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とある一日の様子

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「…………あんな音楽、よく見つけましたね」

不機嫌な顔で起きて来た生野飛行士が文句を言った。

「あんな快適な部屋で過ごしていながら、随分仏頂面だね」

「ええ、お陰様で最後の最後に素晴らしい歌をモーニングコールで聞かされましたからね」

そう言いながら、コア1のバスルームの方に入る。

朝から入浴ではなく、蒸しタオルで顔を拭き、吸引式シェーバーでヒゲを剃る為だ。


生野飛行士は土壌農耕モジュール「でんえん」を担当するミッションスペシャリストである。

彼の生活を追ってみよう。


彼は身だしなみを整えると、厨房モジュール「ビストロ・エール」に入る。

コーヒー豆を電動ミルに入れ、遠心装置に置いてスイッチを入れる。

挽き終わった豆を、飛び散らかさないよう気をつけながら、今度はロートに入れる。

フラスコに水を入れ、サイフォン式ドリッパーをセットする。

普通はここでアルコールランプを使うのだが、宇宙ステーション内で炎は厳禁。

丸底フラスコでなく、平底フラスコで、それが接するIH調理器のスイッチを入れ、そしてまた遠心装置を動かす。

数分後、出来上がったコーヒーをパックに詰め替える。

「まだ?」

他の飛行士もコーヒーを飲む為に待っていた。

出来たコーヒーを持って、急いで交代する。


土壌農耕モジュール「でんえん」の、抗菌服を着ずに入れるスペース、準備室は狭い。

そこには農場を管理する端末と、収穫物の殺菌装置、そして抗菌服が大量に収納されたロッカーがある。

ここで抗菌服に着替え、第1の部屋に入り殺菌処理をし、第2の部屋を通過し、第3の部屋から土壌のある部屋に入る。

逆に出る時は、第3の部屋で殺菌液による処理を行い、第2の部屋で抗菌服を脱いでゴミ箱に捨て、第1の部屋で手指消毒をして宇宙ステーション本体に通じる準備室に入るドアを開ける。

第1から第3の部屋は横並びとなっていて、第3の部屋から作物を殺菌装置に、第2の部屋のゴミ箱の中も準備室から取り出せる。

先日までは、短期滞在で来ていた老先生の助手として、土壌室に入って作業をしていたが、現在は専ら準備室からモニタリングしていて良い。

数値データや映像確認なら個室でも出来るが、ここにはロボットがいて、ゴーグルを付け、マニュピレータを操作する事で、あえて中に入らずとも遠隔操作で作業が出来るし、その様子を撮影記録も出来る。

大体の任務の時間は、この準備室に詰めている。


内線に呼び出しが入る。

まあ大声を出せば聞こえるが。

朝食が出来たようだ。

今日の朝食は朝粥御膳(ジャポネーゼ・リゾット)であった。

出汁巻き玉子でなくプレーンオムレツ、漬物はピクルスっぽいという差異はあるが、まあいける朝食であった。

食後にはカプチーニが出される。

アントーニオ料理長は、朝食は割と日本人に寄り添ってくれる。

軽め、可能な限りなんちゃって和食。

塩鮭焼き魚でなく、サーモンのムニエルになってしまうのは致し方ない。

だが、食後のコーヒーとデザートに関しては頑なな為、コーヒーは飲みたければ自分で好きな淹れ方で飲め、というルールになったのだ。


朝食後、またモジュールに籠る。

準備室には研究用ラックが2基ある。

両方同じ機能なのだが、それは1機が故障した時に困らないようバックアップとして使う為だ。

土壌室の内部に菌類が異常繁殖していないか、室内の空気を計測する。

そしてロボットを操作し、葉を1枚採集するか、間引きした若芽を密閉容器に入れて、準備室に送る。

それをラックに入れて成分分析を行う。

これは日課である。

毎日植物の状態を分析し、地上に送る。

バックアップとしてステーション内のコンピュータにも貯めておくが、定期的に記録ディスクに書き込んで、サーバ容量を使い過ぎないようにもする。


そうこうしている内に、午前は終わる。

その前にやっておけねばならない事がある。

昼食を摂るか否かの報告だ。

「食堂で食事する」「弁当を依頼する」「食べない」の三択となる。

これは任務(ミッション)で手が離せない場合を考慮し、モジュール内で食べるとか、船外活動中で食べられないとかを予め報告する。

料理長はそれで食事を作る。

昼食は一次隊のベルティエ料理長、二次隊の石田船務長、三次隊のアントーニオ料理長いずれもサンドウィッチやおにぎり、バゲットやパニーニといったパンを焼いたもの、こういう手軽なものとしてくれる。

食堂に集まって食べるも、弁当にしてモジュール内で食べるも大して変わらない。

(後片付けの手間だけが変わる)


農業モジュールでの勤務時間は6時間で、午前中に3時間(8時~12時で2時間休憩可能)、午後の日中が2時間(13時~15時)、夜間が2時間(18時~22時内の任意の2時間)となる。

90分で地球を一周する宇宙ステーションは本来24時間体制だが、人間の都合に合わせて光を調整し、昼と夜を作っている。

実験で、昼夜分けているものと、常に昼の状態にしているものとがあり、それらのデータ収集の為に夜間勤務時間もあるのだ。

だが、15時には一旦仕事が終わるのは羨ましいものがある。

昼食を食べなかった者は、この昼の作業終了後に軽食を頼む事も可能だ。

ただし飲み物は自分で作る。


生野飛行士は15時過ぎると、一旦個室に引き上げて着替え、トレーニングスペースに入る。

ここでノルマの2時間筋トレを行う。

筋トレで自分の身体(バイタル)データを解析されるところまでが任務で、計8時間勤務なのだ。


夕食は時間が長い。

その間にいつ来て食べても構わない。

個室やモジュールに持っていって食べても構わないが、余程の事が無い限りは食堂で食べる。

それは「コミュニケーションも宇宙生活では重要」だからだ。

時には協力し合う。

お互いの任務の状況を把握しておくことも必要だ。

雑談しながら近況を語り合う。

コミュニケーションは、今のところ起きていないが、非常時においては生存の為重要なものとなる。

仕事、研究以外の雑談も、ある意味「任務の内」である。


夜の仕事はデータ確認、点検程度で軽い。

ゲームしたり、タブレットをいじりながら、という気の抜けた作業こそ許されないが、食後のコーヒーを飲みながらの端末操作とかは問題とされない。

生野飛行士はハンドグリップ握力トレーニング器やエキスパンダー、更にはゴムを持ち込んで軽く筋トレしながらモニタリングしている。


作業終了。

今日からはまた、コア1の棺桶のような個室で就寝する事になる。

「まあ、仕事で来てるって意識を持つ上では、余り快適過ぎない方が良いかもね」

そう言って自分を納得させる。

だが密かに

(一ヶ月に一回くらいは、あの快適なモジュールを使わせて貰ってもいいんじゃね?)

とも思っているのだった。

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