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準備はよろしいか?

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

あと1年ある。

あと半年ある。

あと3ヶ月ある。

あと1ヶ月ある。

あと二週間ある。

今週中にどうにかすれば良い。

どうしようあと3日しかない。

ヤバイ、あと2日でどうしろって言うんだ?

ヤバイヤバイヤバイ、明日だよ!


もうどうにでもな~れ~。


ダメ人間はこうやって追い込まれていく。

組織はここまでダメなものは、多分無い。

だがだらしなくなくても、追い込まれる事はある。


「この件、まだ余裕あるよね。

 ちょっと先にこっちをやってくれない?」

人的資源(リソース)が少ない組織でよくある事だ。


人的資源(リソース)が過剰なくらいあるインドは、こういう事で遅延はしない。

普通にギリギリまでやらないだけだ。

規模の割に、担当している宇宙案件が多いUAEの宇宙機関と、研究の規模の割に院生・学生が多くは無いオーストラリアの大学で顕著であった。


まあ、やらねばならないジョブの方が重要ではあった。

JAXAやNASAの管制室との間でネットワークを構築。

リモートでデータを取得し、今どのような状態かを自宅に居ても把握出来るようにする一方、セキュリティをしっかりする。

小型衛星(キューブサット)に指令を与える、データを送って貰える、データを共有する。

指令をするプログラムをサーバに置いておく。


衛星の軌道や運用計画表について、NASAのチェックの厳しさは日本が悩まされた通りである。

今回はそれに日本の役所行政用の書類提出というのが加わる。

これは最近は電子化しているし、JAXA職員が出来る限りバックアップして「なんでこんな事まで?」と文句を言われないようにしているが、それでも手続きは多い。

本来は何年も前に計画が決まり、国際協力事業として役所が動いて書類を纏め、正式なものとして協力書に署名がなされた後はただ科学技術的な課題に没頭するものである。

1年ちょっと、しかも総理とその国の首脳の間で決めてしまい、数ヶ月前に飛行士が決まり、それから急遽コンペをして放出衛星を決定する、なんて事をした為に後から書類仕事がついて来たのだ。



ーーーーーーー

「普通、計画を決めてから動き出しませんか?

 なんで走り出してからマラソンコースを決める真似をするのでしょう?」

「いい加減にその疑問は感じるな。

 総理(トップ)が決めてしまってから降りて来た案件なんて、計画を後から辻褄合わせするもんだ」

「それって、泥棒を捕まえて縄を綯うって言うのでは……」

「もっと悪いな。

 誰かを捕まえた後で、納得いく罪状を考えるようなものだ」

「ああなんだ、それは国がよくやる事ですね。

 彼等がその方法でやれ、と言って来たのも納得です」

ーーーーーーー



巷で出回ったジョークというかアネクドートであるが、実際はこんな事は言っていない。

(取材を受けた秋山が「政府の上の方で決まったので、それを実現するだけです」とは答える為、マスコミが拡大解釈&悪意付着させたかもしれない)

実際のJAXA有人宇宙船部門内では

「口動かすより手を動かせ!

 恨みつらみを考えるより、誤字脱字を減らす事に神経を使え。

 上空を通過する衛星は、留まって待ってはくれないのだ!」

てなノリである。

(有人宇宙船部門が打ち上げ直前にいつもテンパってるだけで、他の部門は余裕は持ってはいないが、火を噴くような拙い計画進行(スケジューリング)はしていない)


このノリを他国に押し付けるわけにもいかない。

彼等のペースでやらせている。

じりじりとしながら、他国の準備が整うのを待つ。

NASAのようにせっつかないのが、優しさなのか、逆にリーダーシップが欠如していて拙い部分なのか。

とにかく、小型衛星(キューブサット)の運用計画、ミッションスペシャリストの宇宙ステーションでの作業予定、JAXA及びNASA管制室とのネットワーク、モバイルでの衛星管制等が整った。

最低限のものは揃った。

一安心。

そこで聞いてみた。

「手荷物というか、ハンドキャリーで宇宙に持っていくものは無しで良いのですね?」


回線越しに

(忘れてた…………)

という心の声が感じ取れる。


生活物資は日本が準備した。

宇宙ステーションから放出する衛星や、宇宙ステーションに取り付ける機器の準備は各国で終えた。

水や酸素は打ち上げ国であるアメリカで調達している。

しかし、その他の物、例えばテレビ放送向けにシャボン玉を吹いてみるとか、サッカーボールでバナナシュートを蹴ってみせるとか、ダンブルを振り回してみるとか、そういうものは各国で準備する事になっているし、何を持ち込むのか事前に調べておく必要があるのだ。

可燃物とか発火するような物を持ち込まれても困るし。

テレビ中継用に限らず、例えばその国のVIPからカメラを預かって地球を撮影するとか、研究機関が所定任務達成(フルサクセス)後に行って貰う追加段階(エキストラフェーズ)用の実験材料等も考えられる。


「ミスターアキヤマ、リミットはいつだったか?」

「3日後ですよ」

「まだ3日有ったか!」

「いや、もう3日しか無いぞ」

「とにかく、ギリギリまで待って欲しい。

 今から纏める。

 無いかもしれないが、今から聴取する!」

「こちらも同じです」

「我々もだ」


秋山は溜息を吐きながら、大学時代によく見た光景を思い出していた。

あと1ヶ月ある……

あと二週間ある……

今週中にどうにかすれば良い……

どうしようあと3日しかない……

ヤバイ、あと2日でどうしろって言うんだ……?


(もうどうにでもな~れ、となりませんように)




そして今この時、現在既に宇宙ステーションに滞在している第一次短期隊のミッションスペシャリストを派遣した中東のとある国では、もっと酷い光景が展開されていた。

「まだ衛星からのデータ解析用サーバが構築出来てないのか?」

「もう諦めました」

「諦めてどうする?」

「とりあえずデータを受信だけは出来るので、溜めるだけ溜めておいて、彼が地球に帰還した後で解析しましょう」

「そもそも二週間じゃ完成しませんから」

「……君ら、日本から打ち上げ日程知らされてからの間、何をしていたんだ?」

「いや、まだ二ヶ月ある、まだ一ヶ月あるって思っていたんですけどね。

 時間が過ぎるって早いですねえ……」

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