宇宙ビジネスの可能性
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
2人乗り込んだ専門の宇宙飛行士は、宇宙ステーションの操縦等を請け負う。
無人でも運用可能ではあるが、人が座っていざという時に備えるのも間違いではない。
そして地上との交信や船内各所の状況確認も行っている。
仕事の一つに、ネットワーク回線の割り当てもあった。
宇宙船の運用に使う回線、これは一般開放されない。
日本だけでなく、アメリカと繋がる回線も別口で用意されている。
どちらかの宇宙センターで問題が起きても、もう片方でフォローが出来る。
(両方ダウンした時は、搭乗している船長が回復まで自分の責任で運用する)
研究で使う回線は、搭乗しているミッションスペシャリストによって割り当てが変えられる。
こちらは別なサーバセンターに接続され、そこ経由で大学や研究施設にデータを送る。
VPN接続に近い。
故に特定のIPアドレスとのみ、送受信が可能であり、外部からの侵入は阻止される。
これはリモートではあるが、人力でネットワーク環境の設定が為される。
私用回線は、誰でもアカウント設定が済めば使用出来る。
その代わり、宇宙ステーション内の各種コンピューターや実験装置との接続は許されない。
「こうのす」の前後、時には上空を通過する通信衛星を使って通信する。
回線容量はそれ程大きくは無い。
一般的な使用の範囲では、問題は無い程度の容量と通信速度ではあるが、時々固まる。
衛星と地上基地局との位置関係や、電離層や太陽の影響で通信が乱れる事があるのだ。
この点、運用回線と研究用回線は影響を受けない仕様なのだが、その原理は
「軍事機密」by NASA
という事だった。
CEOが動画投稿したりするのは、私用回線からである。
だが、彼も単なる遊び人ではない。
宇宙にバカンスに来てはいるが、業務で話しをする必要もある。
今回、そんな予定は無いのだが、経営者にはその可能性がついて回る。
そこで研究用回線を使って、そのCEOの会社にのみ接続可能な回線を用意した。
これで宇宙に居ても、何かあった時に会議参加が可能だ。
「宇宙に来てまで仕事はしたくないがね」
そう言って、ホテル業界と共同開発した新型居住モジュールの柔らかいベッドの上でフワフワ漂ったり、ベッドに突入したりして遊んでいるが、まあ企業家の「仕事したくない」という言葉も余り信じられない。
仕事と遊びのメリハリが利いているし、全員が全員仕事中毒者でも無い。
だが、宇宙に来たのも単なる遊びで済ませないだろう。
金持ちになるような人は、その辺油断も隙も無い。
とりあえず、企業幹部に元気な姿を見せる、という名目で、繋がった回線を使ってネット会議を始めた。
「多少画像の乱れは有ったが、かなり快適だったよ」
という感想。
画像の乱れは、回線の問題よりもアプリやPCの画像処理能力の問題もあるだろう。
実際CEOはPCではなく、持参のタブレットを使って会議をしていた。
これで、今後宇宙ビジネス時代になった時、
「地上と連絡を取りたいのだが、繋がらなくて困った!」
という事も無くなるだろう。
お客さんではあるが、唯一仕事として頼まれていた宇宙からのリモート会議のテストを終えると、
「宇宙遊泳をしてみたい」
とCEOは言い出した。
これも「こうのす」は対応可能である。
この宇宙ステーションには、金網で囲まれて外に飛び出さないよう防護している区画がある。
その金網が計測機器を取り付けたりするプラットフォームなのだが、一番の目的は船外作業する宇宙飛行士の安全の為であった。
ここに宇宙服で飛び出す。
まず、命綱無しでも宇宙ステーションからはぐれ、軌道上をたった一人で周回する遭難の可能性は低い。
それでも万が一に備えて命綱はつける。
流石の金網も、アメフト選手の突進力を使い、相撲の力士のような重量の乗ったぶちかましを食らわせば歪みが出来、その間から宇宙に放り投げられる可能性もあるからだ。
CEOは顔が良く見える宇宙服に着替え、30分の宇宙遊泳を楽しむ。
このCEOは自らを企業の顔として、その活動自体を広告としている。
顔が見える、見えないは彼にとって重要な問題だ。
一方船外活動的に、顔がよく見えるヘルメットは実は危険だ。
地上よりも鋭く強力な太陽光に対し、遮光フィルターが外されている状態なのだ。
なので、「こうのす」が地球の夜の面に入った時に宇宙に出て、そこで自撮り撮影をして楽しむ。
自撮りする為、顔が見えるヘルメットである必要があったのだ。
その様子を、コンサルタントはつまらなそうに見ている。
「貴方も宇宙遊泳しますか?」
「いや、私はあそこでいい」
コンサルタントが指さしたのは、よく日本のミッションスペシャリストが遊んでいる、拡張型軟式与圧室である。
「景色さえ良ければ、あそこの方が宇宙服無しでも宇宙遊泳気分を楽しめる。
地球と一緒に映りたいなら、窓越しでも良い。
あの外に膨らんだ風船部分、使い方次第ではもっと役に立つと思うよ」
つまり、外が見える大型の軟式与圧室なら、数が限られている宇宙服に着替える手間を省いて、宇宙服無しでも何人でも入って宇宙気分を楽しめるという事だ。
宇宙服は機密性や生命維持能力はもちろん、簡易式でも尿漏れ対策や、保温機能を持たねばならない。
そういう服は決まったサイズが用意されるだけだ。
万人が遊べるようにするには、宇宙服から解放されねばならない。
「この宇宙ステーションは色々と可能性を示唆してくれている。
将来、合衆国の民間企業が商業用宇宙ステーションを作る際の参考になるだろう。
もっとも、その時はこの宇宙ステーションよりもっと機能的になるだろう。
その為にも、長所・短所を色々と観察させて貰うよ。
船外に宇宙服を着てカメラを持って飛び出すより、私はその方が楽しいよ」
仕事中毒者はこちらの方であった。




