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まずは宇宙ステーション内の水回りのメンテナンス

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙では基本、精製水が利用される。

不純物があれば、それがパイプを詰まらせる原因となる。

だが廃水はどうしても汚れてしまう。

下水のパイプは掃除が必要なのだ。


南極観測隊を送る砕氷艦「しらせ」は現在二代目が運用されている。

初代もまだ使える性能があるのだが、聞いたところ、あちこちのパイプが汚れて、取り換えが効かないとの事だった。

パイプの詰まりは機械の性能を損ねてしまう。


宇宙ステーション「こうのす」は、しばらく大幅なメンテナンスに入る。

この機体の良いところは、生命維持に必要なモジュールが「コア1」と「コア2」の2機あり、普段はコア1の機能で事足りているから、コア1のメンテナンス作業中はコア2の機能を使えば、生活に支障が出ない。

室戸飛行士は、自分の専門である水回りの作業に入った。


普段は、パイプ洗浄剤を流して清掃をしている。

更に殺菌処理をして、宇宙ステーションという密閉空間で細菌が硫化水素を発生させないよう気を使っている。

だから排水管も嫌な臭いはそれ程しない。

それでも、少しずつ汚れは付着していくものだ。

都市で使われている排水管よりは狭いのだし、重力が無い為、空気圧で流し込んでいるので、地上よりは詰まりも出やすい。

本来宇宙ステーションでは、廃水を多く出さないよう気を使っている。

水は貴重だし、無重力ではパイプの詰まりが命取りになるくらい、どこの宇宙機関でも分かっている。

「こうのす」は「可能な限り地上と同じ環境再現」が課題なのと、日本人のこだわりで風呂が使用される為、廃水の量はISSやミール、天宮と比べて多い。

そしてこだわりのコーヒーも問題である。

コーヒーには利尿作用がある。

「こうのす」の飛行士は、水分を必要最低限しか摂らない他の宇宙飛行士たちに比べ、尿の量が多い。

処理をして残った汚物はタンクに溜め込まれる。

それは交換し、地上に持ち帰って分析する時もあれば、普通に宇宙船輸送機に積んで、大気圏突入時の熱で焼却処分する事もある。

それ以外は全て再利用だ。

再処理システムが優秀なので今まで問題は無かったが、今後もそうとは限らない。

ここはプロの水道屋の出番である。

(※侮蔑的表現でなく、砲術士官が自らを「大砲屋」と呼んだり、「餅は餅屋」というような意味合いで、水道局員を水道屋と書いた。

 別に彼は蛇口や浄水装置を販売している水道屋ではない)


日本の水処理の強みの一つがフィルターである。

大規模に海水を淡水にするフィルターもある。

限外ろ過膜、精密ろ過膜、逆浸透膜などのろ過技術が使用される。

宇宙ステーションでの水処理は、フィルターを使ったろ過と、蒸留、イオン交換、そして殺菌として再び飲料水に戻している。

フィルターは交換可能だが、蒸留装置等は素人では簡単にはメンテナンス出来ない。

諸々をプロの技術者が作業する。


まず、コア1のドッキングポート間をビニールの回廊で繋ぐ。

生活空間をコア2に移すのだが、土壌農耕モジュールに厨房モジュールという重要なユニットがコア1のドッキングポートに接続されている為、そこを行き来する回廊が欲しいのだ。

こうしてコア1と接続用の回廊で空気を分けてから、減圧する。

減圧し、臭いが漏れないようにしてから、塩素系洗剤の出番だ。

作業を行う室戸飛行士は、与圧室内ながら酸素マスクをしている。

塩素を扱う以上、当然の事だろう。

そして、あちこちを開けて作業を行う。

恐らくは汚いものもこびりついていただろう。

プロは一切を外に漏らさず、黙々と作業を続ける。


このメンテナンス作業は、二週間の滞在期間のうち、5日をかける。

一気にやってしまいたいというのはあるが、なにせ無重力空間であり地上と勝手が違う。

作業時間は、労働基準監督署以上に厳しいNASAのチェックが入る為、長時間は確保出来ない。

その上、基本的に使い切りを想定している宇宙船な為、メンテナンスしやすい構造ではない。

時間がかかるのだ。



「どうです?」

一日の作業後に室戸飛行士に聞いてみた。

「ここに来る時も、地上でも頭の中で想像し、作業を何度も繰り返し練習して来ました。

 ですが、やはり宇宙は想像以上に難しい現場ですね」

そう答える。

理屈では、無重力でネジを回すと、体が反作用で反対の回転をする事は分かっていた。

それで掴まったり、足を踏ん張ったりするのは理屈では分かる。

実際にその態勢で作業をすると、やはり勝手が違う。

いつものペースで作業出来ない。


「良い部分もあります。

 マニュアルを持ってなくても良いところです。

 飛ばさないよう注意すれば、ずっと置いた場所に浮いてますからね。

 気をつけていれば、工具も宙に浮かして作業出来ます」

普通の態勢であれば、腰にぶら下げたり、机に工具箱を置いたりする。

しかし、足を踏ん張ったり、何かに掴まるような姿勢では、それが必ずしも最善とは言えない。

ネジとか電動ドライバーのようなものは厳重に扱うが、レンチとかペンチとかクリーナーとかレジンとかは、手の届く場所に浮かせて作業している。


「だから、迂闊に動かさないよう、作業中は出入り禁止ですよ」

「……というわけで、邪魔しないようにね」

そう船長に言われても、他の飛行士たちは

(言われなくても自分の仕事があるし、専門外の手伝いは出来ないっす)

そう思っていた。


作業は続く。

連載一個追加したので、どれか終わるまで3日に一回の更新とします。

次の更新は7月8日、その次は7月11日……となります。

連載が二本に戻ったらまた隔日更新に戻す予定です。

よろしくお願いします。

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