引き継ぎ要員到着
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
第四次長期隊は9月以降の打ち上げとなる。
2~3ヶ月程は、アメリカメインで短期滞在の飛行士が利用する事になっている。
短期とはいえ、日本の短期滞在隊の2週間よりは長い、25日の滞在となる。
搭乗員は6人、うち1名が日本人となる。
アメリカの宇宙船は7人乗り、最大11人まで搭乗可能だが、あえて6人で宇宙生活を送る。
NASAの宇宙飛行士選抜において、船長も博士号を持つ科学者であり、運用専任は居ない。
日本人ミッションスペシャリストは、土壌農耕モジュールと水耕モジュールの両方担当するが、他に料理を請け負う。
料理担当も彼一人ではなく、他のミッションスペシャリストも担当する。
分業型の日本とは違い、何個も仕事を持つ。
これは宇宙飛行士の人数の差による。
日本は宇宙飛行士を育成する、という所から始めた為、まずは専任の飛行士を選抜していた。
そのついでに「研究専用も欲しい」となってミッションスペシャリストを募集した。
人数を増やしたかった為、数年かけて訓練した上に、機会に恵まれない場合は十年以上宇宙に行けない、なんていう贅沢な事は出来ない。
即席で訓練し、すぐに宇宙に上げて、飛行士・地上・宇宙機関ともに経験を積む。
その為、ミッションスペシャリストは宇宙船の運用を、出来ない事は無いが、出来るだけ研究に専念して貰う。
その分、運用スタッフは運用に専念する。
実際ノウハウの無い日本は、後から仕様変更を考えて組み変えとか増設工事を行う。
アメリカから見ても難しい類の宇宙ステーション構築や、補給機ドッキングミッションをしたりするので、専用スタッフが良いのかもしれない。
アメリカは1960年代から宇宙飛行士を育成していた。
世界中から宇宙飛行士候補生を集め、しっかりと訓練をする。
打ち上げ待ちの飛行士が居るくらいなので、即席訓練で打ち上げたりしなくて良い。
宇宙飛行士選抜のレベルも高い。
ミッションスペシャリストについては、日本と同様に研究専念の人も選ばれたりするが、飛行士については数ヶ国語を話し、最低でも修士号は必要だ。
船長級は、後で論文を出したりして博士号を取る。
日本とアメリカの大学のシステムが違ったりもするが、それでもアメリカの方が超エリートと言える。
それだけに何かに専念ではなく、何でも出来る事を求められるのだ。
料理に関しても同様の事が言えるし、一方で日本程の拘りを持たないとも言える。
日本の宇宙ステーション計画は、正直後追いであり、ISSやミールで大体の事はやった後に長期滞在の研究をしている。
その為、独自性を出す為に「できるだけ地上と同じ生活」と「宇宙での地産地消」を考えた。
アメリカは、そもそも「宇宙に行く以上、宇宙に適応した生活」としている。
故に、宇宙食で事足りる。
料理人は不要で、レトルトパウチを湯煎をする、ビニールパックに湯を入れてふやけさせる、くらい誰でも出来る。
ただ、アメリカでも長期に渡る宇宙旅行でのストレス軽減は研究対象となっていた。
食事というのもストレス解消には有用である。
不味い戦闘糧食でも耐えられるというのは強い軍隊の条件の一つだが、宇宙生活は軍隊生活よりもある意味過酷だ。
地球を周回している時は、地球の変化を見ていれば良いし、たまに補給船や交代人員が来るというイベントがある。
もしも火星に行くなら、地球出発時と火星到着間際まで、変わり映えのしない漆黒の空間が半年近く続く事になる。
その間、同じ顔触れで、狭い船内に居続ける。
地球で例えるなら、ドームふじ基地のようなメインの基地から遠く離れた場所で孤立して観測を続けたり、南太平洋で漂流して「青い砂漠」と呼ばれる陸地から最も遠い海を漂い続けるようなものである。
極地の基地の場合、やはり料理人が様々な料理を作るのが娯楽となっている。
そこでNASAは、日本の宇宙ステーションで最初の専属料理人を勤めたベルティエ氏に協力を求め、彼等なりの宇宙での食生活について研究を始めた。
ISSでもコーヒーやコンソメスープを作れる特製エスプレッソマシンを導入したくらいだ。
禁欲的なアメリカの飛行士でも、余力があるなら飲食を楽しみたい。
……味よりも、カラフルだったり、装飾過剰としたり、高く盛ったりするのが日本人の感性とは違うところだ。
日本人から見れば、毒々しい色彩に、銀色粒糖をばら撒き、低温花火で火花を散らせた甘ったるいケーキがアメリカ人のお好みである。
軍隊であっても、小型艦艇にアイスクリーム製造機を置く程、甘い物大好きな連中だ。
提督(海軍大将)がアイスクリームを求める列に並び、横入りしようとした士官を一喝したエピソードもあったりする。
そんな訳で、今回専用の料理人こそ居ないが、「男の料理」以上「他人を招いてのパーティ料理」くらい、味としては家庭料理くらいのが作れる、アメリカ人としては器用な者が料理を作るべくアントーニオ料理長から厨房モジュール「ビストロ・エール」の使用法を学ぶ。
(アメリカ人が不器用なのではなく、様々な料理を作りまくれる人というのは希少なのだ。
基本彼等は朝食は毎回コーンフレークにミルクや、トーストとオレンジジュースで満足する)
一人だけ入った日本人飛行士は、日本人としては標準的な料理センスを持つ。
つまり、ご飯を炊飯器で炊く、パスタを茹でる、カレーを作る、肉じゃがを作る、レトルト食品も組み合わせを変えてカレーパスタをアレンジするくらいの工夫が出来る。
三次隊はもう帰還の途に着く。
二回に分けて帰還する内、アントーニオ料理長は後半帰還組だ。
彼が居る間に色々と学ぶ事となる。
料理について。
日本人の主婦というのは、世界的には「あんた、どっかのレストランで仕事した事あるの?」というレベルだそうです。
それは味のレベルではなく、「和食も作るし、洋食も作るし、中華も作るし、レシピ本見ながら他国料理やデザートまで作る」幅広さにあるようです。
大抵の国の主婦は、自国料理は様々な種類を作れるが、例えばイタリアのマンマは中華麺は茹でない、そんな感じです。
そしてアメリカの都市部とかでは、主婦というのも少なく、男性も女性もシリアルと不足分は栄養剤、外食やデリ頼みだったりします。
この作品で出したベルティエ料理長はアレンジ名人、石田さんは日本の主婦らしく何でも作れる、アントーニオ料理長は各国料理に知識があります。
専門の料理以外作れない応用が利かない人は、ずっと前に書いた審査回で落選していました。




