11人いる
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
欧州宇宙機構が派遣した飛行士たちの宇宙船は、彼等だけで2日程軌道を周回して宇宙飛行を堪能した後に、「こうのす」とのドッキング軌道に入った。
今回のアメリカの民間宇宙船は、完全自動制御である。
何かあればデンマーク人(アメリカ国籍もあり)の宇宙飛行士が手動操縦に切り替えるが、彼とて今回が初めての宇宙飛行である。
度々完全自動操縦の実験をしていて、最近ようやく自信を持って「誰も操縦せず、全員がお客さんでも宇宙飛行が可能」という段階に行き着いた。
だが、それでも他の宇宙船とのドッキングは緊張する。
お互い秒速9kmという速度であり、事故は大惨事に繋がりかねない。
日本の前宇宙ステーション輸送機「こうのとり」は、自動操縦でドッキングまで可能とされたが
「人が乗っている区画に無人機が突っ込んで来るのは、流石に問題がある」
として、直前で静止、それをロボットアームが把持して、人間が操作して連結という形式になった。
このドッキングシステムが輸送機連結の基準となり、「こうのす」も同様にロボットアームでの把持方式で補給を受けている。
ロボットアームの開発国カナダは、これ故にISSと「こうのす」の利用権を一部持っているのだ。
ロボットアームで捕らえ、ドッキングポートに接続、そして電気や空気の調整をして2時間後にハッチ開放。
入船した5人と握手をする。
ヨーロッパ人たちはハグも求めて来るので、応じるが、日本人にはやはり慣れない。
(この習慣が某ウィルス蔓延の原因に思えなくもない)
そう思うところもあるが、わざわざ言って空気を悪くする必要もない。
宇宙ステーションという超クリーンな場所に来る以上、徹底的に防疫済みなのだから、そんな飛行士たちとのハグで感染とか考えられないのだから。
「調子はどうですか?」
「宇宙酔いは来る途中で経験したよ。
道中は最悪だったね。
たった5日しか滞在期間は無いが、こちらでしっかり宇宙飛行をさせて貰うよ」
彼等はあえて長く日程を取り、往路2日、復路1日の単独飛行をする。
「こうのす」滞在の5日で宇宙滞在は計8日であった。
宇宙ステーションへの滞在日数が少ない為、最低限の身の回りの荷物だけを個室に運び込む。
そしてすぐに、自分の仕事に取り掛かった。
天文学者2人は、設置する機材を持って多目的ドッキングモジュールに移動する。
このモジュールは外部とドッキングするだけでなく、機械を整備する為の場所でもあった。
小型人工衛星を放出する前の最終調整や、場合によっては組み立てをここで行う。
今回の機器は、放出して自立で動かす訳ではないのだが、こういう作業は他の邪魔にならないよう、このモジュールで行う。
素材系技術者が一番忙しかった。
たった5日で、今後の方針を決める為の準備実験を行う。
「こうのす」の物理・化学実験モジュールは、微量であれば電気炉を使った素材合成が可能だ。
その物性を計測する機器もある。
大学院生の研究くらいなら可能、工業用の本格計測には不足、という規模だ。
その機械に材料をセットし、設定を入力するのに約半日。
次いでその素材の合成をし始め、冷やし終わって安定させるまで2日。
帰還ギリギリまで作業とかあり得ないので、最後の半日は持ち帰る為の収納とか、使用機材の後片付けに充てる。
2日間で課せられたデータを収拾する。
今までのミッションスペシャリストのように、データを取った後にそれをレポートにしたり、自分で成果物として良いものかどうかを判定している時間は無い。
ほぼ一発勝負なのだ。
その為、失敗した時用に2回目の短期滞在も申請されているという。
「上手くいくと信じている。
ここの機械は、小さくて生成出来る量は極めて少ないが、それでも質はかなり良さそうだ。
触ってみて分かる」
そうドイツ人技術者は評価する。
小さいのは、ISSでも使われる国際標準実験ラック(高さ約2.03m、幅・奥行約1.01m以内)に合わせて作られたのだから、仕方が無い。
だがそのサイズに、思いっきり金を注ぎ込んで高機能に仕上げたのだ。
(そうだろうとも。
将来計画が終わって宇宙ステーションを放棄する時に
「この機械だけは絶対に持ち帰る。
絶対に壊すな」
と言われているのだから)
こういう装置である。
ちなみに、使用料は結構するので、技術者を派遣したメーカーも
(出来れば最初の1回で成功させてくれ!
判断する為だけの実験に、そう何度も行かせられない!)
と願っている。
地球環境学者は、上記3人よりは仕事が無い。
アメリカ製の地球観測モジュールを使わせて貰い(やはり使用料は相当にする)、観測したい場所の上空で記録をする。
記録は、位置情報や保存用のビットレート等を設定すれば自動で行われる。
その設定をし、あとは機械では分からないようなものを見つける為に目視を行う。
滞在時間を有意義に使いたいのは他の飛行士と同じだが、自動で記録が出来ている分気が楽だ。
そこで、興味あるテーマであった「宇宙での生物浄水」について視察、という名目の共同実験というか、「自分にも触らせてくれ!」をしに来る。
以上の学者・技術者を無事に「こうのす」まで引率出来た正規飛行士であるデンマーク人は、一息ついてほっとしていた。
彼は、問題さえ起こらなければ、宇宙に居る事が仕事である。
船外作業の手伝いもするが、本来はISSの方に行ける飛行士であり、今更訓練とかは無い。
宇宙生活をして、経験を積む事が任務となる。
その一番気楽な飛行士は、出されたコーヒーを飲み
「うん、美味い!
機械抽出じゃないね。
カフェの超一流とではないけど、中々腕の良い珈琲抽出職人が淹れてますね」
そう感想を漏らした。
その評は即日、忙しい筈の欧州ミッションスペシャリストたちに広まった。
調べたら
バリスタ:日本ではコーヒー淹れる職人一般、他国ではエスプレッソを淹れる人
ブリュワーズ:日本以外で使用、エスプレッソ以外のコーヒーを淹れる人
みたいですね。




