく。
洗濯が出来ない宇宙ステーションでは、服が他のゴミ同様に廃棄されるのも分かる。
「洗濯による再利用で、強度のオゾンや紫外線を使わない為にも、
飛行士の入浴は重要だと考えます」
やはり反応が薄い。
日本人の言っている事は分かる。
日本人が開発した、風呂の水再利用システム(浴室自己完結型)の凄さも分かった。
凄いというより彼等は
(そこまでしてやる理由がわからない)
と、ドイツ軍の凝りまくった兵器と同様に見ている。
彼等にしたら、日本人は臭いに敏感過ぎる。
多少臭い方が人間っぽくて良いではないか。
3日に1枚の間隔で着替える下着だって、その気になればまたはけるだろ。
ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌだって、ブルーチーズの臭いがしたのだ。
人間ってそんなものだろ、と思う部分があった。
だが
「シャワーは気持ち良いものな」
「リフレッシュ効果は確かにある」
「その二次的な効果で、服を長持ちさせられるなら、それは採用出来る」
「日本が開発した使用済みのシャワー水の再利用は、更に性能向上させて貰いたい。
主に消費電力を減らす方にだ」
と、まあまあマシな感想が得られた。
風呂と並び、日本人が凝りまくるのはトイレである。
秋山は、これについても反応が薄いものと思っていた。
だが、違った。
物凄く反応があった。
「あの洗浄機能付トイレだが、宇宙で飛散させない工夫をもう一回聞かせて欲しい」
「洗浄位置は日本人に合わせているのだろ?
違う?
ムーブ式?
そうか、日本人とはサイズが違う我々の飛行士でも大丈夫だな」
「洗浄後の尻の除菌状況についてのデータは無いか?
衛生については検討する価値がある」
「汚水の処理についてはどうなるのか?」
特にアメリカからの質問が多い。
アメリカは月基地建設を考えている。
火星行きの宇宙船は、ある程度狭さや不便さに我慢して貰って良い。
しかし恒久基地ともなれば、多少は住環境を快適にしたい。
睡眠と排泄は、無理して止めると体を壊す。
この点、入浴しなくても、豪華な飯を食わずとも生きていけるのとは違う。
基本的な生命活動に関しては、アメリカは真剣になる。
まあフランスもイタリアも、その他の国も、ここに関しては異存ない。
自分たちで月基地を造るのではないから、ちょっと他人事な感じはするが、それは仕方ないだろう。
秋山は
(いずれ、洗浄機能付トイレメーカーもNASAに紹介する日が来るだろうな)
と内心思うのであった。
おまけ:
「ジョ〇ョと言えば、地球から追放され、考えるのをやめた超生物ってどうなったんだろうね?
実在していれば、宇宙ステーションで拾う事もあるのかな?」
「『LI〇E』って映画があっただろ?」
「廃刊される雑誌の話だったか?」
「そっちじゃなくて、火星から生物拾ってくる方のだ」
「見てないからよく分からんが、真田〇之が出てたやつか」
「そう。
その映画で拾って来た生物さ、何をしても死なない、周囲の生物を食って増殖する、
全身が筋肉のような性質、急激に知能を発達させる、様々な形に変わる。
似てないか?
その追放された究極生物に……」
「ま、まさか、やつの細胞の一部が剥がれて火星に落ちたとでも言うのか?」
「自分にはそう思えてならない……」
ある日の日本スタッフの会話であった。




