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軌道上の7人

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

打ち上げは無事に済んだ。

荷物もあるし、衛星放出をさっさと済ませたくもあり、宇宙船は最短コースで「こうのす」とのドッキングを目指して飛行する。

一次短期隊は、あえてドッキングまでに時間をかけて「狭い宇宙船での宇宙生活」を体験させた。

そこで宇宙酔い等をした上で宇宙ステーションに乗り移ったのだが、

「別に宇宙酔い、どこでなろうが関係無い」

と日米の飛行士が言い出し、寄り道せずの飛行となった。


日米の飛行士が無口なのに対し、他の5人は中々賑やかである。

「窓から地球が見える!!」

「地球はどうでもいいから、国は見えるかな?」

「そろそろ位置を交代しろ。

 私はまだ外を見ていないのだ」

「双眼鏡は無いか?」

「有るけど荷物の中だ」

「ああ、手元に置いておくんだった」

「日本人、君は見ないのか?」

「……地球とか、毎日気象衛星の情報で見てるんで」

「あ、そう……」

「いやいや、気象衛星のはともかく、やはり肉眼で見ると眩しいねえ」

「月は見えますか?

 我々の目標です」

「イスラム教の国の国旗には三日月が有るからかい?」

「違いますよ、我々が作った衛星は月を目指すんです」

「へえ、UAEはそんな事するんだ」

こんな感じである。


しばらくして、一回目の宇宙食。

前回の打ち上げでは、緊張して一回目の食事はせず、そのまま宇宙酔いに突入して逆に吐き戻し、宇宙ステーションについてからハッチが開くまで何も食べず、宇宙ステーションで久々の食事をした時は具合悪いのも吹き飛ぶレベルで空腹だった者もいた。

しかし今回は違う。

「船長、食事はまだかね?」

「……食べるの?」

「そりゃそうだ。

 飛行機だって離陸して巡行高度に達したら、機内食を出すじゃないか。

 機内食が無理ならワインかウィスキーを提供するぞ」

「宇宙船は旅客機ではない」

「細けえ事ぁどうでもいいんだよぉ!

 私は宇宙食というものが食べてみたいのだ!」

「そういえば、宇宙ステーションでは地上と同じ食事を出すんでしたよね?」

「ああ。

 日本のコンセプトは可能な限り地上と同じ生活を、だ。

 きっと君の国のカリーも用意しているだろう。

 それまで待ったらどうか?」

「私は『宇宙食』を食べたいのだ!!」

「……だったら『こうのす』で貴方用に本格宇宙食を出すよう、頼んでみようか?」

日本人の室戸飛行士が口を挟むと、インド人飛行士は首を横に振る。

「インドの食事はインドの食事で食べたいのだよ。

 私だけ仲間外れにしないで欲しいな。

 それはそれとして、宇宙食も食べたいのだ。

 今すぐ食べたいのだ。

 宇宙で宇宙食を食べるという機会は限られた者にしか与えられない。

 その機会をみすみす見逃すというのはおかしい。

 チャンスなんだから宇宙食を食べさせて欲しい。

 積んであるのは知っているぞ」


古いジョークがある。

『国際会議の名議長とは、日本人に発言させ、インド人を黙らせる事が出来る者だ』

米国人船長は納得した。


まあ宇宙食を出す事に大きな問題は無い。

密閉容器を開け、プロテイン保護されたサンドウィッチを出す。

湯を入れて紅茶パックを飲めるようにする。

「シナモン無い?」

「無え!」

「シナモン入れたらチャイを作れるんだけど」

「知らん」

「仕方ない。

 私の荷物からシナモンを出すか」

「じゃあ、何故聞いた?」

「自分の荷物は開けたくないだろ」

別な者が口を開く。

「コーヒーは無いですか?」

「パック置き場探して」

「カルダモンは無いのですか?」

「有る訳無い!!」

「アラビックコーヒーに変わるのですが」

「知らん!!」

「メイプルシロップなら有るよ」

「いや、カルダモンとは意味が違いますが」

「美味しいよ」

「私が貰います」

「インド人はスパイス入れてろよ!

 甘いものまで入れるな!」

「UKの流刑者の子孫よ、何かハラスメント的な事言ったか?」

「お前の方こそ、ハラスメント発言だぞ」

「だから、メイプルシロップ飲んで心を落ち着けましょう」

「おい日本人、俺を助けてくれよ。

 これから行くのは君の国の宇宙ステーションだろ……

 って、何やってんだ?」

「ん?

 ルチャ」

「は?」

「メキシカンが居るから、本家のルチャを教えて貰ってる」

「最高だよ!

 宇宙プロレス(ルチャ・エスパシアル)とか興行出来そうです」

「そう言いながら、何を関節技(サブミッション)かけてんだよ」

「アメリカプロレスはパワー塗れでいかん。

 デカい図体(ビッグボディ)だからショーとしては面白いが。

 いいか、ここは宇宙だ。

 関節技(サブミッション)かけたまま空中(マリポーサ)殺法を使える!!」

そう言って、足関節技で固めながら、腕の力で浮いて、回転しながら壁に叩きつける。

「おい!!

 日本人、大丈夫か!?

 あんたに怪我とかされたら、大変な事になるじゃないか!」

「誰も本気で技なんかかけてないから大丈夫だよ。

 それに……」

「それに?」

「重力が無いから威力が足りない。

 宇宙船の壁にはクッションもあるし、自分も受け身を完璧に取れた。

 そして衝突時の角度がわずかに浅かった」

「は???」

「自分は計算して技を受けたのだ」

「へ?

 プロレスごっこしながら、そんな事考えていたのか?」

「知性こそ格闘技者の源!

 その最大の本質は防御力の高さにある!」

(こいつ、無口で知性的かと思ったが、意外に脳キンなのか……)


どうやら宇宙酔いをしているような退屈とは無縁のようである。

宇宙船はドッキングの為に中とは裏腹に静かな虚空を進んでいく。

※作者のインド人観は、大学の時の留学生を見てのものです。

 結構、喋り出したら止まらない人でした。

(指導教官に怒られたら、流石に研究するふりして静かになりましたが)

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