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観光客最後の1日

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

第四次長期隊前半組を乗せたジェミニ改が打ち上げられた。

実はこのジェミニ改は少しマイナーチェンジしている。

2人乗りから最大4人乗りに改造されたが、どうしても増設席は狭くて大柄な人は窮屈であった。

そこで背もたれの角度や各種スイッチの入った肘掛けを改造する等、増設席用椅子のデザイン変更を行った。

これにより多少居住性が改善された。

まあ、あくまでも2人乗りが本来の仕様で、最大4人は無理やり実現しているだけだが。


そんなジェミニ改が「こうのす」の空いているドッキングポートに接続される。

気圧調整の後にハッチが開くと、待っていたアメリカ人たちから拍手で出迎えられた。

彼等は入れ替わりで帰還する。

船長同士が会話し、機体各部のチェックを行っていた。


その間、客である某企業CEOと企業コンサルタントは、日本人が乗って来た宇宙船を見学する。

「狭いね」

「これではビジネスは出来ませんな」

「ここは荷物用の増設パーツ(「のすり」多目的輸送機)か。

 荷物を置いたら窮屈だね」

「観光客をこれには乗せられません。

 訓練用と聞いてはいましたが、これは余りに非人間的な狭さです」

散々な言いようだ。

前半隊でやって来た牧田シェフが

「だからこういう居住スペースが必要で、豪華な宇宙ステーションになったんじゃないですか?」

と言うと、非科学者の2人は

「納得した」

と頷いた。


牧田シェフは食糧備蓄をチェックし、持って来た食糧を倉庫に運ぶ。

「……話には聞いていましたが、コンデンスミルクとインスタントコーヒーが余ってますね」

持って来なくて正解、というか持って来たら誤りだった量である。

「ベトナムコーヒーは嫌いでしたか?」

聞くと、彼等は甘いものが好きだから、結構コンデンスミルクを使ったベトナムコーヒーを作ったという。

「では、使いまくって、まだ余っているのですか?」

「そういう事だ」

(一体どれだけ持ち込んだのだろう)

パンに塗ったり、菓子を作る事も想定されていたが、三次隊のアントーニオ料理長以降、積極的には使わない為余ったようだ。

(という事は、これを消費する料理を作った方が良いな)

食品を無駄にしない事を、船や南極で身に叩き込んだ牧田シェフが密かに決意する。


前半組最後の1人は久保田飛行士だ。

彼は2機の農業用モジュールの確認作業を行う。

農業用モジュールは、三次隊以降は「現状維持」を原則として管理されていた。

収穫するものは収穫し、種を植えるものはそう機械にセットし、動作を確認する。

研究者では無いから、それ以上の事はしない。

明確な異常があれば連絡する義務はあったが、計測装置の数値に現れない異常については責任外だ。

日本人飛行士が受け持っていたが、彼等は農場モジュールの管理者であり、農学者では無い。

だから、これから新たに研究をする久保田飛行士が、引継ぎと状態確認をするのだ。


日本人の長期隊が任務開始の為の準備をしている。

逆にアメリカ観光宇宙隊は帰還の準備をしていた。

慌ただしくはあるが、そもそも観光隊は荷物がそんなに多くない。

成果物を持ち帰る必要も無いし、契約から廃棄物は日本が処理をする事になっている。

私物を民間企業開発の宇宙船に運び込むだけだった。


その民間宇宙船を日本人チームも見学させて貰う。

「広いですね」

「居住区の直径が2.5倍か……。

 低面積はその二乗だし、居住区の容積は単純計算で三乗……」

「操作が全部タッチパネルか。

 訓練用のジェミニと違い、直接燃料噴射をするスイッチとかは無いんだなあ。

 そういうのが見えないだけで、随分と広く感じるものだ」

ジェミニは確かに狭いのだが、それ以上に計器やスイッチが見える事で、雑然としているように感じてしまう。

だから、宇宙ステーションの方は機能的にデザインされ、広い上に雑然としていないように見える配慮がなされていた。

「当然ですが、キッチンはありませんね。

 宇宙食を料理するのではなく、湯煎とかしたら、そのまま食べるのですね」

「だから最速で君たちの宇宙ステーションにドッキングさせて貰った」

経営コンサルタントが言う「機内食」の話は、今回は最速で移り住んだから良いが、この宇宙船で長時間飛行する場合、それなりの食事が有った方が良いという考えによる。

移動用宇宙船は旅客機同様、温める機械くらいしか調理器具は無い。

ここで作る事が出来ない以上、料理セットとして美味しいものを作って収納しておけば良いと考えた。


「この宇宙船は往復に使い、出来合いの宇宙食を加熱して食べるくらいしか出来ない。

 だから宇宙ステーションに移ったし、そこで連れて来た料理人に、宇宙で採れた野菜を料理して貰った。

 今回、我々の料理人より腕の良い、アイデアのある料理人が来たと聞いている。

 楽しみだ。

 早くご馳走して貰いたいな。

 あ、忘れないように言っておく。

 CEOはベジタリアンだから、肉類は出さないようにね」


観光隊最後の日の料理は牧田シェフが作って振舞った。

ベジタリアンびっくりの大豆料理フルコース。

豆乳、おからの炒りもの、豆腐ステーキ、湯葉の刺身、枝豆の塩ゆで、ソイミートと宇宙野菜の中華風炒め。

調味料は当然醤油。

割と上から目線で色々言って来るCEOとコンサルタントも、これらは手放しで賞賛した。

まあ

「アメリカの大豆の可能性が拡がったのを感じたよ」

という余計な一言は加えていたが。


翌日、彼等は満足して地球への帰途に着いたのだった。

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