宇宙のバラエティー化?
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
第四次長期隊のテーマをどうするか?
「宇宙でも出来るだけ地上と同じような生活を」という大テーマに沿った運用テーマ。
先日は総理から
「大した訓練も受けていない、年配の者でも快適に生活出来る宇宙船」
という提案を受けた。
絶対本人が行きたくて、そのようなアイデアを出したのだろうが。
基本方針として、「出来るだけ地上と同じような生活」の先には「専門の訓練を受けていない人でも使える宇宙設備」に行き着くだろう。
一番問題なのは、打ち上げと大気圏再突入だ。
そこをアメリカに丸投げしてしまえば、軌道上の設備の使用だけなら可能かもしれない。
総理の提案を受けたのと前後して、秋山は別の職員から出された運用案に目を通す。
「テレビ番組を宇宙で撮影する」
というもの。
それを送って来た職員は広報担当で、技術者ではない。
ミーティングしてみる。
「基本、多少訓練は受けて貰いますが、宇宙をより身近にする為、テレビ局員とかでも行けるようにします」
やはり宇宙ステーションでどういう生活をさせるか、というテーマではこういう方に向かうのだろう。
「実は、具体的な引き合いがありまして」
職員はメールを転送する。
一通目は東京キー局からのものだ。
某有名司会者、柔らかい物腰と、物事をかみ砕いて説明する事で評判が良い人だが、この人を宇宙に上げて軌道上から国際情勢を説明して貰う、という企画だった。
この司会者は結構年配だが、71歳の老教授が行けたのだから、として企画は通ったようだ。
本人も行く気はあるらしい。
二通目も東京キー局からだ。
某アイドルが農業や漁業を実践しているバラエティー番組からだが、宇宙での農業を是非とも体験してみたい、という。
そのアイドルグループのリーダーは、重機を自ら操縦出来る玄人顔負けの技術持ちで、農業の他に宇宙船を操縦する気満々らしい。
故に、快適なアメリカの宇宙船でなく
「強力なG上等!
窮屈な宇宙船歓迎!
厳しくなくては実感が無い!」
と言っていると聞く。
三通目は関西ローカル局からである。
肉体派のお笑い芸人を宇宙に派遣し、どれだけの事が出来るのかやってみたい。
本人は、宇宙行は男のロマンだから行けるなら行かせて貰いたいと前向きだ。
四通目は北海道ローカル局からのもので、異色だ。
現在俳優もやっている北海道出身の芸人(いや、実際は俳優が本業だ)を騙して宇宙に連れていくという企画である。
同行するスタッフは訓練を受けるが、騙される本人は当然何も知らないから、訓練も何も受けない。
「ちょっと待て!
それは、そういう体で、実際には知ってるんだろ?」
「本当に知らせないそうです」
「では、宇宙に行くという同意書は?」
「騙して書かせるそうです」
「それ、問題大有りだろ!!」
「秋山さん、個々の番組の話を議論しても仕方ありません。
要はこういう要請が来ているって事です」
「そうですね。
私とした事が、個別案件で引っ掛かってしまって全体を見ていませんでした」
他にも映画撮影に使いたい、音楽のプロモーションビデオ撮影をしたい、更には個人動画配信者が行ってみたい、というリクエストがあるという事だ。
宇宙に行くリスクや、掛かる金額を度外視して「言ってみるだけ言ってみた」という人のもあるが、企業絡みでは行くならスポンサーが付くという見込みが立っていて、費用的にも考えられている。
JAXAにしても、宇宙飛行士に広告を兼ねた宇宙生活動画を撮影させている。
中継用設備も既に設置している。
映像のプロや、セミプロが行くならきっと面白い画が撮れるだろう。
「大体、日本最初の宇宙飛行士はテレビ局の職員でしたしねえ」
「いや、あれはJAXAとしては抜け駆けされたようなものなんだが……」
まあ、この路線でもテーマ案として纏めて良いだろう。
総理の提案と、大体の方向性は合っている。
それと宇宙手術室の件も。
病人が宇宙に行く訓練など受けられよう筈もない。
それでも滞在可能という環境にする、これも方向性としては一緒だ。
もう一つ、二つアイデアが来るかもしれない。
それを総合して提出しよう。
そこまで話を纏めた上で、秋山はちょっと気になった事を聞いてみた。
「一番お堅い放送局、あそこからは来てないの?」
「一応、あるにはあるんですが……」
「見せて貰いますか。
転送して下さい」
「方向性は全く違いますよ」
それは宇宙放送局ともいえるモジュールの開発、その放送局から操作出来る宇宙カメラ、それも超高解像度撮影を可能としたものを宇宙ステーションに取り付ける提案である。
「これ、宇宙飛行士は要らないよね?」
「要りませんね。
向こうも人件費、出張費、危険手当を出さなければならない飛行士派遣には消極的です」
「要は宇宙に、自前の撮影設備を設置したい、それもリモートで操作出来れば良く、人員常駐は不要って事ですね」
「そうです。
宇宙ステーションの外壁にでも設置してくれたらそれで良い。
機材の交換をして欲しい時は、うちの飛行士に業務としてやって貰えれば良い。
そんな感じでした」
一番お堅い所は、危険な場所に人を送るのは嫌なようだ。
そしてバラエティー番組の企画案を見る。
事故を起こす気はないが、事故になったら大ニュースになる人名だ(一部除く)。
秋山は胃が痛むのを感じた。




