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短期滞在組の後始末

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙ステーション「こうのす」は思いの他大きくなった施設だ。

与圧室については中々の容積を持っている。

しかし、ISSと比べれば建築構造(トラス)を持っていない為、船外の使い勝手は良くない。

旧ソ連の宇宙ステーション「ミール」の拡張型であり、ドッキングポートの数以上の拡張性は無い。

頑丈な骨組みであるトラスを持つISSは、そこに大きな太陽電池パドルや放熱板(ラジエーター)等を設置出来る。

ISSの元となった「フリーダム計画」では竜骨(キール)と呼ばれるトラス構造に、サービスベイ、つまり衛星などの組立や整備を行う施設を置く予定もあった。

現在は非与圧の物資を係留する場所として使用している。

「こうのす」はそういう構造が無い為、物資は外壁にフックで固定している。

ISSのトラスは、居住区よりも遥かに広く展開している。

鳥が翼を広げるように両翼に太陽電池パドルを展開している。

この構造による、重心の変動が少ない。

逆に幅が狭い「こうのす」の場合、重いモジュールを接続するとその度に重心がブレる為、重量配分を計算し直している。

スペースシャトル他、7機もの宇宙船とドッキングしても影響がほとんど無かったISSに比べれば、やはり「こうのす」は中型宇宙ステーションに過ぎない。


「こうのす」にもトラス程ではないが、外部に展開した構造はある。

宇宙遊泳で素人でもはぐれない巡らされた金網「バードケージ」。

そのバードケージを張る支柱かつ、太陽電池パネルやアンテナの設置したポールである。

トラスのような頑丈な構造じゃないし、設置スペースも大きくはない。

そこで、先日までいた短期滞在隊が持ち込んだセンサー類は、強度的には脆弱なバードケージの外側に設置された。

ポールからは延長コードを使って電力供給をしている。


こういう増設方式だから、恒久設置は出来ない。

軽量で小型の計測器である為、一定期間が来たら外す。

数週間後には第二次短期隊が訪れ、同じように臨時計測機器を設置する。


「パリのポンデザール橋みたいに、機器を金網につけまくられてもねえ」

以前、パリ・セーヌ川に架かる芸術橋(ポンデザール)に、恋人同士が永遠の愛を誓い、南京錠に二人の名前を書いて欄干の金網に鍵をかけるという事が流行した。

結局、2015年には南京錠付の金網を撤去した。

恋人たちにつけられた南京錠の総重量が50トンにもなったからだ。

「こうのす」はバーベキュー航法、熱を均等に受ける為に自転しながら軌道を周回する。

バードケージはその外延部にあたり、今は全然大丈夫だが、計測機器をポンデザール橋の南京錠のように大量につけたまま回転すると、遠心力で金網が壊れる可能性がある。

それに、電源部分から結構なタコ足配線をしている。

ビニールテープで補強はしているが、あまり奨められる配線ではない。


というわけで、役割を終えた機器を船外活動で外す事にした。

「行ってみる?」

休憩時間中のミッションスペシャリストにも聞いてみた。

船外活動、宇宙遊泳は酸素タンクの数の問題で、頻繁に出来る事ではない。

船長、副船長が「やってみる?」と聞く、即ち運用スタッフの許可が無いと勝手には出来ない。

エアロックも、運用スタッフだけが開け方を知っている。

これは、万が一の「ノイローゼになって船外脱走」という事態を防ぐ為である。


潜水艦では、上から爆雷を落とされ続けると、その爆音に恐慌状態に陥った水兵が、潜水中なのにハッチを開いて逃げようとする事態が起こる。

南極や山岳キャンプでも、ノイローゼになると絶叫しながら外に逃げてしまうケースがあった。

なので、宇宙経験が複数回あり、正規の訓練を受けている飛行士、つまり船長と副船長、時には短期滞在隊の船長(宇宙ステーション内では副船長補佐)のみがエアロックを開ける権限を持つ事とした。

(緊急事態時には、地上もしくは運用スタッフが非常事態(エマージェンシー)コードを入力し、誰でもエアロックもしくはドッキング解除を行えるようになる)


そんな宇宙遊泳の絶好の機会だが、生野、中島の両男性飛行士は遠慮した。

興味が無いわけではない。

船外服無しで宇宙遊泳体験出来る、拡張軟式与圧室で時々何もせずに浮かんでいる時がある。

「いや、あれは何もせずに浮いてるのが好きなんで」

「そうそう、用事があるわけでなく、ただ漂ってるだけが良いんですよ」

「言ってみれば、海水浴場で浮き輪に嵌まって、ただ浮いてるだけ?」

「そんな感じですねえ。

 まああの部屋、寒いのだけが難点ですが」

そんな感じで、「任務としての宇宙遊泳」は嫌なようだ。

井之頭副船長と竹内飛行士が船外活動で手際よく不要となった計測装置を外す。

ロボットアームがすぐ傍まで来ているから、そこにあるネットに外した計測装置を入れる。

不要器材を収めたアームが戻っていくと、

『僕は戻るけど、竹内さんどうする?

 まだ30分くらい酸素の余裕はありますが』

戻って、エアロックに入り、宇宙服を脱いで通常状態になるまでの15分を除く30分くらい、つまり45分以上分の酸素が残っていた。

『問題なければ、このまま30分なら居させて下さい。

 やっぱりこの景色、いいですよー』

『了解。

 じゃ、酸素残量に気をつけて下さいね』


三次隊もそれなりに宇宙生活を満喫出来る時期になっていた。

「私は、ルーチンワークばっかりなんで、気分転換で外出たいです」

女性飛行士が志願し、バードケージ内ではあるが船外活動をする事になった。

『しっかり命綱は頑丈なところに固定して下さい』

『大丈夫です。

 ポールと金網の繋がっている場所につけてます』

『では、裏側のネジが動かないようにして下さい』

『分かりました』

作業は淡々と続く。

淡々としているが、彼女は宇宙での作業が楽しいようだ。

『じゃあ、終了です』

『まだ酸素残量結構ありますね』

『まだ居ますか?』

『よろしければ』

『じゃあ、安全な籠の中で10分自由にして良いです』

『ありがとうございます!!!!』


彼女は手足を拡げて地球を見ながら、宇宙ステーションの周囲を漂っていた。

一方、男連中は船内で

「宇宙服無くても、これくらい出来るし……」

と膝を抱いて丸くなり、船内でクルクル回転していた……。

(場所はともかく、フワフワ浮くのは好きなようだ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 宇宙遊泳、したい人と、そうでもない人がいらっしゃるのですね・・・。人間らしくて共感しました<(_ _)>(*^-^*)
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