翼はいらない?
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「やはりリフティングボディが一番負荷が少ないか」
地上の有翼機部門スタッフから情報を聞くと、栗山飛行士がそう言っていた。
栗山飛行士は「こうのす」で4機の降下実験機を組み立て、良い条件の時に相次いで降下実験を行った。
4機とも条件が同じになるように、上手く調整を行った。
実験機とは言っても、2メートル以上ある中々大型の飛行体である。
その中にはセンサーがあちこちに設置されており、降下時の振動・熱・かかる力等を詳細に送信していた。
大気圏再突入時のプラズマにより、それらのデータは上方の通信衛星を介して、研究センターに送られた。
そのデータを栗山飛行士もモニターしていて、何となくは
「やはりリフティングボディの形状が一番良いな」
と感じていたが、改めて解析結果からもそうだと言えるようだ。
繰り返しになるが、この時の降下実験では
・デルタ翼機
・リフティングボディ
・ウェイブライダー
・ブレンデッドウィングボディ機
の4種の機体が使用された。
デルタ翼機は、簡単に言えばスペースシャトル型である。
今回の機体形状は、それよりもガッチャ〇パルタンのようであったが。
空力的に一番安定する形状である。
一方、大気圏再突入の衝撃が主翼の付け根に大きくかかり、折れる可能性がある。
幸い、今回の実験機は大気圏再突入時に正しく科学忍法火の鳥状態になったのを潜り抜け、無事に海上に着水して回収された。
リフティングボディは、簡単に言えば某ロボットアニメのザン〇バル級宇宙巡洋艦だ。
ずんぐりとした胴体そのもので揚力を得る。
主翼が無い分、大気圏再突入時の衝撃には一番強い。
欠点として、底面が丸い事で安定性に欠ける事と、高速飛行していないと失速の危険性がある事が挙げられる。
ウェイブライダーは某アニメの主役機変形体の固有名詞ではない。
衝撃波という「波に乗る物」という意味である。
リフティングボディの一種で、機体そのものが揚力を生む。
リフティングボディとの違いは、底面が真っ平で、大気圏再突入時の衝撃をまともに受け止める形状な部分だ。
衝撃を受け、それを利用して飛行する。
底面が丸いリフティングボディよりも空力ブレーキをかけやすい。
一方で、まともに大気圏再突入時の制動を受ける為、底面はシールドと呼ばれる熱にも衝撃にも強い構造体としなければならず、それも一回毎の使い捨てとなろう。
このシールドを貼り付けるのは、デルタ翼機やブレンデッドウィングボディも同様だ。
底面が真っ平であれば、避けては通れない。
底面が丸いリフティングボディもシールドは着けているが、理論上は平面型よりも損傷が少ないだろう。
衝撃を受け流す形状なのだから。
ブレンデッドウィングボディ機は、形状としてはB-2戦略爆撃機がイメージしやすい。
リフティングボディと主翼を持つ機体の混合型と言えよう。
はっきりした翼と胴体の境界はなく、なだらかに胴体から翼へと繋がる形状をしている。
こういった機体から得られたデータは、やはり主翼という抵抗部がある程、そこにかかる力が大きく、特に付け根部分にピークがあった。
一方翼の先端程多く振動する。
振動による負荷も付け根部分にかかる。
ブレンデッドウィングボディは付け根が明確ではないが、やはり翼端部からの振動が胴体に伝わっていた。
リフティングボディは耐久性的には良いが、やはり速度が速過ぎるのが難点だ。
案外安定性には問題が無かった。
そうだろう。
ソユーズ宇宙船の帰還カプセルも、「はやぶさ」のサンプルリターンカプセルも、丸い底面であるがひっくり返るような飛行はしない。
ひっくり返るのは接地した時だ。
ウェイブライダーは、衝撃を受け止める底面なので、リフティングボディに比べて大きく揺れていた。
だが翼という薄い部分が発生させる振動は見られなかった。
「翼は要らないのかな……」
大気圏再突入という一面で見ればそうだろう。
だが、宇宙機とは大気圏再突入が全てではない。
離陸する際は、主翼による揚力が有った方が、対流圏から成層圏までは有利に働く。
それに、主翼を持った機体でも、形状を変える事で問題を解決出来る可能性がある。
翼の先端部で発生する乱気流が振動を生む、ならその部分を無くすれば良い。
簡単な解決法として、翼端を折り曲げて上向きにするウィングレットというものにすれば良い。
既に旅客機で実用化されている技術だ。
まあ、栗山飛行士の仕事は無事に降下させるまでである。
降下させた機体は、データを取る為のものだ。
次もまた同様に実験機を降下させ、データを集め、それを元に出発から宇宙飛行を経て帰還までの全てをコンピュータがシミュレーションする。
そして最適な形状を導き出すだろう。
コンピュータの出した答えも正解かどうかは分からない。
無人機ならおそらく正解なのだが、そこに人間が乗り、貨物を出し入れするとなると別な要素が加わる。
まあ、その時はその時である。
今は基礎となるデータを大量に取るべき時期だ。
ガッチャ〇パルタン形状も、ずんぐりむっくりのザン〇バル形状も、基本に一番忠実な形にしたら、それに近くなったものである。
基本の研究が終わってから応用編に移ろう。
そんな内容の話を地上と話し、通信を終える。
その後栗山飛行士は、休憩時間中に某「遠い昔、はるか彼方の銀河系で」なSF映画を鑑賞していた。
主人公が搭乗する宇宙戦闘機を見て、ふと思った。
「このX型の先端に姿勢制御エンジン付けたら、上手い感じのトルクで燃料少なく旋回出来るんじゃないかな?」
もしかしたら、宇宙でも翼は要るのかもしれない。




