宇宙の翼はパリの灯を見るか?
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
超音速旅客機といえば「コンコルド」という旅客機があった。
マッハ2でパリ~ニューヨークや、ロンドン~ニューヨークを飛行した。
他にもリオデジャネイロやバーレーン、シンガポールの空も飛んだ。
事故を起こした事や、燃費が異常に悪い事、収益性の悪化から2003年に退役する。
それでも人気がある機体で、あれに乗ってみたいという需要はまだ残っている。
衝撃波、騒音、大気汚染、燃費の悪さ、これらを改善した次世代超音速旅客機の開発が行われている。
如何にそれらを改善しても、超音速で飛行する時に大気による加熱が起こる。
そこで大気の薄い超高空を飛行し、これを防ぐ。
ある部分、宇宙船にも片足を突っ込んでいる機種も存在する。
フランス、というよりそこに拠点を置く大手航空機メーカーもそれを他人任せにはしていない。
コンコルドの元運用国としては、やはりパリを起点にしたいという野心がある。
超音速旅客機以外で、ヨーロッパ宇宙機関もまた、有翼宇宙船開発も目指している。
イギリスは単独で、他は共同で少なくとも水平着陸(滑空し、車輪で飛行場に着陸)をさせたい。
そんなヨーロッパから有翼宇宙機で日本の宇宙ステーションにドッキングする申請が届いた。
(いや、あんたらまだほとんど出来ていないじゃないか)
秋山はそう思うが、あえて口には出さない。
ヨーロッパは先に目標を高く掲げる。
実際に完成するのは、それよりは低い性能だったりする。
日本は達成可能な目標を提示する為、周囲からは「やる気が無い」と見られる。
だが、完成するのはほぼ目標通りのものとなり、その性能は高い目標のヨーロッパの完成品に劣らない。
どちらが良いという事は無いのだが、どうも日本のやり方は消極的と批難される事が多かったりする。
逆にヨーロッパの場合、まだ形も出来ていないのに先行して色々と規格を考える。
そうして自分たちの規格を世界標準に持っていき、世界を自分たちに合わせるしたたかさを発揮する。
しかし結果として、自分たちの完成品が自分たちの考えた規格をクリア出来ず、自分たちが苦しめられる事にもなる。
高い理想を掲げるか、達成可能な現実を見るか。
ESAではなく、フランス宇宙機構CNESと航空機メーカー、そして研究機関はこれから開発予定の有翼機のドッキング機構について打ち合わせを打診して来た。
「無人機で、250kgの物資を低軌道に運ぶ予定です。
無人機なので自動ドッキングとなります。
なので、誘導装置としてはこのような物を先行して搭載して頂きたい」
仕様は大体固まっているようだ。
大型旅客機を改造した運搬機によって高空まで運ばれる。
そこで宇宙船は分離される。
当然大型旅客機は任務を終えると空港に着陸するから再使用は可能だ。
宇宙船は二段式。
大型旅客機を一段目とすると、二段目に当たる機体が更に航空まで宇宙船を運ぶ。
そして燃料を使い切ると分離し、自動操縦で滑空して空港に戻る。
この二段目のブースターも再利用を行う。
そして三段目の固体燃料ロケットの宇宙船が、荷物を宇宙に運ぶ。
任務を果たすと大気圏に再突入して帰還する。
機体は地上に戻って来るが、大気圏再突入後のそれはこれでお役御免となる。
一段目の輸送機は既に国際線で使用されている為、開発費は掛からない。
二段目は大気圏再突入程の熱に耐える事もなく、再利用する為安上がりとなる。
三段目のみ使い捨て。
一回限りとは言え、水平離陸で宇宙に行き、水平着陸で帰還する。
そういう既存の機体と組み合わせた安上がりな有翼機を、これから開発するのだ。
(出来てから言って欲しいが……)
野心的な機体だが、実現するかどうか。
こういう困った時の日本のやり方は一つである。
「情報を共有しながら、前向きに検討し、可及的速やかに遅滞なく実施する予定です。
各方面に働きかけ、追って結果について通知します」
と回答するのだ。
形にもなっていないのだから、この回答に文句は言わせない。
上手く話をはぐらかす。
それが終わった後、今度はイギリスからも打ち合わせ申し込みがあった。
内容はフランスのと一緒である。
イギリスはもっと詳細に詰めた機体情報を持って来た。
水平に離陸し、水平に着陸する。
機体は一段式で、その機体全体を何度も再利用する。
燃料は液体水素で、酸化剤は液体酸素というスペースシャトルと同じ方式。
2機のエンジンを搭載し、空中での推力は138トン、液体酸素を使ったロケットでは推力184トン。
低軌道に12トンの荷物を運ぶ。
将来は最大24人の乗客を見込むが、当分は無人運用とする。
故にこちらも誘導装置についてすり合わせたい、という事だった。
(これ、ちゃんと宇宙に行って帰って来られるのかな?)
設計思想は保守的な秋山は、思わず首を傾げた。
胴体にエンジンがついていない。
両翼端にジェット/ロケット切替式のエンジンがついている。
燃料及び酸化剤が胴体内タンクにあり、そこから翼端のエンジンに供給される仕組みであった。
イギリスらしい奇抜なデザインである。
ネットのジョークにこんなものがある。
兵器開発において
フランスは
「何がしたかったのかは分かるが、やりかったことというのはその程度なのか?」
イギリスは
「何がしたかったのかは分かるが、どうしてこうなったのかは分からない」
という物を作る傾向にあるという。
フランスの宇宙船、野心的で安上がりっぽいが、果たして考えている通りの荷物を運べるだろうか?
「その程度なのか?」とならないだろうか。
イギリスの宇宙船、考えは分かるが、少々奇抜ではないだろうか?
「どうしてこんな設計になったのか、分からない」
という評にならないだろうか。
とりあえず両国はやる気になったようだった。
フランスの宇宙船は、元ネタがあります。
……開発会社、破産したそうですが。
イギリスのも計画はあるそうですが、どこまで進んでいるやら。
(見た資料の宇宙船、アメリカの以外形になっていない気がしてならない)




