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今までの滞在チームが残したもの

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカの観光宇宙隊が乗った宇宙船が切り離された翌日、別な宇宙船がドッキングコースに進入する。

後半組の栗山技師が降下実験で使う有翼機のパーツを含む、長期滞在用の物資を積んだ輸送機が到着したのだ。

まだ後半組のジェミニ改が到着していないので、「こうのす」コアモジュールの軸線にあるドッキングポートに接続する。

荷物を運び出し、2回のアメリカ隊が残したゴミを入れて投棄する。

もっとも、アメリカ隊は物を余り使わず、代わりにゴミも余り出さない。

土壌と水耕の農業モジュールから出た、液体肥料の使い終わった容器や種を入れていた袋、そこで収穫された野菜の不要部分などがゴミとして出たくらいだ。

あとは、日常生活をしていると出る排泄物の処理済みのモノや、交換用フィルター等である。

これらを詰めて、翌日には切り離して投棄コースに乗せる。

早く余計な機体を切り捨てないと、本命のジェミニ改がやって来て邪魔になってしまう。

(邪魔という意味には、普通に切り離していても近辺に居ればレーダーに映ってしまう事や、

 別なポートに接続して自転する際の重心のズレになる事も含まれる)


そんな廃棄物カプセルに、明らかに壊れているものが入っていない。

バネが一個切れたエキスパンダーだ。

本来は廃棄する筈だが、牧田シェフが捨てずに確保をしている。

トレーニング用?

違う。

壊れたバネで、バランスが崩れたからトレーニングには使えないが、まだ弾性は残っていた。

それを使って漬物を作っている。


無重力空間で漬物石は用を為さない。

質量があるだけで、野菜を圧迫せずに静止している。

だから今までの料理人は、料理用パックを使って浅漬けにするか、瓶詰で酢漬けを作っていた。

今回、持って来た食材にカブがある。

「千枚漬けが食いたい!」

そういうリクエストがあった。

そこで、スライスしたカブを詰めた容器を、バネを使って圧迫させて「重力下で漬物石が乗っている状態」を疑似的に作ったのである。


「なんか甘い匂いがしてますね」

見ると、農業モジュールの責任者・久保田飛行士が厨房の入り口のところにいる。

「えーっと、手を洗って下さい。

 厨房に勝手に出入りされると困るので」

「ちゃんと手洗いして、消毒液も使ってますよ。

 土壌モジュールの出入りはそれが規則ですので。

 それで、飲み物取りにそこまで来たら、甘い匂いがしたもので、つい」

厨房モジュールの入り口付近は自由に立ち入りが出来る。

そこに飲み物やおやつが置いてあるからだ。

そこから調理場に入る際は、手足の消毒を必要とする規則となっている。


「パンっすか?」

「そうですよ」

「何パン?」

「練乳パン」

「そんなのあるんですか?」

「有りますよ」

「でも、自分は菓子パンを夕食で摂るのは苦手でして」

「いや、これは明日以降おやつ入れに置くものですよ。

 夕食は別に作ってますから」

「あ、そうっすか。

 ありがとうございます!」


夕食は確かにきちんとした料理が出された。

・練乳を使ったエビマヨ

・根菜類の練乳サラダ

・ベトナム風プリン(練乳入り)


「…………」

「どうしました?」

「練乳三昧ですね」

「余り長く放ったらかしにするのもどうかと思いまして」

「久保田君、食わないの?

 甘いものは頭を使う食事では必要ですよ」

「いや、食べますよ、船長。

 で、明日からもこんな感じですか?」

「いや、明日は違います」

「安心しました」

「練乳嫌いなんですか?」

「いや、今日くらいなら大丈夫だけど、明日からも続くとなれば……」

「それは無いだろ」

「そんな事はしませんよ」

「ですよねー!

 じゃあ、今日は練乳入りのベトナムコーヒーもいただきますよ」

こうして夕食は終わる。


一息をついて改めて質問する。

「今日、練乳使った料理ばかりだったのは、練乳が余ってたからですよね?」

「そうですよ」

「もう使い切ったんですか?」

「いや、もう少し残っていますね」

「では、また同じような事するんですか?」

「いつかは。

 ただ、もう当分はしません。

 他にも余ってるから使っておく食材がありますので」

「…………」

「どうしました?」

「いや、甘いものじゃないだけで、同じ材料を使った料理になるんですね、って」

「問題無いでしょ?

 今日だって炒めもの、サラダ、デザートと変化をつけましたよ」

「ちなみに、明日は何ですか?」

「食料庫の中に小麦粉が何袋もあったので、それを使います。

 うどんでも捏ねようかな、って思ってます」

「あ、だから今日練乳パン作ってたんですね。

 小麦粉があったから」

「まあ、そういう事です。

 薄力、中力、強力粉にセモリナ粉と有りました。

 賞味期限とかまだ先ですが、使っておかないと溜まっていく一方になりそうで」

「うどんは大歓迎です。

 ただ……」

「何ですか?」

「宇宙でうどん捏ねられるんですか?

 腰があるのとか、足で踏むとか、布巾被せて寝かせるとか、そんな手順あるそうですが」

「そういうのに使う為に、壊れたエキスパンダー再利用しているんですよ」

「おお、なるほど!」

「あと、遠心分離機も使いますよ。

 出汁も作りますしね」

「ところで、そのエキスパンダーのバネ使って漬けてるカブは、どうなりました?」

「あれは、後半チームが到着したら出します。

 それくらいが食べ頃ですかね」


それを聞いた久保田飛行士は、虚空に向かって叫んだ。

「早く来~~~っぃ!!

 カブが食いたんだ~~!!」


牧田シェフはそれを聞いて思う。

(じゃあ、明日のうどんにカブおろしでも付けてみようかな)

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― 新着の感想 ―
[一言]  日本人って実は食事面で宇宙に向いていないのでは?  で、ふと思った――  持って行っている『お米の産地』はどこなのだろう? 「ぜひっウチの米をっ」=某・東北の農協 「いんや、オラの米の方が…
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