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短期隊帰還へ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

多少注文はつけられつつも、第二次短期隊の面々は快適な部類の宇宙生活を送った。

エアコンが利いた生活空間、眠りやすい個室のベッド、無重力ではあるが食べられるようにアレンジされたレストラン級の料理。

無論、彼等は遊びに来たのではないから、母国と日米で決めたスケジュールに沿って任務を行う。

母国の子供たちとの通信も行う。

母国の放送に出演もする。

動画投稿も行う。

コア1から鳥籠(バードケージ)の中で、命綱無しの宇宙遊泳も楽しんだ。

楽しむだけでなく、船外活動の様子も中継される。


そんな中、室戸飛行士は黙々と作業を続けた。

コア2の配管工事が終わり、水処理モジュールでしばらくは動作確認。

浄水処理された水は

「うん、飲んで大丈夫」

と自分で試してから太鼓判を押す。


水を(宇宙生活比で)大量に使えるようになった時、ちょっと気を使われるが

「ああ、いっぱい使ってくれて大丈夫ですよ。

 むしろ汚れを残さないくらい流してくれた方が良いですよ」

と返した。


第二次短期隊の中で一番難しいミッションは、UAEの小型衛星を月観測軌道に乗せるものであっただろう。

この時は、仕事中で手が離せない者以外、ほぼ全員が多目的ドッキングモジュールもしくはコア1のモニターの辺りに集まって注目した。

結論から言うと、この野心的な試みは失敗する。

最初の地球スイングバイには成功し、新たな加速を得られた。

しかし、二度目の挑戦の際に姿勢制御に失敗する。

やはり小型衛星(キューブサット)では燃料搭載量が少な過ぎた。

一応、スイングバイには成功し、更に加速されるものの、当初の目的の軌道からは外れ、月とは無縁の長楕円軌道を周回する事となってしまった。


「難しい事は分かっていた。

 それでも挑戦する機会を与えられた事を感謝したい。

 目的は達成出来なかったが、それでも貴重なデータと経験を得る事が出来た」

UAEの宇宙局ではそう締めくくる。

彼は既に火星探査機の製作には成功している。

この探査機はNASAの探査機の補完的な役割であり(アメリカ機が重量制限で搭載断念した観測装置相当を搭載)、日本のロケットで軌道投入されたものではあるが、この探査機を作る事で技術習得出来たのは確かである。

いつの日か、自前の技術で更に深宇宙に探査機を飛ばすであろう。


野心的な小型衛星は、オーストラリアの南極観測軌道開拓もそうである。

ただ、こちらはスイングバイを何度も繰り返すUAEの計画よりは難易度は低い。

彼等は「観測」は諦め、位置情報の送信のみ行う事で小型衛星を更に軽量化した。

軽い分だけ少ない燃料消費で姿勢制御、軌道修正しやすい。

難しいのは、傾斜があるとは言え、基本順行軌道の宇宙ステーションから、角度が急な極軌道に近い新軌道に投入する事である。

衛星より、衛星を軌道に乗せるモーターの役割が重要だった。

これを発注・開発した日本企業も祈るように見守る中、衛星は所定の軌道に乗った。

後は大気との摩擦で落下するまでの間、地上から追跡したり、軌道のブレが起こらないか確認したりして、いずれはこの独自の軌道を使った南極観測を行う事になるだろう。


忙しい日々は終わり、地球へ帰還の日を迎える。

前夜は送別パーティーであった。

当直の者以外は、微量だがアルコールも許可された。

まあ、宗教上飲めない者もいる。

一応記録されてるから、神は宇宙まで見ていないという屁理屈は封じられていた。

「いやあ、肉、肉、肉と肉料理のオンパレードだね」

野菜の少なさに肩をすくめながら日本人飛行士が呟く。

第二次短期隊が持って来たものも含め、肉は結構あったから、消費した方が良い。

鶏肉、羊肉、あとオーストラリアからのお土産のダチョウ肉とカナダからのお土産の七面鳥が食卓に並ぶ。

豚肉と牛肉は、彼等が帰ってから日本人ばかりとなった宇宙ステーションで食される。

もっとも、第三次長期隊も4月からの滞在期間が3ヶ月以上になろうとしているので、帰還時期が迫っている。

長期保存出来るもの以外はなるべく食べてしまおう。


食事をすると出すものは出す。

それを貯めたタンクを取り換え、投棄個所に運ぶ。

人数が人数だし、短期隊を2回迎え終えた後、結構な量になっていたっぽい。

宇宙では重さは感じないが、質量があるもの程、静から動、動から静止と運動に変化を与える際の力が必要になる。

三次長期隊が到着直後に取り換えた時、今回で重さの違いを感じたのは確かであった。


(地上の生活に近い宇宙生活というコンセプトは良いが、食生活はもう少し考えた方が良いかもしれない。

 普通の宇宙食のように、排泄物が少なくなるメニューが良いな。

 特に長期滞在となると……)

そう感じた橋田船長である。

数週間程度滞在のお客さんなら、地上と同じような食事で、大も小も普通に出せば良いが、長期となれば考えねばならない課題だろう。

今、「こうのす」は3~4ヶ月程度の滞在を1タームとしているが、その内日本でも半年以上数年に渡るミッションが発生するかもしれない。

その時は排泄というものをもっと考えた方が良いだろう。


翌日、7人の短期隊は有意義な宇宙生活を終え、「こうのす」から離脱して帰還の途についた。

その数時間後、廃棄物を乗せたカプセルもその後を追って大気圏に突入していった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第300部分到達、おめでとうございます! [一言] まだ全話読了には遠いですが、更新の有無は時間の許す限りチェックさせていただいてます。
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